15 / 74
<15>入学祝いのテスト4
しおりを挟む
振り向いた先に見えたのは、ペタンと倒れたひとりの少女。
大きなドクロのキーホルダーを付けた鞄を下敷きにして、ショートカットの少女が額を押さえていた。
どうやら転んだらしい。
足下は化物が歩く度に揺れ、彼女も恐怖に身がこわばっている。
流れ出す涙のせいで、視界も歪んでいるに違いない。
そんな足をすくわれて倒れても仕方ないだろう。
「ひゅっ…………」
だが今だけは、仕方ないでは済まされない。
「嘘だろ……」
俺だけを見ていた化物が突然振り返る。
化物の身体が少女に向く。
悲鳴につられたか、振動か、気まぐれか。
そんな分析に意味などない。
「いや、こないで……ぃゃぁあああああああああ!!」
化物を見上げていた少女が、耳をふさいで目を閉じた。
それまでの傲慢な動きがウソだったかのように、化物が一直線に走り出す。
「くそっ!!」
何かを考えるよりも前に体が動く。
必死に走り、少女と化物の間に両手を広げて立ちふさがった。
目の前に迫るのは、ぬめりとした大きな舌と鋭い牙。
あのときと同じ光景が広がっていた。
背後から少女の悲鳴が聞こえる。
「オッサン!!」
はるか後方から、あのとき助けてくれたイケメンの声が聞こえていた。
彼のように華麗に助けられないのは歳のせいだろうか。
どうせ、社畜のまま終わるはずだった体だ。
イケメンに救ってもらった命だ。
俺のことは良い。背後の可愛い少女は救いたい。
迫り来る化物に向けて、一歩だけ前に出る。
もう一歩だけ前に出る。
社畜時代とは違う、生きている実感があった。
「ゅぁっ……」
背後から悲鳴にならない声が漏れ聞こえる。
化物は俺を食ったあと、飲み込むために天井を見上げるだろう。
その間に外から戻ってきたイケメンが、彼女を連れ出してくれる。
下顎が腰へ、上顎が頭を、ぬるりとした舌が視界全体に広がっていた。
全身から力が抜ける。
なぜか両手だけが前を向く。
「だめーーーーーーっ!!!!」
ーー不意に俺の手が、光の粒に包まれた。
左腕が強い衝撃を受けて、全身が吹き飛ばされる。
「きゃっ!」
不意に、甘く柔らかなものを抱きしめて転がった。
感じたのは砂利の上を滑る痛みと、胸に抱いた少女の柔らかさ、太陽の光。
「なに、が……」
左手には全身を覆うほどの大きな盾があって、見上げた体育館の入口には、恨めしそうに俺を睨む化物の姿があった。
化物が光に包まれ、コロリとビー玉が落ちる。
「負傷者ゼロ。全員が脱出に成功。発動者は1名か。初回にしては悪くない結果だ、きっと良い絵が撮れただろう。良くやった」
姿を見せた宇堂先生が、ビー玉を拾い上げて優しい笑みを見せた。
「休憩をはさみ、13時より座学のテストを行う」
そう言い残して先生が去っていく。
左手にあった巨大な盾は、いつの間にか消えていた。
大きなドクロのキーホルダーを付けた鞄を下敷きにして、ショートカットの少女が額を押さえていた。
どうやら転んだらしい。
足下は化物が歩く度に揺れ、彼女も恐怖に身がこわばっている。
流れ出す涙のせいで、視界も歪んでいるに違いない。
そんな足をすくわれて倒れても仕方ないだろう。
「ひゅっ…………」
だが今だけは、仕方ないでは済まされない。
「嘘だろ……」
俺だけを見ていた化物が突然振り返る。
化物の身体が少女に向く。
悲鳴につられたか、振動か、気まぐれか。
そんな分析に意味などない。
「いや、こないで……ぃゃぁあああああああああ!!」
化物を見上げていた少女が、耳をふさいで目を閉じた。
それまでの傲慢な動きがウソだったかのように、化物が一直線に走り出す。
「くそっ!!」
何かを考えるよりも前に体が動く。
必死に走り、少女と化物の間に両手を広げて立ちふさがった。
目の前に迫るのは、ぬめりとした大きな舌と鋭い牙。
あのときと同じ光景が広がっていた。
背後から少女の悲鳴が聞こえる。
「オッサン!!」
はるか後方から、あのとき助けてくれたイケメンの声が聞こえていた。
彼のように華麗に助けられないのは歳のせいだろうか。
どうせ、社畜のまま終わるはずだった体だ。
イケメンに救ってもらった命だ。
俺のことは良い。背後の可愛い少女は救いたい。
迫り来る化物に向けて、一歩だけ前に出る。
もう一歩だけ前に出る。
社畜時代とは違う、生きている実感があった。
「ゅぁっ……」
背後から悲鳴にならない声が漏れ聞こえる。
化物は俺を食ったあと、飲み込むために天井を見上げるだろう。
その間に外から戻ってきたイケメンが、彼女を連れ出してくれる。
下顎が腰へ、上顎が頭を、ぬるりとした舌が視界全体に広がっていた。
全身から力が抜ける。
なぜか両手だけが前を向く。
「だめーーーーーーっ!!!!」
ーー不意に俺の手が、光の粒に包まれた。
左腕が強い衝撃を受けて、全身が吹き飛ばされる。
「きゃっ!」
不意に、甘く柔らかなものを抱きしめて転がった。
感じたのは砂利の上を滑る痛みと、胸に抱いた少女の柔らかさ、太陽の光。
「なに、が……」
左手には全身を覆うほどの大きな盾があって、見上げた体育館の入口には、恨めしそうに俺を睨む化物の姿があった。
化物が光に包まれ、コロリとビー玉が落ちる。
「負傷者ゼロ。全員が脱出に成功。発動者は1名か。初回にしては悪くない結果だ、きっと良い絵が撮れただろう。良くやった」
姿を見せた宇堂先生が、ビー玉を拾い上げて優しい笑みを見せた。
「休憩をはさみ、13時より座学のテストを行う」
そう言い残して先生が去っていく。
左手にあった巨大な盾は、いつの間にか消えていた。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる