公爵令嬢 メアリの逆襲 ~魔の森に作った湯船が 王子 で溢れて困ってます~

薄味メロン

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〈21〉新たな出会いへ

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 メアリが魔の森に追放されてから16日が経過した、その日。

「やっと、帰ってくれました……」

「お疲れ様。綺麗な動きだったわよ」

「本当ですか!? ありがとうございます!」

 朝日が照らす魔の森に、リリの嬉しそうな声が響いていた。

 紅茶を置いたメアリが、ゆったりとした椅子から立ち上がり、リリの髪に手を伸ばす。

「接客も堂々としていたし、ラテス殿下 相手に全然怯まなかったでしょ。さすがは私のリリね」

 合格よ、なんて言葉と共に顔を寄せて、微笑んでくれる。

 切れ長のステキな瞳が、いつもより近くに輝いていた。

 髪を梳く細い指先が温かくて、ちょっとだけくすぐったい。

「ありがとうございます!」

 こうして、誰かに誉められるのなんて、何年ぶりだろう?

 差し込む日差しの暖かさと相まって、思わず目が閉じてしまう。






ーーだけど、違う!

 そうじゃない!!



 ぐわっ、と目を開いたリリが、黒い木のテーブルをぺしぺし叩く。

「何が、合格よ、なんですか! なにが!!」

 昨日はお客様がいたから大人しくしていたけど、今はもう、遠慮はいらない。

 ここにいるのは、雇い主と従業員だけだ。

 仕事の不満は雇い主にぶつけろ! セクハラのイライラは、急所にぶつけろ! 

 それがメイド長の教えだ。

「18時間後に王子様が来る、なんて突然 言い出すの、本当にやめてください! すっごく驚くんですから!!」

 しかも、現職の。メアリのような追放された人じゃない。

 まぎれもない本物の王子様だ。

「国賓ですよ! こくひん! 前日に言われても間に合うわけないじゃないですか!!」

 もう一度 グワっと目を見開いて、ペシペシ叫ぶ。

 大きなキノコたちにお願いして、男湯をつくってもらって、

 雨が当たらない最低限の宿泊環境を整えてもらったけど、

 それが精一杯だった。

「温泉だけは、すっごく気に入ってもらえたみたいですけどね! 温泉だけは!」

「そうね。自慢の温泉ですもの」

 と言うより、宿泊してもらった場所なんて、ただの小屋だから。

 平民ですらギリギリのレベルで、王子様を泊めて良い部屋じゃない。

「私の無駄に大きな家に泊まってもらえば良かったんですよ! 弟もまだ呼べてないから部屋はすっごく余ってるし! 私が小屋に泊まるって言ったのに!!」

「それはダメよ。だってあれは、リリとリリの弟の家ですもの」

「くぅぅぅ!!!!」

 無駄に頑固なんだから!!

 なんて思うけど、それでもまぁ、ラテス王子の表情を伺う限り、満足して帰って頂けたと思う。

 と言うより、そう思いたい。

「青竜を搬入して、焼き始めた時は、どうしようかと思いましたよ!」

 古竜の右腕とまで呼ばれ、過去には数匹で王都を半壊させたと聞くのが青竜だ。

 それを澄まし顔で取り分けた苦労を兎に角、わかってもらいたい!

「美味しかったし、最高の おもてなし なのかもですけどね!」

 ラテス王子はまだしも、あの護衛の方には 多大なる苦労をかけたと思う。

 決死の覚悟から、キョトンとした顔へ。

 イケてるおじ様の感じが、台無しだった。

「とにかく! 報告、連絡、相談! 私はメアリ様のメイドなんですから、もう少し頼ってください!」

 本当にビックリするんですよ!

 なんて言葉と共に、リリがぷいと視線をそらす。

「あら? そうだったの? ラテス殿下を見ても、青竜を見ても、あまり驚いてなかったように見えたわよ?」

「すっごく驚いてましたよ!!」

 メアリが書いた看板を楽しそうに見上げる王子様を見たときは、緊張で死ぬかと思った。

 メアリの知り合いだとか、自分から望んで来るのだから!

 なんて言い繕ったところで、相手は本物の王子様だ。

「でもまぁ、突然のリトルドラゴンとか、増える召喚獣とか、賢者の実とか、そのへんと比べれると、まぁ、その……」

 あの時は

 死ぬかと思ったし!
 死ぬかと思ったし!

 死んでもどうしようもなかったし……。

 どう考えても、比べる対象が悪すぎる。

 その影響で、ある程度の耐性があったことは、否定出来そうにない。

「と・に・か・く! 早めに、相談! お願いしますね!!」

「うん、了解。リリの意見はわかったわ。私に任せなさい」

「……あれ、なんでだろう。全然、信用出来ない」

 くすくす笑うメアリを後目に、リリは自分で入れた紅茶を煽る。

 最高級の紅茶が、今はなぜか、ほろ苦く感じられた。
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