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26 レベル 1

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 慌てて小太刀を握り、声がした方に目を向ける。

 周囲にいた兵たちが走り出し、見えるのはその背中ばかり。

「2人は荷台へ!!」

 騎乗したルン兄さんが、兵たちを追い越して馬を走らせる。

 焦る気持ちを押さえながら、俺は小太刀を片手に、ミルトの手を引いた。

「こっちに! 先に乗って!!」

「……うっ、うん!」

 ミルトを荷台に登らせて、小太刀を構えながら周囲を見る。

 見える範囲に、ゴブリンはいない。

 ホムンクルスと兵が、俺たちを守るように武器を構えてくれている。

 背後からは、荷台に立つ音と、息をのむミルトの声がした。

「12体……」

 兵たちが向かった方角からは、兵たちの声が聞こえてくる。

 怒号混じりで、全員が必死だ。

「無理に攻めるな!」

「森に帰らせろ!!」

 乱戦の様子で、苦戦を伝える声が聞こえる。

 そんな中で、ミルトが声を張り上げた。

「逆からも来ます! フェドナくんはすぐに登ってきて!!」

「っ!!」

 ミルトの手を借りて、俺も荷台に乗る。

 見えたのは、大量のゴブリンと戦う兵の姿。

 森の前で入り乱れるように戦っていて、怪我人もいるように見える。

「あそこ!!」

 そう言って、ミルトが右側の森を指さす。

 俺が視線を向けるのと同時に、3体のゴブリンが木々の影から飛び出した。

 兵のほとんどは、左側の森の前。

 荷馬車を挟んだ対角線を取るように、ゴブリンが迫ってくる。

「荷台の護衛はーー」

 4人だけだ。

 護衛の代表者が、声を張り上げる。

「おふたりをお守りしろ! 援軍の到着まで絶えしのげ!!」

「「ハッ!!!!」」

 こちらの方が数は多く、負けはない。

 だが、絶えしのぐのが精一杯で、死人もあり得る。

 逆側の戦闘を見る限り、そんな感じに見える。


--俺も小太刀で戦い、数を補うか!?


 そんな選択もありだが、護衛たちの邪魔になりかねない。

 俺は自分の無力を感じながら、ホムンクルスたちに目を向けた。

「全員でゴブリンの足留めを!」

「「「きゅあ!!」」」

「護衛は、荷台の守りに専念せよ!」

 戸惑う護衛たちの足下を抜けて、ホムンクルスたちが駆けていく。

 先頭に立つホムンクルスの頭上には、レベル1の文字が浮かんでいる。

「フェドナルンド様、我々はーー」

「そのままでいい。ホムンクルスが取りこぼした敵をこの場で叩け」

「……承知しました」

 後続を置き去りにするように、1体だげが大きく前に出る。

 そのまま速度を落とすことなく、3体のゴブリンに突っ込んでいく。

 ゴブリンが戸惑うように足を止め、ホムンクルスが力強く地面を蹴った。

「ーー速い……!?」

 護衛の誰かが漏らした声が聞こえる。

 ホムンクルスは、スライディングでもするように、ゴブリンたちの中央に飛び込んだ。

 地面を滑りながら爪を避け、すれ違いざまに足を斬る。

「キュア!!!!」

 そのままゴブリンの背後に回り、ホムンクルスは堂々と小太刀を構えた。

 俺の隣にいたミルトが、慌てた様子で、荷台のへりに駆け寄る。

「ダメ! 1体だけ引き付けて!!」

 攻撃を受け止めようとしていたホムンクルスが、慌てて後ろに跳ぶ。

 ゴブリンの攻撃が空を切り、ホムンクルスは更に後ろに跳んだ。

「3体相手だと勝てないの。だから、1体だけにしないと!!」

「きゅあ!!」

 距離を詰めるゴブリンを相手に背を向けて、森を見る。

 そのまま大きく蛇行するように、右へと走り始めた。

「うん! それでいいよ!!」

「きゅっ!!」

 3体いるゴブリンが、ホムンクルスを追いかける。

 足から血を流す1体が遅れはじめ、その背を別のホムンクルスが小太刀で斬る。

「5体で取り囲んで! 逃がさないだけでいいから!」

「「「キュア!!!!」」」 

 これで1体を切り離せた。

 そう思って意識を戻す頃には、先頭にいたホムンクルスがゴブリンの足を斬っていた。

「うん。じょうず」

 囲まれるゴブリンに意識が向いた瞬間を狙って、反転したのだろう。

 遠くから見ていた俺でさえも、攻撃の瞬間を見逃したくらいだ。

 傷をおったゴブリンが足を止め、片方が庇うように殺気を放つ。

「囲んだ方に7体を追加して、先に倒しちゃって!!」

 追い越していたホムンクルスが反転し、攻撃に加わる。

 レベル1が2体を牽制している間に、全力で狩りに行く。

 正面を囮に使い、周囲が全力で斬りつける。

「うん……」

 ケガをしたゴブリンを相手に、5体が消される。

 それでもどうにか、遅れたゴブリンを狩れた。

「ひとりだけ石を確保して帰ってきて! 残りはみんなで時間を稼いで!!」

「「「きゅあ!!」」」

 ミルトの声が震えて聞こえるのは、気のせいではないだろう。

 優しい姉の頭に肩に手をおいて、俺はゆっくりと声をかけた。

「魔石を使えば、また元気に帰ってくるから」

「……うん。そうだよね」

 気丈に微笑むミルトが、ホムンクルスたちに指示を出してくれる。

 残る2体のゴブリンをホムンクルスたちが大きく囲み、牽制し続ける。

「よし、これで2体目!!」

 レベル1になったばかりのホムンクルスが、その囲みに合流。

 程なくして、みんなが勝ち鬨の声をあげてくれた。
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