上 下
25 / 55

25 小太刀の強化 3

しおりを挟む
 残る3体のゴブリンを無事に駆除し、兵たちがホッと息を吐く。

 周囲の状況を見計らい、指揮官が声を張り上げた。

「しばし休憩にする。見張りと交代で休みを取るように!」

「「ハッ!!」」

 危なげない戦闘だったとはいえ、魔物との連戦。

 兵たちも、相応に疲れていたのだろう。

 若い兵が嬉しそうな表情を浮かべ、先輩に小突かれている。

 そんな兵たちを流し見て、ルン兄さんが声をあげた。

「休憩は中規模でいいよ。好きな物を荷台から出して、適当にやる感じで」

「「了解しました!!」」

 若者が声を揃え、ベテランが苦笑で肩を揺らす。

 微笑ましくて和やかな、いい雰囲気だ。

 そう思っていた中で、1体のホムンクルスが、仲間に小太刀を渡した。

 自分たちで倒したゴブリンに近づき、心臓のあたりに両手を当てる。

「なにを……?」

 ホムンクルスの手が、淡い光に包まれる。

 怪しい儀式でもするかのような、そんな雰囲気。

 ゴブリンから手が離れ、エメラルドのような石が宙に浮かんだ。

「えっと、あれは……??」

「魔石、かも?」

 現状を見る限り、俺も同じように思う。

 だが、俺がこれまで見てきた魔石と、透明度が大きく違う。

 濃い緑色の宝石が、宙に浮かんで輝いている。

「きゅ!」

「「「きゅあ!!」」」

 その石を守るように、ホムンクルスたちが丸く隊列を組む。

 凱旋パレードを思わせる雰囲気で、俺たちの方に向かって歩き始めた。

「休憩していいよ! 見張りを多めで!!」

 ルン兄さんが慌てて馬を走らせて、俺たちの側に駆けてくる。

 休憩を命じられた兵たちも、ホムンクルスの行進に釘付け。

 隊列が俺の前で左右に分かれ、中央のホムンクルスが膝を付いて石を掲げた。

「献上品ってこと?」

「きゅ?」

「あれ、違った?」

 宝物を運んできたように見えたが、どうやら違うらしい。

 ミルトと共に荷台を下りて、ホムンクルスの輪に加わる。

 感じるのは、小太刀を強化した時と同じもの。

「錬金術が使える感じか……」

 ミルトに聞いた、ホムンクルスを強化する方法。

 魔物から取り出した石。

――これを使えば、ホムンクルスを強く出来る。

 そう考えて良さそうだが、ミルトが俺の腕を引いた。

「この石の価値、ゼロ、みたい、だよ……?」

 ぜろ?

 無価値の石ってこと??

