上 下
5 / 57

〈5〉たんぽぽの少女に褒められる

しおりを挟む
 騎士の姿をした女性が屋根から飛び降りて、俺たちの側へと近付いてくる。

 男たちも俺も、槍を持つ者に囲まれていた。

「聞こえなかったのか!? 得物えものを捨てて、両手を掲げろ!!」

 鋭い槍の先端が、ジリジリと迫ってくる。

 少女と俺の間。

 男たちと俺の間にも、鎧と槍が割り込んでいた。

 割合としては、男たちに向けられた物の方が多いだろうか。

 全員が揃いの鎧を身に付けていて、それ1つでパンが山ほど買えそうに見える。

 逆らっても、俺が荷馬車を引く竜なんかの飯になるだけだろう。

「待ってくれ! 俺たちはギルドの依頼を--」

「弁論は捕らえた後で聞いてやる! 互いの弁護士を交えてな!」

「……ちっ!」

 さすがに旗色が悪いと見たのか、冒険者たちが、1人、また1人と、剣を捨てて手を上げ始めていた。

 どこを見ても、鎧と槍がひしめいている。

 戦争でもしているのか?

 そう言いたくもなる中に、何故か、メイド服とカチューシャ、品のある眼鏡を身に付けた女性の姿が見えた。

「メリア様」

「あっ、アンナ! ここはまだ危険で--」

「メリア様!! 通ります! すみません、通してください!」

「あっ、はい」

「はい、じゃなくて止めなさいよ! あぁ、もぉ!! だから、連れてきたくなかったのに!」

 ざわつく周囲を余所に、メイド服の女性が、俺の側を通り過ぎていく。

 そして、背後にいた少女を抱き締めていた。

「メリア様! よくぞ、ご無事で……」

 どうやら、少女の知り合いらしい。

 メイドが様を付けて呼ぶくらいたがら、やはり金持ちだったのだろう。

 これはもう、パンは諦めた方が良さそうだな。

「ごめんなさい。私のワガママで、みんなさんに迷惑を……」

「いいえ、ご無事で何よりです。本当に心配したんですから」

「ありがとう、アンナ。ローラも、助けに来てくれてありがたく存じます」   

「いえ、仕事ですから」

 そう言葉にしながらも、赤い髪をポニーテールに結った女騎士が、誰よりもホッとしているように見えていた。

 目元を軽く拭った女騎士が、赤いポニーテールを揺らしながら、周囲に激を飛ばす。

「全員を捕らえろ! 決して逃がすなよ!」

「「はっ!」」

 野太い声が響き、俺も含めた6人の手に縄がかけられる。

 連れていかれた先で、飯を貰えたりはしないだろうか?

 金持ちに見える彼女たちなら、捕虜の待遇も悪くないと思いたい。

 少なくとも、屋根はあるだろう。
 もしかすると、今よりいい生活かも知れない。

 そんな事を思っていると、

「待って!」

「……メリア様?」

「こちらのお兄様は、私を助けてくれた恩人です」

「え……??」

 いつの間にか、少女が俺の上着の裾に手を伸ばしていた。

 助けてくれた、恩人??

「……離してやれ」

「はっ!」

 訳も分からないまま、腕の紐が切られた。

 首に回される予定だった紐が、道の脇へと運ばれていく。

「残る5人を詰め所へ! わかってるとは思うが、くれぐれも内密に行動せよ!」

「「はっ!」」

 一瞬の後に、鎧の軍団が慌ただしく動き出していた。

「おい、何をしている! 早く進め!」

「……ちっ! わかってるよ」

 太い縄に両手と首を引かれた男たちが、素直に連行されていった。

 足音が遠ざかり、残ったのは、俺と少女とメイドの女性。

 赤い髪の女騎士は、出口を固めるように、少しだけ離れた場所で立っていた。

 そんな中で、メイドの女性が、落ち着いた笑みを見せる。

「メリア様、こちらに」

「うん……」

 何故か名残惜しそうに俺の手を離した少女が、メイドの隣へと駆けていった。

 クルリと俺の方に向き直った少女が、スカートの裾を摘まんで軽く膝をおる。

「わたくしの名は、メリア・ルルノワール・アプリコッテ。筆頭メイドのアンナと、専属騎士のローラです」

 背後にいた少女が、メリア。

 メイドは、アンナ。

 赤髪の女騎士が、ローラらしい。

 ふわりとしたスカートの前で手を組んだメイドのアンナさんが、深々と頭を下げていた。

「この度は、メアリ様をお助け頂きまして、誠にありがとうございます。この御は必ず」

 どうやら、そう言う話で落ち着いたらしい。

 俺はただ、金持ちの少女メアリが持っていたパンを奪おうとしただけなのだが……?

 でもまぁ、無理に誤解を解く必要はないだろう。

 遠くにいる女騎士ローラさんから、ひどい圧力を感じるし。

 罪悪感はあるけど、もしかしたら、

 御礼にご飯でも!

 なんて話になるかも知れないしな!!

