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〈16〉幼なじみの王子さま
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メアリが魔の森へと追放されてから2週間が過ぎた、その日。
魔の森から1番近いルリアルナの村に、一頭の早馬が駆け込んで来た。
「お待ちしておりました」
「ウィルソン! メアリ嬢は見付かりましたか!?」
焦りを滲ませた声に続いて、馬の背中からラテス王子が飛び降りる。
軽く膝を曲げながら着地し、見上げた先に見えたのは、困惑を絵に描いたような部下の姿。
「そ、そのことなのですが……」
メアリ嬢の手掛かりを見つけた。
そんな報告を受けて王都を飛び出して来たのだが、何事だろうか。
まさか、メアリ嬢が遺体で!?
などと言う悪い予感をかき消すように、部下の男が1歩だけ身を下げる。
「まずは、こちらを」
「む?」
左足を後ろに引き、掲げた手の先で森の方角を指し示す。
その先に見えたのは、
『メアリの宿屋。御予約承り中』
「…………は?」
巨大な木の看板だった。
「メアリ、の、宿屋……?」
これは確かに、メアリ嬢につながる手掛かりだろう。
女性の足跡や、ドラゴンとの戦闘痕、野宿の跡。
そんな予想たちとは大きく違うが、たぶん手掛かりだ。
「予約いたしますか?」
「そっ、そう、ですね。予約をしてもらえますか?」
「かしこまりました」
恭しく頭を下げた部下が、看板の下へと駆けていく。
その動きに合わせるように、森の影からプニプニとした大きなキノコが姿を見せた。
「あれは。メアリ嬢の召喚獣……」
幼い頃に一度見たきりだが、独特な雰囲気ゆえに良く覚えている。
正直、誤報も覚悟していた。
魔の森に入った人間をペンダントも使わずに見つけるなど、不可能に近い。
それ故に、ペンダントを持つ見届け人を探すのが一番の近道なのだが、それはバカ王子も分かっているだろう。
そう思っていたのだが、どうやら現実は、良い方向にハズレてくれたらしい。
「そうか、無事だったのか。さすがはメアリ嬢」
幼い頃から不思議な令嬢だと思ってはいたが、どうやら見積がまだまだ甘かったようだ。
ホッとした気持ちと共に、クスリとした笑いが漏れる。
「殿下、こちらを」
「む?」
どうやら話し合いも終わったらしい。
部下が持ち帰ったのは、1枚の紙。
『メアリの宿屋は、現在 工事中に付き、同伴者は1名まで。料金は見届け人であるリリの解雇。および雇用権の譲渡』
そんな文字が、書き込まれていた。
「メアリ様の字でしょうか?」
「おそらくは、そうですね」
メアリ嬢が好んで使うフロックスの花を模した判子も押されているし、間違いないだろう。
花言葉はたしか、『協調』と『同意』だっただろうか。
文字も非常に丁寧で、綺麗だ。
それにしても、
「すでにインクが乾いているね。この紙を用意したのは、最短でも昨日の夜かな」
「……つまり、メアリ様は、ラテス殿下の来訪を予想していたと?」
「ええ、間違いないでしょう」
見届け人の雇用に口を出せるのは、王族のみ。
次男兄さんが、魔の森に来る理由などないし、バカな兄なら、高笑いして破り捨てるであろう文章。
「現状の把握は出来なくても、僕なら動いてくれると思ったのかな」
信頼と言うよりは、冷静な分析だと思う。
理由はどうであれ、彼女のためなら造作もない。
「直ぐに根回しを済ませます。予約日時は明日だと伝えておいてくれますか?」
「かしこまりました」
深く頭を下げて立ち去る部下を後目に、ラテス王子が、ふぅ、と空を見上げる。
「やはりアナタは、面白い女性ですね」
肩をすくめた小さな声が、村の片隅に揺れていた。
魔の森から1番近いルリアルナの村に、一頭の早馬が駆け込んで来た。
「お待ちしておりました」
「ウィルソン! メアリ嬢は見付かりましたか!?」
焦りを滲ませた声に続いて、馬の背中からラテス王子が飛び降りる。
軽く膝を曲げながら着地し、見上げた先に見えたのは、困惑を絵に描いたような部下の姿。
「そ、そのことなのですが……」
メアリ嬢の手掛かりを見つけた。
そんな報告を受けて王都を飛び出して来たのだが、何事だろうか。
まさか、メアリ嬢が遺体で!?
などと言う悪い予感をかき消すように、部下の男が1歩だけ身を下げる。
「まずは、こちらを」
「む?」
左足を後ろに引き、掲げた手の先で森の方角を指し示す。
その先に見えたのは、
『メアリの宿屋。御予約承り中』
「…………は?」
巨大な木の看板だった。
「メアリ、の、宿屋……?」
これは確かに、メアリ嬢につながる手掛かりだろう。
女性の足跡や、ドラゴンとの戦闘痕、野宿の跡。
そんな予想たちとは大きく違うが、たぶん手掛かりだ。
「予約いたしますか?」
「そっ、そう、ですね。予約をしてもらえますか?」
「かしこまりました」
恭しく頭を下げた部下が、看板の下へと駆けていく。
その動きに合わせるように、森の影からプニプニとした大きなキノコが姿を見せた。
「あれは。メアリ嬢の召喚獣……」
幼い頃に一度見たきりだが、独特な雰囲気ゆえに良く覚えている。
正直、誤報も覚悟していた。
魔の森に入った人間をペンダントも使わずに見つけるなど、不可能に近い。
それ故に、ペンダントを持つ見届け人を探すのが一番の近道なのだが、それはバカ王子も分かっているだろう。
そう思っていたのだが、どうやら現実は、良い方向にハズレてくれたらしい。
「そうか、無事だったのか。さすがはメアリ嬢」
幼い頃から不思議な令嬢だと思ってはいたが、どうやら見積がまだまだ甘かったようだ。
ホッとした気持ちと共に、クスリとした笑いが漏れる。
「殿下、こちらを」
「む?」
どうやら話し合いも終わったらしい。
部下が持ち帰ったのは、1枚の紙。
『メアリの宿屋は、現在 工事中に付き、同伴者は1名まで。料金は見届け人であるリリの解雇。および雇用権の譲渡』
そんな文字が、書き込まれていた。
「メアリ様の字でしょうか?」
「おそらくは、そうですね」
メアリ嬢が好んで使うフロックスの花を模した判子も押されているし、間違いないだろう。
花言葉はたしか、『協調』と『同意』だっただろうか。
文字も非常に丁寧で、綺麗だ。
それにしても、
「すでにインクが乾いているね。この紙を用意したのは、最短でも昨日の夜かな」
「……つまり、メアリ様は、ラテス殿下の来訪を予想していたと?」
「ええ、間違いないでしょう」
見届け人の雇用に口を出せるのは、王族のみ。
次男兄さんが、魔の森に来る理由などないし、バカな兄なら、高笑いして破り捨てるであろう文章。
「現状の把握は出来なくても、僕なら動いてくれると思ったのかな」
信頼と言うよりは、冷静な分析だと思う。
理由はどうであれ、彼女のためなら造作もない。
「直ぐに根回しを済ませます。予約日時は明日だと伝えておいてくれますか?」
「かしこまりました」
深く頭を下げて立ち去る部下を後目に、ラテス王子が、ふぅ、と空を見上げる。
「やはりアナタは、面白い女性ですね」
肩をすくめた小さな声が、村の片隅に揺れていた。
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