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43 試食会をはじめます! 2

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「お待たせいたしました。我々、新設部隊が見つけ出した食べられる魔物肉です」

「うむ、ご苦労であった」

 住民の視線を浴びながら壇上にのぼり、ホムンクルスたちに肉を配ってもらう。

 男爵や師匠、街の有力者たちの前には熱々の七輪があって、自分たちで焼いてもらう予定だ。

「まずは、主催である私が毒見をしよう」

 男爵様が、熱せられた網に肉を乗せる。

 程良い厚みの肉が焼かれ、じゅわっと溶けた脂が熱々の炭に落ちる。

 香ばしい煙に、トングでひっくり返す肉の情景。

 これぞ焼肉!
 見てるだけで腹が減るぜ!!

 俺にはそんな光景に見えるが、住民たちは静まりかえっていた。

(おい、魔物肉って言ったか?)

(まもの? 男爵様、魔物を食べるの?)

(大丈夫なのか? 食べたら魔物になるんじゃないのか??)

 ひそひそと囁く声が聞こえる。

 そんな観客たちを後目に、男爵は魔物肉を焼き上げて、軽く塩をふった。

「して、これはどの魔物だ?」

「我らの村や畑を荒らす、憎きゴブリンの物でございます」

 その中でも、肉質が良くて、筋が少ない部分。

 牛なら、カルビやロース、バラのあたりの肉だと思う。

「ほぉ? 我が領地を荒らす奴らか」

 男爵がニヤリと笑い、壇上の有力者たち……

 “ 食べられる魔物の試食会 ~誰でも入れるお風呂付き~ ”

 そんなイベントだと言って男爵が集めたメンバーの顔が凍り付く。

(ゴブリン? ゴブリンってことは、あのゴブリンだよな?)

(どういう事だ!? 食べられる新種ではなかったのか!???)

(新手の処刑法……、いや、しかし、俺はなにもやましいことは……)

 顔色を悪くする者。
 慌てて従者と話し合う者。

 どうにかして、食べずに済む道を探す者。

「奴らが食料になるとは、痛快だな。これほど愉快なことはないぞ。そうであろう、鍛冶屋の」

「え、……ええ、そうですな! ゴブリンは、憎くて憎くて。食えるものなら、一度、食ってやろう。そう思っておりましたとも」

 主催は男爵様で、観客席には大量の領民がいる。

 彼らにしてみれば、“ 親会社の社長と馴染みの顧客に見張られている ” そんな感じだろう。

 どれだけ忌避感を覚えても、街の有力者たちは食べるしかない。

「おお、これはうまいな! 本当にゴブリンの肉なのだな?」

「はい。間違いなくゴブリンの肉でございます。念のための確認ですが、体調はいかがでしょう?」

「なにも問題ない! むしろ、健康になったと思えるほどだ!!」

 男爵が先に食べて、そう言い切ってしまえば、なおさらだ。

「追加で厚切りの肉を貰おう。ミルトレイナも食べてみなさい」

「よっ、よろしいのですか……?」

「もちろんだ。フェドナルンドも一緒にどうだ?」

「有り難く頂戴いたします」

 隊長、副隊長としてではなく、男爵家の入り婿や姫として食べる。

 こうなってしまえば、絶対に逃げられない。

「えっと、あの、おとう、さま……。わた、わたくしのおすすめを……」

「ふむ? これは?」

「あのあの、魔物肉、すじ肉の煮込み、です……。こちらも、おいしくて……」

「ほお! これは酒がすすむ味であるな!!」

 ガチガチに緊張したミルトの演技はあれだけど、俺たちの意図は伝えられたと思う。

--逃げ道はない! さっさと食え!!

 そんな雰囲気に押されるように、有力者たちが恐る恐る肉を焼きはじめる。

 じっくり焼いて、焼きすぎるほど焼いて。

 ほかの参加者を注視しながら、ゆっくりと口に運んだ。

「……ん?」

 癖はなく、肉汁があふれる、柔らかい肉。

 処刑を待つ囚人のような顔が、一瞬にして変わった。

「うまい……」

「これは、すごいな!」

 グルメマンガでしかみないような顔をして、みんなが次の肉を焼きはじめる。

「イノシシと同等、いや、それよりもうまいのでは!?」

「子牛が相手では意見は分かれるだろう。だが、廃牛よりは確実に上だ」

 パクパクと肉を食べ、味の感想を言う。

 それなりの地位と金を持つ彼らが、一心不乱に美味いと言って肉を食べる。

 魔物の肉に向けられる観客の視線は、明確に反転していた。

(俺、普通に食いたいんだけど)

(うん。食べてみたいかも。でも、高そうだよね?)

(ゴブリンだけど、普通じゃないっぽいしな……)

 うん。いい手応えだ。

 そう思う中で、師匠が面白そうに顔をあげた。

「儂は幼き頃、魔物肉の不味さと食中りで、死にかけたことがある。この美味いゴブリンは、特別な物じゃな?」

「え、ええ。領内で取れる薬草で包んで、1週間ほど寝かせてあります」

 さすが師匠!

 打ち合わせもしていないのに、俺たちが欲しい質問をありがとうございます!!

 というか、魔物肉を食べたことあるとかマジか。師匠、すげーな。

 そう思う俺を後目に、周囲がざわめく。

(薬草で、包む??)

(なんだ!? どういうことだ!???)

「……フェドナルンド副隊長殿。この肉は、普通のゴブリンの肉を薬草で包んだ物。その認識でよろしいですかな?」

「ええ。肉の毒を薬草で消した。そんな感じです」

 正確には魔力を薬草に移したんだけど、毒の方が理解されやすいはず。

「つまり、ゴブリンを狩り、毒を消せ誰でも食べられる?」

「ええ。ですが、解毒に失敗すると最悪死ぬことになります」

「……なるほど」

 観客たちの熱気が、急激に落ちていく。

 そんな観客たちに向けて、俺は暖め続けた言葉を解き放った。

「ですが、私の兵であれば、毒の有無が見れます。食べ頃を見抜くことが可能ですよ」

 ホムンクルスを1体呼んで、その頭をぽんぽんと優しく叩く。

 来てくれたホムンクルスも、任せろ!  と言った様子で、ドンと自分の胸をたたいた。

 チラリと流し見た先で、男爵がオホンと咳をする。

「フェドナルンド副隊長。その部下の中で、動かせる者は何人だ?」

「現状では10体ほど。訓練次第ではありますが、徐々に数を増やす予定です」

 みんなでゴブリンを倒して、手に入れた魔石でホムンクルスを増やす。

 そうして貸せそうな数になったら、魔物肉作りのお手伝いに行って貰う。

 このあたりの計画は、事前に男爵様と相談済みだ。

「男爵家当主として命じる! 領内の村すべてに黒き兵を駐在させ、この肉を普及させよ!!」

「承知いたしました」

 ホムンクルスたちを領内に配置するための、大義名分。

 観客たちに聞かせたかった言葉を貰って、俺は恭しく頭を下げた。
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