29 / 65
〈29〉2人の王子さま 4
しおりを挟む
紅茶を一口飲んだメアリが、黒い葉に覆われた天井に、ホッと吐息を吹きかける。
対面に座って様子を伺っていた2人の王子も、互いに顔を見合わせて、真っ白いカップに口を付けていた。
「おぉ! うまいな!」
「ええ、本当に。魔の森で紅茶が飲めるなんて、思っても見ませんでした」
紅茶が持つ魔力とでも言うべきか、王子たちの雰囲気が、自然と緩んでいく。
自分が淹れた紅茶を誉められたリリも、鼻高々だ。
相手が技術先進国のドワーフだからと、少しだけ心配もしていたが、どうやら杞憂だったらしい。
出だしはまずまず、と言ったところね。
そんな思いを胸に、口元を小さくほころばせたメアリが、2人の王子に視線を向ける。
「まずは状況の整理からで良いかしら? シラネ殿下とロマーニ殿下は、どうしてここに?」
「それは……」
「……ちっ」
初手は、他愛もない会話から。
そう思っての質問だったのだが、なぜか王子たちが顔を見合わせて押し黙る。
「イヤだ。絶対に言わねぇ!」
ふん! と鼻息を荒くして、シラネ王子が顔を背けていた。
メイドらしい澄まし顔で座るリリを流し見て、ロマーニ王子に視線を向ける。
今後はわからないけど、おそらくは彼の方が、組みやすい。
そんな思いが伝わったのか、カップから立ち上る湯気と、リリ、それからシラネ王子を見比べたロマーニ王子が、小さく肩をすくめて見せた。
「実はボクたち、道に迷っちゃいまして」
聞こえて来たのは、そんな言葉。
「おい、馬鹿! 言うんじゃねぇよ!」
ガバッと振り向いて顔を赤くするシラネ王子の様子を伺う限り、嘘ではないようだ。
ドワーフは、その一生を壁の中で暮らすと聞くが、迷った、とはいったい?
「でもさ、兄さん。このままだとボクたち、飢え死にだよ?」
「うっ……。そっ、そうだけど……! ちっ! 勝手にしろ!」
「うん、そうする。ありがとう、兄さん」
どうやら話もまとまったみたい。
大きく息を吐き出したロマーニ王子の顔に、影が落ちていく。
「火の神は双子を嫌う。故に双子は災いをもたらす。そんなおとぎ話をご存知ですか?」
諦めと悲しみが混じった微笑みを浮かべたロマーニ王子が、視線をうつむかせながら、そんな言葉を口にした。
城の書物はすべて頭に入っているけど、さすがにドワーフの言い伝えまでは知らなかった。
チラリとリリを見ても、首が横に振られるだけ。
「鍛冶師にとって火は命です。火の神に嫌われたくない彼らは、10歳の誕生日を待って、落ちこぼれた方を神に捧げる。僕は10日前に死ぬはずでした」
火の神に捧げる儀式の最中に、シラネ王子が乱入し、隙をついて連れ出した。
光の神を信仰する人間の里なら、きっと……。
そんな思いを持って山を越え、ここで迷ったらしい。
「本当は兄さんだけでも、国に返したかったんですが……」
「ふん! ロマーニを犠牲にして生き残る未来など必要ない! 死ぬときは一緒だと決めている!」
「そういう訳でして」
ロマーニ王子は困り顔で肩をすくめるものの、どことなく嬉しそうにも見えた。
たぶんだけど、嘘はついてない。
「リリ、良いかしら?」
「メアリ様のお心のままに」
そんな言葉を口にするけど、リリの目が少しだけ潤んでいる。
やっぱり、彼女は良い子ね。
それに、この2人も。
「シラネ殿下、ロマーニ殿下。私たち、ゼロから村を作っているの。あなた達の力を貸して貰えないかしら?」
「ゼロから!?」
「村、ですか……」
互いに顔を見合わせた2人の王子様が、晴れ晴れとした笑みを見せる。
「熱いな!」
「えぇ、面白そうですね」
「え? 村!? あれって村づくりだったんですか!???」
ずっと澄まし顔だったリリが、その目を大きく見開いていた。
「あら? 言ってなかったかしら?」
「聞いてませんよ!!」
言ってなかったみたい。
そうして、4人になった帰り道。
「メアリ様。棚を作れる人が欲しい、って言って、ここまで来ましたよね? もしかして、最初からわかっていたんですか??」
「あら? なんのことかしら? そんなこと言ってないわよ?」
「え? あれ??」
