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国作り
後日談
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王都を占領してから1年が過ぎ去ったある日のこと。
普段は勇者国の首都として活気に満ち溢れた旧王都は、異様な静けさに包まれていた。
王国の体制が崩壊し、名前を王都から首都に変更して以降、過ぎ去る日時に比例して人が増え続けているこの場所が、静寂とまでいえるほど静まり返るのは初めてのことだった。
まるで1年前の内戦に戻ったかのような静けさである。
ただ、内戦中とは異なり、人々が家に引きこもったり、生気の抜けた顔で項垂れている訳では無い。
表通りや広場など、人々は王都の至る所に集まり、神に祈りを捧げながら、周囲の音に気を配っていたのである。
そんな静けさの中で、不意に聞こえる男の声。
「待たせたな。次世代の勇者が誕生したぞ」
首都の至るところから聞こえるその声に続き、赤ん坊の泣く声が首都全域に届いた。
寒気さえ覚えるよな一瞬の静寂。その後に訪れるのは、爆発するような歓喜の渦。
うぉおおーー!! という声が勇者王国の首都全域を震わせた。
サラ王妃が産気づき、勇者ハルキが次の勇者の誕生を知らせたのである。
内戦による爪痕は徐々に消え、平和という幸せを人々が噛みしめ、笑い声が大きくなってきた中での出産。
無事に生まれて来てくれた子は、繁栄する未来の象徴として、人々に歓喜を運んだ。
街に活気があり、十分な食べ物があり、勇者国の基盤も安定した。勇者国全体が歓喜の渦に包まれた日であった。
そんな人々を見下ろすように建てられた城の中で、俺はマイク替わりの魔玉を前に、我が子を抱き上げていた。
ベットの上には、憔悴しながらも幸せそうな笑顔を見せるサラの姿もある。
「申し訳ないが、女の子だったよ。
……けど、本当に良いのかい? その子を世継ぎに決めてしまって」
「あぁ、問題ないよ。俺とサラの子だからね。男だろうが女だろうが関係ないさ。
きっと良い勇者になってくれるよ」
「……そうだね」
少々親ばかな気もするが、あのサラが産んだ子なんだ。きっと頭の良い子になることだろう。
「お兄ちゃん、わたしも抱っこしたい!!」
「あっ、ちょ、バカ。クロちゃん、もうちょっと優しく、そんな乱暴に抱き上げたら危ないじゃないの!!」
「クロエさん、クロエさん。次私ですからね。次は私に抱っこさせてくださいね」
「なに言ってるのよ!! 次はアリスに決まってるじゃない!!」
「あらあらー。みんな元気ねー」
王妃と妻と嫁、妹と義妹、産まれたばかりの娘。そして、勇者国に住まう市民達。
俺の家族全員が、幸せな笑顔を振りまいていた。
人は1人じゃ生きられない。
日本に居た頃の俺は、ぼっちだった。
仕事をしていた頃も、ハローワークに通っていた頃も、確かに心臓は動いていた。だけど、それだけだ。
生きてなど居なかった。
サラに召喚され、檻の中で彼女の手助けをすると決めたとき。あの時に、俺は産まれたんだと思う。
ひとりだったサラの仲間になり、奴隷商でクロエを購入し、アリスを引き込んだ。
2人だけで生きていたノアとミリア。それからは、大勢の人が俺達と共に歩んでくれた。
洞窟で狼に襲われたり、ニワトリに殺されかけたり、人間同士の殺し合いに参加したり、たしかに大変なことは多くあった。
日本じゃ絶対に出来ない苦労が多いにあった。
だけど、日本に居た頃と違って、毎日生きていた。
誰かの手を借りながら、誰かの手助けをしながら、毎日ワクワクして、生きていた。
もしいつの日か、日本に帰る方法が見つかったとしても、俺はこの世界で生きようと思う。
だって、俺達はもう、ひとりぼっちじゃないのだから。
普段は勇者国の首都として活気に満ち溢れた旧王都は、異様な静けさに包まれていた。
王国の体制が崩壊し、名前を王都から首都に変更して以降、過ぎ去る日時に比例して人が増え続けているこの場所が、静寂とまでいえるほど静まり返るのは初めてのことだった。
まるで1年前の内戦に戻ったかのような静けさである。
ただ、内戦中とは異なり、人々が家に引きこもったり、生気の抜けた顔で項垂れている訳では無い。
表通りや広場など、人々は王都の至る所に集まり、神に祈りを捧げながら、周囲の音に気を配っていたのである。
そんな静けさの中で、不意に聞こえる男の声。
「待たせたな。次世代の勇者が誕生したぞ」
首都の至るところから聞こえるその声に続き、赤ん坊の泣く声が首都全域に届いた。
寒気さえ覚えるよな一瞬の静寂。その後に訪れるのは、爆発するような歓喜の渦。
うぉおおーー!! という声が勇者王国の首都全域を震わせた。
サラ王妃が産気づき、勇者ハルキが次の勇者の誕生を知らせたのである。
内戦による爪痕は徐々に消え、平和という幸せを人々が噛みしめ、笑い声が大きくなってきた中での出産。
無事に生まれて来てくれた子は、繁栄する未来の象徴として、人々に歓喜を運んだ。
街に活気があり、十分な食べ物があり、勇者国の基盤も安定した。勇者国全体が歓喜の渦に包まれた日であった。
そんな人々を見下ろすように建てられた城の中で、俺はマイク替わりの魔玉を前に、我が子を抱き上げていた。
ベットの上には、憔悴しながらも幸せそうな笑顔を見せるサラの姿もある。
「申し訳ないが、女の子だったよ。
……けど、本当に良いのかい? その子を世継ぎに決めてしまって」
「あぁ、問題ないよ。俺とサラの子だからね。男だろうが女だろうが関係ないさ。
きっと良い勇者になってくれるよ」
「……そうだね」
少々親ばかな気もするが、あのサラが産んだ子なんだ。きっと頭の良い子になることだろう。
「お兄ちゃん、わたしも抱っこしたい!!」
「あっ、ちょ、バカ。クロちゃん、もうちょっと優しく、そんな乱暴に抱き上げたら危ないじゃないの!!」
「クロエさん、クロエさん。次私ですからね。次は私に抱っこさせてくださいね」
「なに言ってるのよ!! 次はアリスに決まってるじゃない!!」
「あらあらー。みんな元気ねー」
王妃と妻と嫁、妹と義妹、産まれたばかりの娘。そして、勇者国に住まう市民達。
俺の家族全員が、幸せな笑顔を振りまいていた。
人は1人じゃ生きられない。
日本に居た頃の俺は、ぼっちだった。
仕事をしていた頃も、ハローワークに通っていた頃も、確かに心臓は動いていた。だけど、それだけだ。
生きてなど居なかった。
サラに召喚され、檻の中で彼女の手助けをすると決めたとき。あの時に、俺は産まれたんだと思う。
ひとりだったサラの仲間になり、奴隷商でクロエを購入し、アリスを引き込んだ。
2人だけで生きていたノアとミリア。それからは、大勢の人が俺達と共に歩んでくれた。
洞窟で狼に襲われたり、ニワトリに殺されかけたり、人間同士の殺し合いに参加したり、たしかに大変なことは多くあった。
日本じゃ絶対に出来ない苦労が多いにあった。
だけど、日本に居た頃と違って、毎日生きていた。
誰かの手を借りながら、誰かの手助けをしながら、毎日ワクワクして、生きていた。
もしいつの日か、日本に帰る方法が見つかったとしても、俺はこの世界で生きようと思う。
だって、俺達はもう、ひとりぼっちじゃないのだから。
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