 そんなことを思って浮かれていたのだろう。

「いえ、たまたま通りかかっただけですから」

 あまり物事を考えずに、そう言葉にしていた。

「……たまたま、ですか?」

 思わずと言った様子で、アンナさんが、不思議そうな目を周囲に向ける。

 そこにあるのは、苔むした壁と朽ち果てた宿だけだ。

 どう見ても、たまたま通りかかるような場所じゃない。

「いっ、いや、実は、大通りの方にまで、その子の悲鳴が聞こえていまして。それで--」

「えっと、水を差すようで恐縮なのですが。さすがのわたくしでも、隠れているときに、悲鳴は上げていなかったと思います」

「…………」

 墓穴に墓穴を掘ったらしい。

 向けられる視線が鋭さを増して、剣に手をかける音が聞こえてくる。

「いや、あのですね、なんと言いますか、あの……」


 誤魔化す言葉が見つからない。


 なんと言うか、最初の返答が悪すぎた。

「実は俺、“占い師”でして……」

 はぁ、と肩を落として、彼女たちに苦笑を向ける。

--また、バカにされるんだろうな。

 そんな思いを胸に、いつの間にか“占い師”のスキルが発動していたこと。

 その結果に従って、ここに来たこと。
 
 パンを狙っていたとか、そういう余計な物は省いて、必要最低限だけを話していった。

「なるほど。でしたら、私が【希望の道】を開いて差し上げればいいのですね」


 そんな言葉が、メアリの口から漏れ聞こえていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

スラムに堕ちた追放聖女は、無自覚に異世界無双する~もふもふもイケメンも丸っとまとめて面倒みます~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
どうやら異世界転移したらしいJK田崎 唯は、気がついたら異世界のスラムにどこかから堕ちていた。そこにいたる記憶が喪失している唯を助けてくれたのは、無能だからと王都を追放された元王太子。今は、治癒師としてスラムで人々のために働く彼の助手となった唯は、その規格外の能力で活躍する。 エブリスタにも掲載しています。

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

断罪の暗殺者~なんか知らんが犯罪ギルドのトップになってた~

流優
ファンタジー
どうやら俺は、異世界に転生したらしい。――ゲームで作った、犯罪ギルドのギルドマスターとして。  マズい、どうしてこうなった。自我を獲得したらしいギルドのNPC達は割と普通に犯罪者思考だし、俺も技能として『暗殺』しか出来ねぇ!  そうしてゲームで作ったキャラ――暗殺者として転生を果たしたギルドマスター『ユウ』は、物騒な性格のNPC達のトップとして裏社会に名を轟かせ、やがては世界へと影響を及ぼしてゆく――。  対象年齢は少し高めかもしれません。ご注意を。

《ユグシルト・オンライン》最強データから始める俺の異世界最強伝説!!──ではなく、Lv255の赤ちゃんに転生した俺の異世界物語

散歩道 猫ノ子
ファンタジー
引きこもり&ニート&廃人オンラインプレイヤー。 《桜木ススム》は毎日をゲームだけに消費していた。 そんな彼が熱中しているゲーム。 《ユグシルト・オンライン》 魔法を行使し、魔物を討伐する。 在り来りだけれど、どこまでもリアルを追求されたゲームは、まるで本当に生活してるのかと思わせる自由性から、様々なニュース等にも取り上げられる程の大ヒット作品であった。 世界各国から集う顔も知らぬプレイヤー達との生活。 ただ家を建て生活を楽しむものがいれば、冒険者となって世界の謎に挑む者、その冒険者を募りギルドなるものを経営する者。 商人や山賊、果ては魔物になってみる者。 そんな凄いゲームにも……訪れる。 ラストコンテンツ、世界の終焉を呼ぶ魔王。 討伐を終えた人達はゲームを去ってゆく、当然それはゲームの過疎化を生み、次第にオンラインゲームから人々はいなくなる。 そしてもちろんゲーム廃人である《桜木ススム》もその1人であった。 けれどそんなススムに吉報がなる。 新たな要素を追加された、《ユグシルト・オンライン2》が発売される。 引きこもりのニート、ススムは決死の覚悟で外へ向かい。 そして彼は出会う。 どうみてもユグシルト・オンライン2に登場すると言われている、ねこのこ族の美少女。 ねこのことの出会いはススムの人生を大きく変え、ススムは気付いた頃には── 《ユグシルト・オンライン》最強データから始める俺の異世界最強伝説!!──ではなく、Lv255の赤ちゃんに転生した俺の異世界物語。 つまり。 赤ちゃんに転生した主人公が、元気で可愛くて最強で娘で生意気で滅茶苦茶で秘密多めで天才的で暴力的な美少女に波乱万丈な生活を強いられるものがたりです!!!!!

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

妖精の導きを受けた私が精霊様に女王だと指名されました〜夫には王子が3人ですって?〜

BBやっこ
ファンタジー
妖精を見られる人が少ない。 その中で泉の精霊を崇め、平和に暮らす土地があった。3人の王子が治める 女王を求め、精霊に認められる乙女が妖精に導かれ現れた話。 【剣の章】異世界と“幼精”の登場 【本の章】この世界の事 【玉の章】領地の観光 おまけ 人物紹介+3話  ※本編完結済みでおまけを書いています。 ファンタジー大賞エントリー中

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!

さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ 祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き! も……もう嫌だぁ! 半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける! 時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ! 大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。 色んなキャラ出しまくりぃ! カクヨムでも掲載チュッ ⚠︎この物語は全てフィクションです。 ⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

処理中です...