不思議そうに見上げるリリに向けて、ふふふと笑って見せた。
対面に座って様子を伺っていた2人の王子も、互いに顔を見合わせて、真っ白いカップに口を付けていた。
「おぉ! うまいな!」
「ええ、本当に。魔の森で紅茶が飲めるなんて、思っても見ませんでした」
紅茶が持つ魔力とでも言うべきか、王子たちの雰囲気が、自然と緩んでいく。
自分が淹れた紅茶を誉められたリリも、鼻高々だ。
相手が技術先進国のドワーフだからと、少しだけ心配もしていたが、どうやら杞憂だったらしい。
出だしはまずまず、と言ったところね。
そんな思いを胸に、口元を小さくほころばせたメアリが、2人の王子に視線を向ける。
「まずは状況の整理からで良いかしら? シラネ殿下とロマーニ殿下は、どうしてここに?」
「それは……」
「……ちっ」
初手は、他愛もない会話から。
そう思っての質問だったのだが、なぜか王子たちが顔を見合わせて押し黙る。
「イヤだ。絶対に言わねぇ!」
ふん! と鼻息を荒くして、シラネ王子が顔を背けていた。
メイドらしい澄まし顔で座るリリを流し見て、ロマーニ王子に視線を向ける。
今後はわからないけど、おそらくは彼の方が、組みやすい。
そんな思いが伝わったのか、カップから立ち上る湯気と、リリ、それからシラネ王子を見比べたロマーニ王子が、小さく肩をすくめて見せた。
「実はボクたち、道に迷っちゃいまして」
聞こえて来たのは、そんな言葉。
「おい、馬鹿! 言うんじゃねぇよ!」
ガバッと振り向いて顔を赤くするシラネ王子の様子を伺う限り、嘘ではないようだ。
ドワーフは、その一生を壁の中で暮らすと聞くが、迷った、とはいったい?
「でもさ、兄さん。このままだとボクたち、飢え死にだよ?」
「うっ……。そっ、そうだけど……! ちっ! 勝手にしろ!」
「うん、そうする。ありがとう、兄さん」
どうやら話もまとまったみたい。
大きく息を吐き出したロマーニ王子の顔に、影が落ちていく。
「火の神は双子を嫌う。故に双子は災いをもたらす。そんなおとぎ話をご存知ですか?」
諦めと悲しみが混じった微笑みを浮かべたロマーニ王子が、視線をうつむかせながら、そんな言葉を口にした。
城の書物はすべて頭に入っているけど、さすがにドワーフの言い伝えまでは知らなかった。
チラリとリリを見ても、首が横に振られるだけ。
「鍛冶師にとって火は命です。火の神に嫌われたくない彼らは、10歳の誕生日を待って、落ちこぼれた方を神に捧げる。僕は10日前に死ぬはずでした」
火の神に捧げる儀式の最中に、シラネ王子が乱入し、隙をついて連れ出した。
光の神を信仰する人間の里なら、きっと……。
そんな思いを持って山を越え、ここで迷ったらしい。
「本当は兄さんだけでも、国に返したかったんですが……」
「ふん! ロマーニを犠牲にして生き残る未来など必要ない! 死ぬときは一緒だと決めている!」
「そういう訳でして」
ロマーニ王子は困り顔で肩をすくめるものの、どことなく嬉しそうにも見えた。
たぶんだけど、嘘はついてない。
「リリ、良いかしら?」
「メアリ様のお心のままに」
そんな言葉を口にするけど、リリの目が少しだけ潤んでいる。
やっぱり、彼女は良い子ね。
それに、この2人も。
「シラネ殿下、ロマーニ殿下。私たち、ゼロから村を作っているの。あなた達の力を貸して貰えないかしら?」
「ゼロから!?」
「村、ですか……」
互いに顔を見合わせた2人の王子様が、晴れ晴れとした笑みを見せる。
「熱いな!」
「えぇ、面白そうですね」
「え? 村!? あれって村づくりだったんですか!???」
ずっと澄まし顔だったリリが、その目を大きく見開いていた。
「あら? 言ってなかったかしら?」
「聞いてませんよ!!」
言ってなかったみたい。
そうして、4人になった帰り道。
「メアリ様。棚を作れる人が欲しい、って言って、ここまで来ましたよね? もしかして、最初からわかっていたんですか??」
「あら? なんのことかしら? そんなこと言ってないわよ?」
「え? あれ??」
不思議そうに見上げるリリに向けて、ふふふと笑って見せた。
26
お気に入りに追加
3,876
あなたにおすすめの小説

絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので
ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。
しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。
異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。
異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。
公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。
『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。
更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。
だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。
ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。
モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて――
奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。
異世界、魔法のある世界です。
色々ゆるゆるです。

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~
紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。
毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

【完結】『婚約破棄』『廃嫡』『追放』されたい公爵令嬢はほくそ笑む~私の想いは届くのでしょうか、この狂おしい想いをあなたに~
いな@
恋愛
婚約者である王子と血の繋がった家族に、身体中をボロボロにされた公爵令嬢のレアーは、穏やかな生活を手に入れるため計画を実行します。
誤字報告いつもありがとうございます。
※以前に書いた短編の連載版です。

傷物令嬢シャルロットは辺境伯様の人質となってスローライフ
悠木真帆
恋愛
侯爵令嬢シャルロット・ラドフォルンは幼いとき王子を庇って右上半身に大やけどを負う。
残ったやけどの痕はシャルロットに暗い影を落とす。
そんなシャルロットにも他国の貴族との婚約が決まり幸せとなるはずだった。
だがーー
月あかりに照らされた婚約者との初めての夜。
やけどの痕を目にした婚約者は顔色を変えて、そのままベッドの上でシャルロットに婚約破棄を申し渡した。
それ以来、屋敷に閉じこもる生活を送っていたシャルロットに父から敵国の人質となることを命じられる。


【完結】召喚された2人〜大聖女様はどっち?
咲雪
恋愛
日本の大学生、神代清良(かみしろきよら)は異世界に召喚された。同時に後輩と思われる黒髪黒目の美少女の高校生津島花恋(つしまかれん)も召喚された。花恋が大聖女として扱われた。放置された清良を見放せなかった聖騎士クリスフォード・ランディックは、清良を保護することにした。
※番外編(後日談)含め、全23話完結、予約投稿済みです。
※ヒロインとヒーローは純然たる善人ではないです。
※騎士の上位が聖騎士という設定です。
※下品かも知れません。
※甘々(当社比)
※ご都合展開あり。

赤貧令嬢の借金返済契約
夏菜しの
恋愛
大病を患った父の治療費がかさみ膨れ上がる借金。
いよいよ返す見込みが無くなった頃。父より爵位と領地を返還すれば借金は国が肩代わりしてくれると聞かされる。
クリスタは病床の父に代わり爵位を返還する為に一人で王都へ向かった。
王宮の中で会ったのは見た目は良いけど傍若無人な大貴族シリル。
彼は令嬢の過激なアプローチに困っていると言い、クリスタに婚約者のフリをしてくれるように依頼してきた。
それを条件に父の医療費に加えて、借金を肩代わりしてくれると言われてクリスタはその契約を承諾する。
赤貧令嬢クリスタと大貴族シリルのお話です。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる