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「つまりあれか? 弱い攻撃ではかすり傷すら負わない。そういうことか?」

 ドラゴンや魔族などが、そのような特性を持っている。

 やつらは皮膚や鱗が恐ろしく硬いため、並の攻撃では傷つけることすら許されない。

――ホムンクルスは、それらと同じ特徴を……。だとしたら、使い道は……。

 そう頭を巡らせるルンドレスに向けて、指揮官が首を横に振った。

「いえ、我々には見えないだけで、キズは負っているようです」

「む……??」

「もう一度剣を向けると、軽い手応えを残して消えました」

「消えた??」

 改めて目を向けたが、力強く立つホムンクルスは4体いる。

 外見は同じだが、どう見てもあれらは、強くなった者たちだ。

 そう目を凝らしていると、指揮官が声のトーンを落とした。

「強いまま復活出来た。フェドナルンド様はそう言葉にされました」

「……へぇ~」

 驚きと同時に、口角が上がる。

 心の奥底から、ワクワクとした物が湧いてくる。

「それで? 軽い攻撃って言うのは?」

「ゴブリンの爪を想定したものです。必要だと思いましたので」

「うんうん。よくやってくれたよ!」

 ゴブリンの攻撃を1撃耐えることが出来る。

 倒されても強いまま復活出来る。

 復活に必要なのは、魔石と魔力だけ。

「面白いね! 楽しすぎるよ!!」

 乱戦の疲れが吹き飛ぶような、面白い情報だ。

 今すぐにでも荷台に向かい、自分で確かめてみたい!!

 そんな思いを心の奥に押し込み、ルンドレスは表情を引き締めた。

「男爵家次男として問う。我が家が敵対して勝てるか?」

 大きく目を見開いた指揮官が、ホムンクルスたちに目を向ける。

 休憩中の兵を見て、悩むように空を見上げた。

「現状のままであれば、被害も少なく勝てます」

 そう言葉にしながらも、表情は晴れない。

 ルンドレスに向き直り、指揮官は申し訳無さそうに目を伏せた。

「ですが、時間をかけますと――」

「強化され、押しつぶされる、か」

「はい。敵対を選ぶのであれば、早い方が被害は少ないと思われます」

 魔物を倒すほど強い者が増え、減ることはない。

 確かに、動くなら早い方がいいだろう。

 だが、

「兵たちが素直に攻められるか。その点にも懸念が生じます」

「ああ。評判も愛想もいい子供だからな」

 我々の敵になるかもしれない。だから今すぐ消せ!

 そう命じても、喜んで従うものは皆無だ。

 男爵家の要職でも意見は分かれるだろう。

「ミルトレイナは、間違いなく向こうにつくな」

「そうなれば、男爵家と敵対を選ぶ兵や民も出てきます」

「最後は内戦に発展し、伯爵家に介入されて仕舞いか」

 容易に想像できる未来だ。

 故に敵対は出来ない。

 理由はどうあれ、それだけの認識を共有出来ればいい。

「率直な意見が聞きたい。義弟を軍に取り込むことは可能か?」

「今のように。そういう意味でしょうか?」

「ああ」

 ミルトレイナをお飾りに、兵たちが2人を守る。

 フェドナルドが提案し、男爵が受け入れた現行の案。

 それらに対し、指揮官が首を横に振った。

「すぐにでも破綻する。そう判断します」

「理由は?」

「兵の性質が違いすぎるため、互いの強みをいかせない。それが一番の問題ですね」

 規律を守り、互いを守る人間の兵。

 無限の体力と数で戦う、黒い兵たち。

 それぞれに強みがあり、互いの良さを殺し合う。

「現状が彼らだけなら、休むことなく次を探しに向かっているはずです」

「逆に兵だけなら、全員が森の中で散らばっているのか」

「はい。そうなっていたはずです」

 無線を使い、互いの位置を把握しながら、魔物を追い込む。

 罠や地形を使った戦術は、意志疎通が容易な人間だけがやりやすい。

「適材適所。そのように感じました」

 無言のまま頷くルンドレスを横目に、指揮官がホムンクルスたちに目を向ける。

 休む兵たちと見比べて、脳内に広がる考えをまとめていく。

「訓練次第では連携も可能でしょう。ですが、それだけの時間はありません」

 長い時間を共に過ごした兵と、ホムンクルスたち。

 それらを合わせようと思うと、相応の時間が必要になる。

 であれは、いっそのこと、

「私が運用するのであれば、2つに分け、新設の部隊としてーー」

 そこまで言いかけて、指揮官の声が止まった。

 してやったり。

 そんな思いを胸に、ルンドレスが満面の笑みを咲かせる。

「うんうん、そうだよね! やっぱり、分けて運用した方がいいよね!!」

「……」

「僕も、ミルトレイナが率いる部隊の新設には賛成だよ! すごいいい案だね!!」

 発案者は指揮官の彼で、僕じゃない。

 そんな思いを込めて、笑みを浮かべる。

「でも、人間もいた方が動きやすいよね? 新人を入れちゃう? 入れちゃったりする?」

「……そうですね。あのお二人と同世代の兵を募るのがいいかも知れません」

「おお! それはいい案だよ! 孤児院から、何人か雇おうか!!」

 言わされるままの指揮官が、はぁ……と溜め息をつく。

「当主様への陳情の際には、同席していただけますか?」

「もちろん! 本当にいい案だからね!! 兄も説得して、みんなでいこうよ!!」

 明確に言質を得た!

「僕はね。彼が救世主だと思うんだ」

 進展のなかった領地が、大きく進むかもしれない。

 いや、進ませてみせる。

「もしかすると、彼は神の使いかもしれないね」

 そう思いながら、魔物がうごめく森を見つめた。
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