上 下
34 / 55

34 新設部隊の始動 3

しおりを挟む
「本題……?」

「うん! ここからが本題!!」

 呆気にとられる俺を尻目に、ルン兄さんが笑みを浮かべる。

 背後のドアが開いて、ルン兄さんの部下が帰ってきていた。

 持っているのは、魔石が入った駕籠か??

 そっちも気にはなるが、ここからが本題?

「では、これまでのお話は?」

 鋭く責められるような質問をたくさんされた気がするんだが?

 張り詰めた空気の中で、真面目な話をしましたよね??

「前菜! っていうよりも、僕の個人的な趣味だね」

「……なるほど」

 思わず、はぁー……と口から空気が漏れる。

 クスリと肩を揺らしながら、ルン兄さんに目を向けた。

「私はもう少し、さっぱりとした味付けの前菜が好みですね」

「そう? すっごく楽しくなかった?」

「……否定はしませんが」

 すっごい疲れた。

 前菜と称して厚切りステーキを出された気分だ。

 メインディッシュが怖くて仕方ない。

「正直、胸焼けしそうです」

「うんうん。それもまた、いい経験になるね」

「……そうですね」

 ルン兄さんと、正面から組み合ってはいけないな。

 真面目に取り組むときは、疲れることを覚悟で頑張ろう。

 俺は恥ずかしそうにするミルトを流し見て、どっしりとソファーに体を預けた。

「それでは、メインディッシュをお願いします」

「はいはーい。スープ、魚、ソルベ、メインの順番で出てくるからね」

「……」

 どうやら本日は、フルコースらしい。

 はぁ、と溜め息を吐く俺を他所に、ルン兄さんが笑みを深めた。

「冗談だよ。キミも新設部隊の件で疲れているだろうしね」

「……そうですね」

 どこまでもルン兄さんのペースで、対抗できそうにない。

 それでも不快に感じないのは、ルン兄さんの人柄かな?

