腐った伯爵家を捨てて 戦姫の副団長はじめます~溢れる魔力とホムンクルス貸しますか? 高いですよ?~

薄味メロン

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18 初陣

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 地下での会議から数日。

 俺は門を出た先で、討伐隊の指揮官と顔を合わせていた。

「おふたりは馬車ではなく、ホムンクルスを使った移動ですね?」

「ああ、よろしく頼む」

「こちらこそ、よろしくお願いします。英雄殿」

 隣にはミルトがいて、物資を載せた荷馬車と10人の兵がいる。

 全員が準備万端と言った様子で、居心地は悪くない。

 悪くないんだけど……、

「一応聞くが、その英雄殿というのは??」

「フェドナルンド様のことです。討伐隊を救った英雄を、副隊長殿とは呼べませんので」

 いまいち、意味がわからない。

 だが、周囲の兵は、固唾を飲んで俺たちの様子を伺っている。

 何を試している?

 そんな雰囲気を感じるが、英雄殿か……

「わかった。好きに呼んで良い」

「かしこまりました」

 ホッとした表情をした指揮官が、握手を求めてくる。

 素直に握り返すと、指揮官は男らしい笑みを浮かべてくれた。

「確認だが。村にはいかず、日帰りで帰宅する。そんな予定だな?」

「はい。男爵様より、そのように聞いております」

 つまりは、お試し。

 明言されていないが、俺たちに対するテストだ。

「了解した。まずは普段通りに動いてくれるか? 俺とミルトは、そちらに合わせる」

「承知しました」

 指揮官の号令で、兵たちが一斉に動き出す。

 荷馬車を中央に置き、物資を守るように配置についた。

「俺たちも馬車の近くにいた方がいいな?」

「そうですね。そうしていただけると幸いです」

「承知した」

 普段はポーションが積み上げられる馬車も、今は食料が乗るだけ。

 大人3人が横になれるような、広いスペースがあいている。

 そんな荷馬車の後ろに移動し、俺は豪華な絨毯と布を広げた。

「持ち上げてもらえるか?」

「「「キュッ!!」」」

 それぞれの四隅を持ってもらい、分厚いだけの布に乗る。

 隣を指さして、ミルトに目を向けた。

「こっちの豪華な方が、ミルト隊長の特等席です」

「うっ、うん……」

 お飾りの立場ではあるが、ミルトが隊長で、俺が副隊長だ。

 この場にいるのは全員身内のようなものだが、一応の配慮は必要だろう。

 騎乗する指揮官を横目に見ながら、俺はホムンクルスたちに声をかけた。

「ミルト隊長には、絶対にケガをさせないように」

「「「キュッ!!!!」」」

「魔物が見えたら、教えてくれるな?」

「「「キュァ!!」」」」

 全員が気合十分。

 布はハンモックのようで、居心地も悪くない。

 日差しも朗らかで、いい感じだ。

「……下手すると寝るな」

 そんな事を思いながら、近付いてきた指揮官を見上げた。

 地面すれすれの布に乗る状態だから、軍馬が異様に大きく見える。

 ビビる気持ちを押し込め、指揮官を見上げる。

「準備は整ったか?」

「はい。こちらは問題ありません」

 俺たちも、準備万端。

 あとは、隊長のありがたい声を聞くだけだ。

「ミルト隊長。号令をお願いします」

「うっ、うん……」

 顔を赤くしたミルトが、本を抱きしめる。

 周囲を見渡して、視線をそらした。

「……出発。してください……」

 本で顔を隠しながら、体を小さくする。

 声も態度も小さいが、可愛いは正義。

「承知しました。おまえら、進むぞ」

「「うっす!!!!」」

 全員が微笑ましい物を見る目をしながら、ゆっくりと進み出してくれた。


 そうして大きな街道を進み、1時間ほど。

 御者に命じて荷馬車を止めさせた指揮官が、声を張り上げた。

「ここを討伐の起点とする。準備をはじめろ!」

 男爵家から目と鼻の先。

 この周辺で魔物を狩るのが、俺たちに与えられた仕事だ。

「本当に近いな」

 荷馬車の速度で1時間。

 ホムンクルスが休まず走れば、30分で到着する距離だ。

 道は土を踏み固めただけのものだが、幅は広く、周囲も切り開かれている。

 領内では1番馬車の通りが多い、男爵家が持つ主要道路だ。

「こんな場所に、魔物が出たのか……」

 国道とまでは言わないが、最重要の県道クラス。

 この道を通った多くの者が、魔物を見かけたそうだ。

「魔物も人間の強さは知っている。そう聞いていたんだがな」

 魔物は町には近付かず、自分たちの生息地からあまり出てこない。

 日本で言うところの、熊みたいなものだ聞いていだんだが……

 そう思っていると、絨毯を下りたミルトが俺の袖を引いた。

「えっとね。魔物の数か増えちゃうと、住む場所が少なくなるから」

「町の方に溢れてくるのか」

「うん。最近だと、おおきな道の近くにも巣を作っちゃうみたくて……」

 なんとも面倒な話だ。

 周囲を見渡して、魔物がいるであろう森に目を向ける。

 隣に来た指揮官が、馬を下りて頭を下げた。

「申し訳ありません。我々の不徳の致すところです」

「いや、皆はよくやっているよ」

 魔物が増えている原因は、討伐が追い付いていないから。

 ゆえに、多くの魔物を討伐できれば問題解決!

 そう単純な話じゃないし、彼等がサボっていたわけでもない。

「領民は減り、回せる金も減る一方だからな」

 高い給料に引かれ、男爵領を出ていく兵も多くいる。

 この地に残っているのは、強い思いを持つ者だけだ。

「準備は済んだか?」

「はい。万事整いました」

 思い浮かぶ様々な問題を振り払い、気合いを入れ直す。

 まずは、目の前の仕事に集中する。

 そう自分に言い聞かせて、俺は周囲を見渡した。
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