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22 違和感

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「違和感があるのは、こっちの小太刀であってる?」

「はい、そっちですね」

 躊躇なく持ち上げた小太刀は、俺が違和感を覚えた方だ。

 ルン兄さんは満足そうにうなずいて、周囲に目を向ける。

「だとしたら……」

 何かを探っているような、そんな気配。

 ミルトの近くにいた1体を指さして、真剣な目を俺に向けた。

「その子が持っている小太刀。それが1番強かったりする?」

「……ちょっと待ってくださいね」

 慌てて指名されたホムンクルスを呼び寄せて、小太刀を見せてもらう。

 ルン兄さんが持つもの。
 床に置いたままのもの。

 1番ではないかと聞かれたもの。

 それら見比べて、俺はゆっくりと頷いた。

「1番かはわかりませんが、この小太刀に強い興味を覚えるのは間違いないです」

「んー、なるほどなるほど……」

 ルン兄さんは顎に手を当てて、悩ましげに空を見上げる。

 小太刀を荷台の床に置きながら、ぼそりと言葉をこぼした。

「素材じゃなくて自身の力を教えている……? やっぱり、製作系に近いのか……」

 なにかに納得したように、満足そうに頷く。

 両手で俺の手を握り、輝くような笑みを浮かべた。

「やっぱり面白いね! フェドナルンドくんは、最高だよ!!」

「えーっと……?」

「興味深くて、興味が尽きなくて、ほんとにほんとに面白い! 我が家に来てくれて、本当にありがとう!!」

「あっ、はい。どうも……」

「うんうん! やっぱり、ミルトレイナが選んだ男は違うよね!!」

「……光栄です」

 ……うん。

 ルン兄さんのテンションが、普通に怖い。

 話の流れがわからない。

 隣にいるミルトも、若干 ひいているように見える。

 そんな俺たちを余所に、ルン兄さんは、1番だと言った小太刀に手のひらを向けた。

「とりあえず、やってみようか!」

「……えーっと?」

「製作しちゃってよ!」

「なにをですか??」

「すっごい武器!!」

 ……うん。

 どうしてそうなりました??

 そんな俺の思いを代弁するように、ミルトが本を抱きしめる。

「ルン兄様。いつもの悪いクセが、出ています……」

「んー? あー、そっか。説明不足系ね」

 ポリポリと頭を掻いたルン兄さんが、苦笑いを浮かべる。

 小太刀を床に置き、ふーっと、深く息を吐いた。

「ごめんごめん、本当に楽しくてさ。ついでだから、指揮官も呼んだ方が良さげだよね」

 そう言いながら、一番高い荷物に登った。

 検分中の兵がいる方に体を向けて、大きく両手を振る。

「みんな、集合して~! 検分作業は、僕とミルトレイナが責任を持ってするから~!!」

 兵たちが振り向き、不思議そうな顔をする。

 指揮官だけは慌てた様子で、鎧で覆った肩を跳ね上げた。

「すっごく驚いているみたいですが?」

「うん。本当なら、僕は最後まで隠れてる予定だったからね」

 男爵家の次男がここにいる事を知るのは、当主様と指揮官のみ。

 周囲の兵やミルトは、知らなかったらしい。

「男爵様は、知っておられるんですね?」

「もちろん。外交に行かなかったってバレた時に、すっごく怒られたからね。今回は事前に相談したよ」

「……なるほど」

 優秀な人だと聞いていたけど、なかなかの問題児だな。

 検分作業を放棄した指揮官が馬に乗り、全速力で走らせる。

 本当に大慌てと言った様子だ。

 荷馬車の横に馬をつけ、俺たちがいる荷台に飛び移った。

「ルンドレス様。御者席で大人しくしていてくださると、お約束していただけたはずでは?」

「うん、そのつもりだったんだけどね。面白さが緊急すぎてさ!」

 どう見ても怒っている指揮官に向けて、ルン兄さんが満面の笑みを浮かべる。

 悪びれた様子もなく、懐から1枚の紙を取り出した。

「緊急時の問題解決が僕の役目! 父上から、正式な許可も貰ってるし!」

「いえ、それは、ミルトレイナ様やフェドナルンド様の暴走を止めるための物でーー」

「そんなことありませーん! 父上が書いた紙に、そんなこと書いてありまーん!」

 指揮官から目を離さず、ルン兄さんは後ろ手で、紙を渡してくれる。

『緊急時の対応をルンドレスに一任する。何人も、これを拒んではならない』

 男爵家当主の印が押された、正式な指示書だ。

 評判の悪い俺が本性を表して、

 “ 全員で森に突撃する! 俺に逆らうな!! ”

 などと言い出した時を想定した物だろう。

 指揮官が言うように、現状に即した物だとは思えない。

 だけど、“そんなこと書いてない”と言うルン兄の主張も間違ってない。

「緊急時の定義は? 今が緊急時じゃないって言い切れる? 間違ってたら大変なことになるよ??」

「…………」

 ぐぬぬぬと言った様子で、指揮官が顔をゆがめる。

 絵に描いたようなクソガキだ。

 そう思っていると、ルン兄さんが表情を引き締めた。

「書類の不備に関しては、事態が収束した後に父上と話をする。伯爵家を相手に、現状のままでは危ういからな」

 チラリと視線を向けられ、俺は改めて紙を見直した。

 伯爵家の性格を考え、ルン兄さんが予想しているであろう懸念を口にする。

「ルン兄さんを拉致し、この紙を使って男爵家の兵に命令を聞かせる……」

「その程度で済めば御の字。僕はそう思っているよ」

 文字が少なく、解釈の仕方は無数にある。

 命令書とルン兄さんの身柄があれば、どんな事でも出来そうだ。

「そちらに関しては父上に改めて話す。今はこの小太刀だ」

 床に並べた小太刀を指さして、真剣な目を指揮官に向ける。

「上役だけで話をする。護衛を出来る限り下がらせろ。よいな?」

「……かしこまりました」

 指揮官が深く頭を下げ、護衛の兵たちが慌てて動き出してくれた。
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