 溜め息は出るけど、それだけだ。

「キミが維持しているホムンクルス。その数を聞いてもいいかな?」

「ええ。いまは32体ですね」

「おおー! そんなに増えたんだ!」

「ありがたいことに、多くの魔石とお金をいただきましたので」

 ゴブリン討伐の報酬として、男爵に貰った。

 今はその魔石を使って、ホムンクスルを増やしている最中だ。

「ずいぶんと多いけど、魔力量は? 大丈夫そう??」

「おかげさまで、魔力が枯渇する事態にはなっていませんね」

 ホムンクルスは維持するだけで魔力を使うが、消費量はそこまで大きくない。

 伯爵家から逃げたときのように大量に産み出しでもしない限り、気絶することはないだろう。

「魔力量も毎日のように増えていますので、今後も増やす予定です」

 ゴブリンを倒せるとわかったし、新設部隊の件もある。

 なにをするにしても、数は正義だ。

「直近の目標数は? なにかあったりするの?」

「ええ。ミルト隊長と話し合った結果。ひとまず40体は維持したいなと」

「んー、40かー」

 顎に手を当てたルン兄さんが、ふむふむと頷く。

 向けられた目は、ほんの少しだけ鋭く見えた。

「それは“部隊の規模を考えて”って事だよね? 40体が限界じゃないよね?」

「ええ。試してみないとわかりませんが、より多くのホムンクルスを作ることは出来ると思います」

 魔力を使いすぎると、頭が痛くなったり吐き気がしたりする。

 現状ではその前兆もない。

 ホムンクルスを維持するだけで鍛えられるから、時間とともに増えていくはずだ。

「うんうん。それなら、交渉の余地はありそうだね」

 ルン兄さんが、パチンと指を鳴らす。

 部下の兵が動いて、テーブルの上に魔石が入った駕籠が置かれた。

 俺が普段使う緑の魔石に対して、こっちは薄い青色。

「中級の魔石を対価として用意したよ。こっちを使ったことは?」

「ないですね。普段は、初級の魔石ばかりなので」

「うんうん。そうだよね」

 お風呂や照明、炊事などに使われる初級に対して、中級以上は専門家が使う高級品だ。

 上位武器を作る鍛冶師、街全体を守る魔術具などなど……。

 穫れる魔物も強敵ばかりで、流通量は極端に下がる。

「これをプレゼントするから、ホムンクルスの貸し出しを考えてもらえないかな?」

「貸し出し? ホムンクルスをルン兄さんの部隊にも所属させる、ってことですか??」

「いや、借りるのはあくまで僕個人だよ。手元に置いて、諜報の技術などを教えてみたいんだ!!」

 その結果次第では、実際の諜報を頼むかも知れない。

 だが、現状は、

「純粋に、訓練を受けてみて欲しいんだ!!」

 それだけ。

「森を進む黒い兵たちを見て、ワクワクが止まらなくてさ!」

 磨けば誰よりも強く輝く、大きな原石に見えたそうだ。

 それに加えて、試したことのない中級の魔石。

「ワクワクするよね! 試さないとか有り得ないでしょ!!」

「……たしかにそうですね」

 本題と言いながらも、こっちもルン兄さんの趣味だな。

 むしろ、こっちの方が趣味に振り切っているように見える。

 だが、ルン兄さんが言うように、ワクワクするのも確かだ。

「貸し出しに関しては、ホムンクルスたちの意志を確認してからでもいいですか?」

「うん! もちろん!」 

 満面の笑みを浮かべて、ルン兄さんが駕籠を前に置す。

 なにはともあれ、中級を試して欲しいようだ。

「では、ありがたく頂戴します」

 軽く頭を下げて、魔石に手をかざす。

 感じるのは、初級とは違う力強さと、俺が持つ小太刀に向けられた意志のようなもの。

 魔力を込め、念じた後で、俺は首を横に振った。

「申し訳ありません。どうやら、出来ないようです」

「……そうか。中級では無理か」

「いえ、手応えは有りました。実際に、錬金術の発動は出来ています」

 魔石に魔力を注ぎ、術を発動させる。

 初級であれば、それだけでホムンクルスを作り出せた。

 だが、現状では、

「ホムンクルスにするには、なにかが足りていない。そんな感じです」

 ポーション作りで、薬草の量が少なかった。
 その時の感覚が一番近いと思う。

 だが、魔石を増やせばいいと言った感じでもない。

「あくまで私の感覚ですが、なにか別の物が必要になるみたいです」

 小太刀につながりを感じるが、それだけだ。

 魔石と小太刀、両方に魔力を向けても、それ以上の変化はない。

 隣にいるミルトに目を向けたが、首が横に振れた。

「わざわざ用意していただいて申し訳ありませんが、失敗ですね」

「いや、間違いなく大きな一歩だよ! 中級と何かを使って作った先が、初級と同じだと思う?」

「いえ。それはありえませんね」

 剣と魔法の世界だが、質量保存に似た法則はある。

 初級魔石のみと、中級+なにか。

 どう考えても、後者の方が強そうだ。

「面白いね!! ワクワクしてきたよ!!!!」

 俺の手を取ったルン兄さんが、今日一番の笑みを見せてくれた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

嫌われ婚約者は恋心を捨て去りたい

マチバリ
恋愛
 アルリナは婚約者であるシュルトへの恋心を諦める決意をした。元より子爵家と伯爵家というつり合いの取れぬ婚約だった。いつまでも自分を嫌い冷たい態度しかとらぬシュルトにアルリナはもう限界だと感じ「もうやめる」と婚約破棄を告げると、何故か強引に彼女の純潔が散らされることに‥

真実は仮面の下に~精霊姫の加護を捨てた愚かな人々~

ともどーも
恋愛
 その昔、精霊女王の加護を賜った少女がプルメリア王国を建国した。 彼女は精霊達と対話し、その力を借りて魔物の来ない《聖域》を作り出した。  人々は『精霊姫』と彼女を尊敬し、崇めたーーーーーーーーーーープルメリア建国物語。  今では誰も信じていないおとぎ話だ。  近代では『精霊』を『見れる人』は居なくなってしまった。  そんなある日、精霊女王から神託が下った。 《エルメリーズ侯爵家の長女を精霊姫とする》  その日エルメリーズ侯爵家に双子が産まれた。  姉アンリーナは精霊姫として厳しく育てられ、妹ローズは溺愛されて育った。  貴族学園の卒業パーティーで、突然アンリーナは婚約者の王太子フレデリックに婚約破棄を言い渡された。  神託の《エルメリーズ侯爵家の長女を精霊姫とする》は《長女》ではなく《少女》だったのでないか。  現にローズに神聖力がある。  本物の精霊姫はローズだったのだとフレデリックは宣言した。  偽物扱いされたアンリーナを自ら国外に出ていこうとした、その時ーーー。  精霊姫を愚かにも追い出した王国の物語です。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初心者のフワフワ設定です。 温かく見守っていただけると嬉しいです。