「魔石って、それなりの値段で売ってるんだよな?」

「うん。ゴブリンの物なら、30コウにはなるはず……」

 日本円なら三千円くらいか。

 労働に見合わない対価に思えるが、それは追々考えるとして……、

「魔石っぽいけど違う。そういうことか?」

「えっと……、お姉ちゃんだけど、わからない、かも……」

「そっか」

 ルン兄さんにも目を向けたが、首を横に振られた。

 だけどその目は、楽しそうに輝いている。

「とりあえず試しちゃう? 試しちゃうよね?? 試してみちゃうよね!?」

「……まあ、そうですね」

 危険も感じないし、現状は想定通りに進んでいる。

 そもそもが、魔物を倒して貰って、ホムンクルスを強くするのが目的だ。

 ここで辞めるは有り得ない。

「魔力を流したらいいんだよな?」

「きゅ!」

「えーっと? 石の方が多い感じか?」

「きゅあ!!」

 今度は正解らしい。

 錬金術のスキルに導かれるように、石とホムンクルスに魔力を渡す。

 石に9割。ホムンクルスに1割。

 兵も含めた全員が見守る中で、ホムンクルスが体をふるわせた。

「きゅあ!」

 石を顔の前に掲げる。

 大きく口を開ける。

 パクン、もぐもぐもぐ……、ごっくん。

「……食べた??」

 驚く俺を他所に、ホムンクルスの体が光りを放つ。

 次いで見えたのは、ホムンクルスの頭上に浮かぶ『 レベル1 』の文字。

「……強くなった。ってことでいいんだよな?」

「きゅあ!」

 大きく頷いたホムンクルスが、誇らしげに小太刀を握る。

 外見に変化はないが、強くなったらしい。

 そんなホムンクルスに向けて、ルン兄さんが、馬上からナイフを投げた。

「きゅぁ!」

 小太刀の先でナイフを弾き、隙のない半身の構えをルン兄さんに向ける。

 ルン兄さんは剣を抜きながら、馬から飛び降りた。

「いち、にっ、さんっ!!」

 斬り降ろして、振り上げて、薙ぎ払う。

 そんな一連の攻撃をホムンクルスが小太刀でさばく。

 押される一方的で、反撃は不可能。
 だが、剣の軌道をわずかに逸らせている。

「おぉ! いいねぇ!! 本当に面白いよ!!」

「――ルン兄様!?」

「あー、ごめんごめん」

 ルン兄さんが剣を引き、鞘に納める。

 目をランランと輝かせたまま、謝罪の言葉を口にした。

「あまりにも変わって見えたから、ついつい、試しくなって」

「気持ちはわかりますが、時と場合を……」

「そうなんだけどさー。すごすぎて、試したくなるでしょ!」

 ルン兄さんが言うように、見た目以外は別人だ。

『ホムンクルスに魔物を倒させて、その魔石を吸収させる』

『ほんの少しだけ消えにくくなる』

 そう聞いていたが、動きが明確に変わったように見える。

「頭上にあるレベル1も気になるし……」

 価値ゼロの石も、魔石とは少しだけ違って見えた。

 そう思っていると、ルン兄さんとミルトが首を傾げる。

「レベル1?」

「頭上……??」

「ん????」

 古のネットゲームみたいに、大きく映っているように見えるんだが?

 二人には見えていない??

「見えるのは、俺だけ??」

 わからないことがありすぎる。

 1ってことは、強化前はレベル0??

 そう思っていると、

「敵襲! ゴブリンの群れだ!!」 

 森の方向から、兵の叫び声が聞こえた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

嫌われ婚約者は恋心を捨て去りたい

マチバリ
恋愛
 アルリナは婚約者であるシュルトへの恋心を諦める決意をした。元より子爵家と伯爵家というつり合いの取れぬ婚約だった。いつまでも自分を嫌い冷たい態度しかとらぬシュルトにアルリナはもう限界だと感じ「もうやめる」と婚約破棄を告げると、何故か強引に彼女の純潔が散らされることに‥

真実は仮面の下に~精霊姫の加護を捨てた愚かな人々~

ともどーも
恋愛
 その昔、精霊女王の加護を賜った少女がプルメリア王国を建国した。 彼女は精霊達と対話し、その力を借りて魔物の来ない《聖域》を作り出した。  人々は『精霊姫』と彼女を尊敬し、崇めたーーーーーーーーーーープルメリア建国物語。  今では誰も信じていないおとぎ話だ。  近代では『精霊』を『見れる人』は居なくなってしまった。  そんなある日、精霊女王から神託が下った。 《エルメリーズ侯爵家の長女を精霊姫とする》  その日エルメリーズ侯爵家に双子が産まれた。  姉アンリーナは精霊姫として厳しく育てられ、妹ローズは溺愛されて育った。  貴族学園の卒業パーティーで、突然アンリーナは婚約者の王太子フレデリックに婚約破棄を言い渡された。  神託の《エルメリーズ侯爵家の長女を精霊姫とする》は《長女》ではなく《少女》だったのでないか。  現にローズに神聖力がある。  本物の精霊姫はローズだったのだとフレデリックは宣言した。  偽物扱いされたアンリーナを自ら国外に出ていこうとした、その時ーーー。  精霊姫を愚かにも追い出した王国の物語です。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初心者のフワフワ設定です。 温かく見守っていただけると嬉しいです。

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

趣味を極めて自由に生きろ! ただし、神々は愛し子に異世界改革をお望みです

紫南
ファンタジー
魔法が衰退し、魔導具の補助なしに扱うことが出来なくなった世界。 公爵家の第二子として生まれたフィルズは、幼い頃から断片的に前世の記憶を夢で見ていた。 そのため、精神的にも早熟で、正妻とフィルズの母である第二夫人との折り合いの悪さに辟易する毎日。 ストレス解消のため、趣味だったパズル、プラモなどなど、細かい工作がしたいと、密かな不満が募っていく。 そこで、変身セットで身分を隠して活動開始。 自立心が高く、早々に冒険者の身分を手に入れ、コソコソと独自の魔導具を開発して、日々の暮らしに便利さを追加していく。 そんな中、この世界の神々から使命を与えられてーーー? 口は悪いが、見た目は母親似の美少女!? ハイスペックな少年が世界を変えていく! 異世界改革ファンタジー! 息抜きに始めた作品です。 みなさんも息抜きにどうぞ◎ 肩肘張らずに気楽に楽しんでほしい作品です!

