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16 戦姫の願い

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「この話を知っている人は?」

「司祭様とお父様、それと専属メイドマーシャさんだけ」

「男爵様の許可を貰いに行った、あの人か……」

 本当のスキルを知っているのは、当主と側近のみ。

 兄や師匠も知らない。

 本当に、極秘情報のようだ。

「下手に広まっちゃうと、関わった人みんなが処刑されちゃう可能性が高くて……」

「んーと??」

「王妃は唯一無二の存在だったって、神格化している派閥があるの。だから2人目が現れちゃうと……」

「秘密裏に処刑か。なるほどね」

 魑魅魍魎の貴族社会らしい、あるあるの話だ。

 初代王妃に連なる貴族の博付け。

 ご先祖様の功績を大きく見せたいから、第二、第三の戦姫が出てくると困る。

「私が王妃様の血を引いていたら、まだ良かったんだけど」

 どれだけ遡っても、初代王妃と関わりはない。

 そもそもが、中立を表明している教会の司祭が、隠すように助言したくらいだ。

 戦姫のスキルを巡り、過去にもいろいろとあったのだろう。

「面倒に巻き込んで、ごめんなさい。でも、どうしても欲が出ちゃって……」

 黙って聞くことしか出来ない俺に、ミルトが申し訳なさそうな目を向けた。

「これを見てくれないかな……?」

 本に挟んでいた紙を取り出して、テーブルの上に広げてくれる。

 書かれていたのは、男爵領の地形と軍に関わる数字だ。

「私が死ななくても、みんなを守ることが出来るかもって。戦姫のスキルが教えてくれて」

 ミルトが生贄になり、伯爵家を攻める口実を作る。

 そんな手を使わなくても、領地を守れる可能性が見えた。

「動くなら今が良くて、フェドナくんの協力が必要で……」

 だからスキルの秘密を打ち明けて、信頼を得るために動いた。

 そんな感じか。

「戦姫のスキルを信じて、みんなを助けてほしくて……」

「……なるほどな」

 ミルトの言いたいことはわかった。

 俺の方針とも一致するし、感情面でも彼女を助けたいと思う。

 だけど、その上で、言いたいことが1つある。

「俺は、戦姫じゃなくて、ミルトを信じるよ」

 ミルトが顔を上げて、不思議そうに俺を見上げる。

 俺は、戦姫の威光を借りようとした少女の額を指先でつついた。

「スキルは、ただの補助器具だ。みんなを守ると決めたのはミルトだからな」

 俺が持つ錬金術のスキルは、ポーションやホムンクルスを作りやすくするものだ。

 状況に合わせて、勝手に動いたりしない。

 どんなにすごいスキルを持っていたとしても、最後に決めるのはミルト自身になる。

「沢山の本を読んで、必死に頑張るミルトの姿を見てたからね」

 俺は、戦姫を知らない。

 どんなことをしてくれるスキルなのか、詳しい話は何も知らない。

 だけど、錬金術の本を持ってきたミルトの覚悟は、この目で見ている。

「なにひとつスキルを持ってなかったとしても、ミルトが決めたことなら話を聞くよ」

 出来ることは、なんでもする。

 ミルトが真剣に考えて出した答えなら、誠実に向き合いたいと思う。

 だけど、それ以上に、

「今後は、2人で相談して。より良い案が出るようにしたいかな」

 俺が知らないだけかも知れないが、ミルトは、戦姫のスキルを過大評価しているように思う。

 確かに、自己犠牲を決めた覚悟は立派だ。

 だけど、男爵家の人間は誰1人として、ミルトの犠牲を望んでいない。

 日が浅い俺でも、そのくらいのことは簡単にわかる。

「ミルトだけじゃ見えない物があると思う」

 すごいスキルを持っていても、決めるのはミルトだ。

 12歳だから人生経験は浅く、間違えることも多いだろう。

「1人で抱え込まない事と、報告と相談を絶対にする事。それだけ約束してくれないかな?」

「……えっと、約束したら、みんなを助けてくれる?」

「もちろん。俺はもう、この家の人間だからね」

 伯爵家と敵対するし、ミルトを含めて周囲を守る気でいる。

 そのための知恵を借りれるのなら、本当にありがたい。

 俺の方から頭を下げてお願いしたいくらいだ。

「わかった、約束する。……ありがとう」

 本で顔を隠したミルトが、ほっとした声を聞かせてくれる。

 ミルトがたった1人で、大きな決断を抱え込む。

 現状のような問題が、今後は起きないように。

「いまわかっていること。今後の作戦。その辺をおしえてくれる?」

「うん。えっとね……」

 俺は気を引き締め直しながら、彼女の言葉を脳に叩き込んだ。
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