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

趣味を極めて自由に生きろ! ただし、神々は愛し子に異世界改革をお望みです

紫南
ファンタジー
魔法が衰退し、魔導具の補助なしに扱うことが出来なくなった世界。 公爵家の第二子として生まれたフィルズは、幼い頃から断片的に前世の記憶を夢で見ていた。 そのため、精神的にも早熟で、正妻とフィルズの母である第二夫人との折り合いの悪さに辟易する毎日。 ストレス解消のため、趣味だったパズル、プラモなどなど、細かい工作がしたいと、密かな不満が募っていく。 そこで、変身セットで身分を隠して活動開始。 自立心が高く、早々に冒険者の身分を手に入れ、コソコソと独自の魔導具を開発して、日々の暮らしに便利さを追加していく。 そんな中、この世界の神々から使命を与えられてーーー? 口は悪いが、見た目は母親似の美少女!? ハイスペックな少年が世界を変えていく! 異世界改革ファンタジー! 息抜きに始めた作品です。 みなさんも息抜きにどうぞ◎ 肩肘張らずに気楽に楽しんでほしい作品です!

【書籍化】余命一週間を言い渡された伯爵令嬢の最期~貴方は最期まで私を愛してはくれませんでした~

流雲青人
恋愛
◇書籍化が決まりました。 ◇9月下旬に販売予定です。読者様のおかげで実った書籍化です。本当にありがとうございます。 また、それに伴い、本編の取り下げが行われます。ご理解の方、よろしくお願い致します。 ______________ 伯爵令嬢のステラに突き付けられたのは、あまりにも突然過ぎる過酷な運命だった。 「ステラ様。貴方の命はあともって1週間といった所でしょう。残りの人生を悔いのないようにお過ごし下さい」 そんな医者の言葉にステラは残り僅かな時間ぐらい自分の心に素直になろうと決めた。 だからステラは婚約者であるクラウスの元へと赴くなり、頭を下げた。 「一週間、貴方の時間を私にください。もし承諾して下さるのなら一週間後、貴方との婚約を解消します」 クラウスには愛する人がいた。 自分を縛るステラとの婚約という鎖が無くなるのなら…とクラウスは嫌々ステラの頼みを承諾した。 そんな2人の1週間の物語。 そして…その後の物語。 _______ ゆるふわ設定です。 主人公の病気は架空のものです。 完結致しました。

婚約者が庇護欲をそそる可愛らしい悪女に誑かされて・・・ませんでしたわっ!?

月白ヤトヒコ
ファンタジー
わたくしの婚約者が……とある女子生徒に侍っている、と噂になっていました。 それは、小柄で庇護欲を誘う、けれど豊かでたわわなお胸を持つ、後輩の女子生徒。 しかも、その子は『病気の母のため』と言って、学園に通う貴族子息達から金品を巻き上げている悪女なのだそうです。 お友達、が親切そうな顔をして教えてくれました。まぁ、面白がられているのが、透けて見える態度でしたけど。 なので、婚約者と、彼が侍っている彼女のことを調査することにしたのですが・・・ ガチだったっ!? いろんな意味で、ガチだったっ!? 「マジやべぇじゃんっ!?!?」 と、様々な衝撃におののいているところです。 「お嬢様、口が悪いですよ」 「あら、言葉が乱れましたわ。失礼」 という感じの、庇護欲そそる可愛らしい外見をした悪女の調査報告&観察日記っぽいもの。

狂犬を手なずけたら溺愛されました

三園 七詩
恋愛
気がつくと知らない国に生まれていたラーミア、この国は前世で読んでいた小説の世界だった。 前世で男性に酷い目にあったラーミアは生まれ変わっても男性が苦手だった。

笑い方を忘れたわたしが笑えるようになるまで

風見ゆうみ
恋愛
幼い頃に強制的に王城に連れてこられたわたしには指定の場所で水を汲めば、その水を飲んだ者の見た目を若返らせたり、傷を癒やすことができるという不思議な力を持っていた。 大事な人を失い、悲しみに暮れながらも、その人たちの分も生きるのだと日々を過ごしていた、そんなある日のこと。性悪な騎士団長の妹であり、公爵令嬢のベルベッタ様に不思議な力が使えるようになり、逆にわたしは力が使えなくなってしまった。 それを知った王子はわたしとの婚約を解消し、ベルベッタ様と婚約。そして、相手も了承しているといって、わたしにベルベッタ様の婚約者である、隣国の王子の元に行くように命令する。 隣国の王子と過ごしていく内に、また不思議な力が使えるようになったわたしとは逆にベルベッタ様の力が失われたと報告が入る。 そこから、わたしが笑い方を思い出すための日々が始まる―― ※独特の世界観であり設定はゆるめです。 最初は胸糞展開ですが形勢逆転していきます。

処理中です...