【書籍化】余命一週間を言い渡された伯爵令嬢の最期~貴方は最期まで私を愛してはくれませんでした~

流雲青人
恋愛
◇書籍化が決まりました。 ◇9月下旬に販売予定です。読者様のおかげで実った書籍化です。本当にありがとうございます。 また、それに伴い、本編の取り下げが行われます。ご理解の方、よろしくお願い致します。 ______________ 伯爵令嬢のステラに突き付けられたのは、あまりにも突然過ぎる過酷な運命だった。 「ステラ様。貴方の命はあともって1週間といった所でしょう。残りの人生を悔いのないようにお過ごし下さい」 そんな医者の言葉にステラは残り僅かな時間ぐらい自分の心に素直になろうと決めた。 だからステラは婚約者であるクラウスの元へと赴くなり、頭を下げた。 「一週間、貴方の時間を私にください。もし承諾して下さるのなら一週間後、貴方との婚約を解消します」 クラウスには愛する人がいた。 自分を縛るステラとの婚約という鎖が無くなるのなら…とクラウスは嫌々ステラの頼みを承諾した。 そんな2人の1週間の物語。 そして…その後の物語。 _______ ゆるふわ設定です。 主人公の病気は架空のものです。 完結致しました。

婚約者が庇護欲をそそる可愛らしい悪女に誑かされて・・・ませんでしたわっ!?

月白ヤトヒコ
ファンタジー
わたくしの婚約者が……とある女子生徒に侍っている、と噂になっていました。 それは、小柄で庇護欲を誘う、けれど豊かでたわわなお胸を持つ、後輩の女子生徒。 しかも、その子は『病気の母のため』と言って、学園に通う貴族子息達から金品を巻き上げている悪女なのだそうです。 お友達、が親切そうな顔をして教えてくれました。まぁ、面白がられているのが、透けて見える態度でしたけど。 なので、婚約者と、彼が侍っている彼女のことを調査することにしたのですが・・・ ガチだったっ!? いろんな意味で、ガチだったっ!? 「マジやべぇじゃんっ!?!?」 と、様々な衝撃におののいているところです。 「お嬢様、口が悪いですよ」 「あら、言葉が乱れましたわ。失礼」 という感じの、庇護欲そそる可愛らしい外見をした悪女の調査報告&観察日記っぽいもの。

狂犬を手なずけたら溺愛されました

三園 七詩
恋愛
気がつくと知らない国に生まれていたラーミア、この国は前世で読んでいた小説の世界だった。 前世で男性に酷い目にあったラーミアは生まれ変わっても男性が苦手だった。

笑い方を忘れたわたしが笑えるようになるまで

風見ゆうみ
恋愛
幼い頃に強制的に王城に連れてこられたわたしには指定の場所で水を汲めば、その水を飲んだ者の見た目を若返らせたり、傷を癒やすことができるという不思議な力を持っていた。 大事な人を失い、悲しみに暮れながらも、その人たちの分も生きるのだと日々を過ごしていた、そんなある日のこと。性悪な騎士団長の妹であり、公爵令嬢のベルベッタ様に不思議な力が使えるようになり、逆にわたしは力が使えなくなってしまった。 それを知った王子はわたしとの婚約を解消し、ベルベッタ様と婚約。そして、相手も了承しているといって、わたしにベルベッタ様の婚約者である、隣国の王子の元に行くように命令する。 隣国の王子と過ごしていく内に、また不思議な力が使えるようになったわたしとは逆にベルベッタ様の力が失われたと報告が入る。 そこから、わたしが笑い方を思い出すための日々が始まる―― ※独特の世界観であり設定はゆるめです。 最初は胸糞展開ですが形勢逆転していきます。

処理中です...