15 / 65
〈15〉大聖堂の王子さま
しおりを挟む
「なに!? あの女が生きているだと!? 確かなのか!?」
「はっ! まずはこちらを」
メアリが魔の森へと追放されてから、10日が経過したその日。
王都にある大聖堂に、神官長の叫び声がこだましていた。
「……これは?」
「見届け人が書いた報告書です」
なるほど、などと言葉を漏らしながら、神官長が小さな紙を流し見る。
本来なら第1王子であるリアムに届けられる物だが、教会の権力で略奪されていた。
ーー罪人が育てた果実をいただきました。日を追うごとに、罪人の肌艶が良くなっている気が致します。
ーー罪人が狩ったリトルドラゴンの肉をいただきました。石の上で焼くバーベキュースタイルも美味ですが、さしみや、たたき、も至高の逸品だと学習致しました。
ーー罪人がお茶会を開いて下さいました。ここ数日はドラゴン襲撃の頻度も減り、落ち着いて甘味を味わえております。
「なんだ、これは……」
そこに並ぶのは、最悪の処刑場とまで呼ばれた魔の森にあるまじき姿。
初日を除外すると、グルメ日記のような文字が列んでいる。
「ありえん……。ありえんが、確かなのだな?」
「はい。こちらを」
「む?」
次いで部下が持ち込んだのは、緑の皮や牙。
その中には、黒い竜の皮も混じっている。
「リトルドラゴンに、黒竜か……。なるほど、確かに日記と一致するな」
「はい。第1王子も同じ考えらしく、神の啓示を求めておられます」
「そうか……」
小さく息を吐き出して、神官長が現状を鑑みる。
男爵令嬢に惚れた王太子は、すでに教会の操り人形だ。
予測不能な言動は多々あるが、令嬢の首はこちらがおさえている。
男爵家から令嬢に命令し、お願い、と言われば、どうとでもなる。
目障りだった婚約者も、神の身元に送ることは叶っていないが、遠ざける事には成功した。
「わかった。すぐに何名かの司祭を派遣しよう。死の森に送った公爵令嬢の件は捨て置く」
多少は長く生き延びているようだが、実家の権力から遠ざかった令嬢が出来ることなど、高が知れている。
それよりも先に問題となるのは、次男や三男の動きだ。
「王子たちに動きは?」
「次男は相変わらずハーブ以外に興味を示さず。三男は、数日前に王都を離れたと連絡が入っております」
「なに?」
王が姿を見せなくなり、誰もが次世代の争いに注目する中で、王都から離れただと?
なんだ? 何が起こった?
「三男の目的は?」
「どうやら、魔の森に向かわれたようです。目的は、メアリ様でしょう」
「なんだと!?」
王子自ら、魔の森に姫を助けに行ったとでも言うのか!?
それが公爵令嬢のため?
なるほど、血の半分は、バカな王太子と同じと言うわけか。
「まるで童話だな。王よりも作家の方が似合うのではないか?」
くくく、と声を漏らして、神官長が部下の男に目を向ける。
煌びやかなマントを翻して、神を模したとされる像を祈りと共に流し見た。
「三男の政治基盤に揺さぶりをかけろ。金を惜しむなよ。どれだけでも沸いてくる。好きに使え」
「かしこまりました。失礼いたします」
深々と礼をして、部下が足早に去っていく。
それにしても、
「あの広い森の中で、本当に出会えるとでも思っているのか?」
神の使徒に食われるも良し。
王位より姫を選んだバカと呼ばれるも良し。
「再開を果たした後に、2人で愛を誓い合い、古竜さまに食われて浄化されるがいい。童話に相応しい最後だな」
くははは、などと声を漏らして、神官長も自室へと戻っていく。
そうして誰もいなくなった大神殿に、
「メアリ姉さんが、死の森に追放されていただと!? どういう事だよ、オヤジ!」
悔しそうな、誰かの声が溶け込んでいた。
「はっ! まずはこちらを」
メアリが魔の森へと追放されてから、10日が経過したその日。
王都にある大聖堂に、神官長の叫び声がこだましていた。
「……これは?」
「見届け人が書いた報告書です」
なるほど、などと言葉を漏らしながら、神官長が小さな紙を流し見る。
本来なら第1王子であるリアムに届けられる物だが、教会の権力で略奪されていた。
ーー罪人が育てた果実をいただきました。日を追うごとに、罪人の肌艶が良くなっている気が致します。
ーー罪人が狩ったリトルドラゴンの肉をいただきました。石の上で焼くバーベキュースタイルも美味ですが、さしみや、たたき、も至高の逸品だと学習致しました。
ーー罪人がお茶会を開いて下さいました。ここ数日はドラゴン襲撃の頻度も減り、落ち着いて甘味を味わえております。
「なんだ、これは……」
そこに並ぶのは、最悪の処刑場とまで呼ばれた魔の森にあるまじき姿。
初日を除外すると、グルメ日記のような文字が列んでいる。
「ありえん……。ありえんが、確かなのだな?」
「はい。こちらを」
「む?」
次いで部下が持ち込んだのは、緑の皮や牙。
その中には、黒い竜の皮も混じっている。
「リトルドラゴンに、黒竜か……。なるほど、確かに日記と一致するな」
「はい。第1王子も同じ考えらしく、神の啓示を求めておられます」
「そうか……」
小さく息を吐き出して、神官長が現状を鑑みる。
男爵令嬢に惚れた王太子は、すでに教会の操り人形だ。
予測不能な言動は多々あるが、令嬢の首はこちらがおさえている。
男爵家から令嬢に命令し、お願い、と言われば、どうとでもなる。
目障りだった婚約者も、神の身元に送ることは叶っていないが、遠ざける事には成功した。
「わかった。すぐに何名かの司祭を派遣しよう。死の森に送った公爵令嬢の件は捨て置く」
多少は長く生き延びているようだが、実家の権力から遠ざかった令嬢が出来ることなど、高が知れている。
それよりも先に問題となるのは、次男や三男の動きだ。
「王子たちに動きは?」
「次男は相変わらずハーブ以外に興味を示さず。三男は、数日前に王都を離れたと連絡が入っております」
「なに?」
王が姿を見せなくなり、誰もが次世代の争いに注目する中で、王都から離れただと?
なんだ? 何が起こった?
「三男の目的は?」
「どうやら、魔の森に向かわれたようです。目的は、メアリ様でしょう」
「なんだと!?」
王子自ら、魔の森に姫を助けに行ったとでも言うのか!?
それが公爵令嬢のため?
なるほど、血の半分は、バカな王太子と同じと言うわけか。
「まるで童話だな。王よりも作家の方が似合うのではないか?」
くくく、と声を漏らして、神官長が部下の男に目を向ける。
煌びやかなマントを翻して、神を模したとされる像を祈りと共に流し見た。
「三男の政治基盤に揺さぶりをかけろ。金を惜しむなよ。どれだけでも沸いてくる。好きに使え」
「かしこまりました。失礼いたします」
深々と礼をして、部下が足早に去っていく。
それにしても、
「あの広い森の中で、本当に出会えるとでも思っているのか?」
神の使徒に食われるも良し。
王位より姫を選んだバカと呼ばれるも良し。
「再開を果たした後に、2人で愛を誓い合い、古竜さまに食われて浄化されるがいい。童話に相応しい最後だな」
くははは、などと声を漏らして、神官長も自室へと戻っていく。
そうして誰もいなくなった大神殿に、
「メアリ姉さんが、死の森に追放されていただと!? どういう事だよ、オヤジ!」
悔しそうな、誰かの声が溶け込んでいた。
26
お気に入りに追加
3,876
あなたにおすすめの小説

絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので
ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。
しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。
異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。
異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。
公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。
『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。
更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。
だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。
ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。
モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて――
奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。
異世界、魔法のある世界です。
色々ゆるゆるです。

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~
紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。
毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

【完結】召喚された2人〜大聖女様はどっち?
咲雪
恋愛
日本の大学生、神代清良(かみしろきよら)は異世界に召喚された。同時に後輩と思われる黒髪黒目の美少女の高校生津島花恋(つしまかれん)も召喚された。花恋が大聖女として扱われた。放置された清良を見放せなかった聖騎士クリスフォード・ランディックは、清良を保護することにした。
※番外編(後日談)含め、全23話完結、予約投稿済みです。
※ヒロインとヒーローは純然たる善人ではないです。
※騎士の上位が聖騎士という設定です。
※下品かも知れません。
※甘々(当社比)
※ご都合展開あり。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】私のことを愛さないと仰ったはずなのに 〜家族に虐げれ、妹のワガママで婚約破棄をされた令嬢は、新しい婚約者に溺愛される〜
ゆうき
恋愛
とある子爵家の長女であるエルミーユは、家長の父と使用人の母から生まれたことと、常人離れした記憶力を持っているせいで、幼い頃から家族に嫌われ、酷い暴言を言われたり、酷い扱いをされる生活を送っていた。
エルミーユには、十歳の時に決められた婚約者がおり、十八歳になったら家を出て嫁ぐことが決められていた。
地獄のような家を出るために、なにをされても気丈に振舞う生活を送り続け、無事に十八歳を迎える。
しかし、まだ婚約者がおらず、エルミーユだけ結婚するのが面白くないと思った、ワガママな異母妹の策略で騙されてしまった婚約者に、婚約破棄を突き付けられてしまう。
突然結婚の話が無くなり、落胆するエルミーユは、とあるパーティーで伯爵家の若き家長、ブラハルトと出会う。
社交界では彼の恐ろしい噂が流れており、彼は孤立してしまっていたが、少し話をしたエルミーユは、彼が噂のような恐ろしい人ではないと気づき、一緒にいてとても居心地が良いと感じる。
そんなブラハルトと、互いの結婚事情について話した後、互いに利益があるから、婚約しようと持ち出される。
喜んで婚約を受けるエルミーユに、ブラハルトは思わぬことを口にした。それは、エルミーユのことは愛さないというものだった。
それでも全然構わないと思い、ブラハルトとの生活が始まったが、愛さないという話だったのに、なぜか溺愛されてしまい……?
⭐︎全56話、最終話まで予約投稿済みです。小説家になろう様にも投稿しております。2/16女性HOTランキング1位ありがとうございます!⭐︎

公爵令嬢の辿る道
ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。
家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。
それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。
これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。
※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。
追記
六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。

【完結】転生したので悪役令嬢かと思ったらヒロインの妹でした
果実果音
恋愛
まあ、ラノベとかでよくある話、転生ですね。
そういう類のものは結構読んでたから嬉しいなーと思ったけど、
あれあれ??私ってもしかしても物語にあまり関係の無いというか、全くないモブでは??だって、一度もこんな子出てこなかったもの。
じゃあ、気楽にいきますか。
*『小説家になろう』様でも公開を始めましたが、修正してから公開しているため、こちらよりも遅いです。また、こちらでも、『小説家になろう』様の方で完結しましたら修正していこうと考えています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる