上 下
118 / 118
国作り

後日談

しおりを挟む
 王都を占領してから1年が過ぎ去ったある日のこと。

 普段は勇者国の首都として活気に満ち溢れた旧王都は、異様な静けさに包まれていた。

 王国の体制が崩壊し、名前を王都から首都に変更して以降、過ぎ去る日時に比例して人が増え続けているこの場所が、静寂とまでいえるほど静まり返るのは初めてのことだった。

 まるで1年前の内戦に戻ったかのような静けさである。

 ただ、内戦中とは異なり、人々が家に引きこもったり、生気の抜けた顔で項垂れている訳では無い。

 表通りや広場など、人々は王都の至る所に集まり、神に祈りを捧げながら、周囲の音に気を配っていたのである。

 そんな静けさの中で、不意に聞こえる男の声。

「待たせたな。次世代の勇者が誕生したぞ」

 首都の至るところから聞こえるその声に続き、赤ん坊の泣く声が首都全域に届いた。

 寒気さえ覚えるよな一瞬の静寂。その後に訪れるのは、爆発するような歓喜の渦。

 うぉおおーー!! という声が勇者王国の首都全域を震わせた。

 サラ王妃が産気づき、勇者ハルキが次の勇者の誕生を知らせたのである。

 内戦による爪痕は徐々に消え、平和という幸せを人々が噛みしめ、笑い声が大きくなってきた中での出産。
 無事に生まれて来てくれた子は、繁栄する未来の象徴として、人々に歓喜を運んだ。

 街に活気があり、十分な食べ物があり、勇者国の基盤も安定した。勇者国全体が歓喜の渦に包まれた日であった。


 そんな人々を見下ろすように建てられた城の中で、俺はマイク替わりの魔玉を前に、我が子を抱き上げていた。
 ベットの上には、憔悴しながらも幸せそうな笑顔を見せるサラの姿もある。

「申し訳ないが、女の子だったよ。
 ……けど、本当に良いのかい? その子を世継ぎに決めてしまって」

「あぁ、問題ないよ。俺とサラの子だからね。男だろうが女だろうが関係ないさ。
 きっと良い勇者になってくれるよ」

「……そうだね」

 少々親ばかな気もするが、あのサラが産んだ子なんだ。きっと頭の良い子になることだろう。

「お兄ちゃん、わたしも抱っこしたい!!」

「あっ、ちょ、バカ。クロちゃん、もうちょっと優しく、そんな乱暴に抱き上げたら危ないじゃないの!!」
  
「クロエさん、クロエさん。次私ですからね。次は私に抱っこさせてくださいね」

「なに言ってるのよ!! 次はアリスに決まってるじゃない!!」

「あらあらー。みんな元気ねー」

 王妃と妻と嫁、妹と義妹、産まれたばかりの娘。そして、勇者国に住まう市民達。

 俺の家族全員が、幸せな笑顔を振りまいていた。 



 人は1人じゃ生きられない。

 日本に居た頃の俺は、ぼっちだった。

 仕事をしていた頃も、ハローワークに通っていた頃も、確かに心臓は動いていた。だけど、それだけだ。
 生きてなど居なかった。

 サラに召喚され、檻の中で彼女の手助けをすると決めたとき。あの時に、俺は産まれたんだと思う。

 ひとりだったサラの仲間になり、奴隷商でクロエを購入し、アリスを引き込んだ。
 2人だけで生きていたノアとミリア。それからは、大勢の人が俺達と共に歩んでくれた。

 洞窟で狼に襲われたり、ニワトリに殺されかけたり、人間同士の殺し合いに参加したり、たしかに大変なことは多くあった。
 日本じゃ絶対に出来ない苦労が多いにあった。

 だけど、日本に居た頃と違って、毎日生きていた。
 誰かの手を借りながら、誰かの手助けをしながら、毎日ワクワクして、生きていた。

 もしいつの日か、日本に帰る方法が見つかったとしても、俺はこの世界で生きようと思う。

 だって、俺達はもう、ひとりぼっちじゃないのだから。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(66件)

月光
2018.03.07 月光

こういう搦め手で相手に何もさせずにじわじわと嬲るの好きだわw
馬謖の「城を攻めるは下策、相手の心を攻るが上策」の格言通り
脳筋王子では太刀打ちできん

薄味メロン
2018.03.09 薄味メロン

ネチネチする勇者(`・ω・´)キリッ
ありがとうございます<(_ _)>

解除
まさ
2018.03.07 まさ

結局、住民大異動なだけ?(笑)

薄味メロン
2018.03.07 薄味メロン

なんて恐ろしいやつなんだ
:(´◦ω◦`):ガクブル

解除
mzk999
2018.03.06 mzk999

アレ?
姑息だけど
ちゃんと戦略が機能してるぞ?
すげぇ

薄味メロン
2018.03.06 薄味メロン

姑息だけどねー(´・ω・`)

解除

あなたにおすすめの小説

裏切りの代償

志波 連
恋愛
伯爵令嬢であるキャンディは婚約者ニックの浮気を知り、婚約解消を願い出るが1年間の再教育を施すというニックの父親の言葉に願いを取り下げ、家出を決行した。 家庭教師という職を得て充実した日々を送るキャンディの前に父親が現れた。 連れ帰られ無理やりニックと結婚させられたキャンディだったが、子供もできてこれも人生だと思い直し、ニックの妻として人生を全うしようとする。 しかしある日ニックが浮気をしていることをしり、我慢の限界を迎えたキャンディは、友人の手を借りながら人生を切り開いていくのだった。 他サイトでも掲載しています。 R15を保険で追加しました。 表紙は写真AC様よりダウンロードしました。

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

私、平凡ですので……。~求婚してきた将軍さまは、バツ3のイケメンでした~

玉響なつめ
ファンタジー
転生したけど、平凡なセリナ。 平凡に生まれて平凡に生きて、このまま平凡にいくんだろうと思ったある日唐突に求婚された。 それが噂のバツ3将軍。 しかも前の奥さんたちは行方不明ときたもんだ。 求婚されたセリナの困惑とは裏腹に、トントン拍子に話は進む。 果たして彼女は幸せな結婚生活を送れるのか? ※小説家になろう。でも公開しています

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……

希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。 幼馴染に婚約者を奪われたのだ。 レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。 「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」 「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」 誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。 けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。 レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。 心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。 強く気高く冷酷に。 裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。 ☆完結しました。ありがとうございました!☆ (ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在)) (ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9)) (ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在)) (ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))

裏切りの先にあるもの

マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

夫から国外追放を言い渡されました

杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。 どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。 抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。 そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……

【完結】忌み子と呼ばれた公爵令嬢

美原風香
恋愛
「ティアフレア・ローズ・フィーン嬢に使節団への同行を命じる」  かつて、忌み子と呼ばれた公爵令嬢がいた。  誰からも嫌われ、疎まれ、生まれてきたことすら祝福されなかった1人の令嬢が、王国から追放され帝国に行った。  そこで彼女はある1人の人物と出会う。  彼のおかげで冷え切った心は温められて、彼女は生まれて初めて心の底から笑みを浮かべた。  ーー蜂蜜みたい。  これは金色の瞳に魅せられた令嬢が幸せになる、そんなお話。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。