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36 新設部隊の始動 5

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「部隊の、なまえ……」

「はい。本当に困り果てていまして……」

「……えーっと??」

 呆然とした様子のレン伍長が、俺とミルトの顔を見比べる。

 俺はそんなレン伍長に向けて、腹の底にあるもやもやをぶちまけた。

「俺とミルトの2人で、三日三晩、考えたんだ! だけど、いい案が1つも浮かばない!!」

 領民に親しみやすく、頼れる存在。

 そんな部隊にふさわしい呼び名が、俺たちには必要なんだ。

「いつまでも新設部隊だとまずいからな!」

「はぁ……、そうなのですね……」

「む? なんだ? その気の抜けた反応は!」

 俺たちが必死に考えてんだぞ!?

 貴族様に対する不敬罪で、この場で首を斬られたいのか!?

 とまでは思わないけど、普通にまじめな話だ。

「名は体を表す。まずは想像して欲しい、残念な凱旋の光景を!!」

 街の正門が開き、勇ましく魔物を蹴散らした部隊が帰還する。

『帰って来られたわ! “ガリガリぽっちゃり隊”の皆様よ!!』

『おお! “ガリぼっちゃ”の帰還だ!!』

『かっけー! すげー! “がりぼっちゃ”ー!!』

 “がりぼっちゃ” “がりぼっちゃ” “がりぼっちゃ” “がりぼっちゃ”


「どうだ? 盛り上がると思うか??」

「……逆に、あり、なのでは?」

「……うん。自分で言っててあれだが、面白そうではある」

 一度聞いたら忘れられそうにないし、親しみやすさを感じる。

 “がりぼっちゃ”

「だが、名前だけを聞いて、俺たちの姿を後から見た住民。彼らはどう思う?」

「……ガリガリの子供しかいない。ぽっちゃってなんだよ」

「そう! その通り!!」

 十分な食事を与えているが、もとは孤児院の子供たちだ。

 痩せすぎの子供ばかりで、大きくなるには時間がかかる。

「なんだったら、“世界最強のレン伍長とその他の部隊”でもいいんだぞ?」

「……もっ、申し訳ありませんでした! それだけは、どうかおやめください!!!!」

「いや、わかってくれればいいんだ」

 正直、寝不足で頭が回ってない。

 ちょっとだけイライラしてた。

 間違いなく言い過ぎたな。

「それでだ。領民に親しまれて頼りになる、そんな隊の名に心当たりはあるか?」

 初任務で名をあげ、俺たちのことを知って貰う。

 そのための名だ。

 過去の英雄、誰かの明言、ゆかりのある土地の名前などなど、

「一応、知識はそれなりにある。だが、俺たちでは領民の機微に疎いからな」

 平民に近い場所にいるとは言え、生まれながらの貴族だ。

 推し量ることは出来ても、その心を正確には知り得ない。

「貴族相手の名前は、適当に付ける。第2歩兵隊、治安維持隊、なんでもいいんだ」

 書類に書いて区別するためのものであって、本当に適当でいい。

 領外の貴族にはどう思われてもいいし、そもそも知られることはないだろう。

「メインはあくまでも領民だ。だから、領民向けの名前が欲しい」

「なるほど。そういうことでしたか」

 真剣な顔で外に目を向けたレン伍長が、悩ましげに顎に手を当てる。

 何かを思いついたように顔を上げて、俺たちに向き直った。

「それでは、一つご提案が」

「うむ。聞かせて貰おう」

 床に膝を付き、レン伍長が厳かな雰囲気を纏う。

 そのままゆっくりと、言葉を紡いだ。

「まず前提の話になります。領民向けの名を決めるのに、我々は適していません」

「む? どういう事だ?」

「おふたりは貴族様であり、隊員は孤児院の者。目的である普通の領民が不在です」

「……確かにその通りだ」

 両親と共に畑を耕したり、商売をしたり、そのような経験はない。

 孤児院にも畑はあるが、運営費は男爵家からの補助金がメイン。

 一般家庭とは、状況が大きく違う。

「ですので、領民のみなさんに案を出して貰う。それがよろしいかと」

「なるほどな。街に出て、協力者を募ればいいのか」

 男爵家が運営する商業ギルドに行って、農家と商人の両方に心得の有る者を頼る。

 そうすれば、良さそうな案も出してくれそうだ。

 そう思っていると、レン伍長が首を横に振った。

「いえ、お祭りにしてしまいましょう」

「……祭り??」

「はい。領民はみんな、お祭りが好きなので、たくさん集まってくれると思います」

 題して、

“ 第1回 新設部隊の名前を決めよう選手権!! ”

 どんどん、パフパフ♪

「名のない子、名を捨てた子。そんな子が仲間になるときは、みんなで案を出し合いました」

「……なるほどな」

 辛いことの多い孤児院の知恵。

「その日は、良い案を出した子と新人の子、小さな子たちが、ごはんを多くもらえる」

「だからお祭りか」

「はい。みんなで楽しく。それが合い言葉です」

 それを街全体でやろう。そういうことか。

 意図は理解した。

「ミルト。男爵様の了承は得られそうか?」

「う、うん。許可は大丈夫だと思うよ? でも、予算はたぶん……」

 ダメだよな。

 なにをするにもお金がかかるし、俺たちの隊はお金がない。

 男爵領も赤字が続いている。

 だけど、

「そっちに関しては、商業ギルドとミルトの知識を頼ろうかな」

「……わたし??」 

「ああ。正確に言うと、魔物の肉に関しての知識だな」

 金がないのなら、有るところから借りればいい。

 返す当てがあれば、商人は快く貸してくれるはずだ。
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