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8 ホムンクルスのお披露目

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「わざわざ来て貰ってすまんな」

「いえ。時間を割いていただき、ありがとうございます」

 庭の先にある、質素な訓練場。

 踏み固められた土が広がるその場所で、俺は男爵と握手を交わしていた。

 少しだけ離れた場所では、男爵家の兵たちが、思い思いに汗を流している。

「体調はどうだ?」

「先ほど医師より、完治したと告げられました」

「そうか。それはなによりだ」

 俺が嫁の実家に来て20日。

 病室と庭を行き来する生活は、今日で終わりのようだ。

「使用人たちからも、その方の良い評判が聞こえている」

「そうですか。異物である私に優しくしてくださり、ありがたい限りです」

 そもそもの話だが、俺が倒れた原因は、魔力を使い過ぎたから。

 病気でもなんでもない。目が覚めたら完治だ。

 それなのに今日まで完治を告げられなかったのは、俺の人間性を見るためだろう。

「屋敷に、その方が住む部屋を用意した。後でメイドに案内させよう」

「……よろしいのですか?」

 この家は男爵家の顔であり、貴族や商人の往来がある。

 子爵家の人間だった俺に聞かせたくない話もあるだろう。

 悪評や面倒を避けるために、町の空き家を紹介されると思っていた。

「無論、ミルトレイナを泣かせるようであれば、容赦はせぬがな」

 男らしい笑みを浮かべて、男爵が俺の肩を叩く。

 義父のスキンシップだと思うが、正直痛い。

 そう思っていると、男爵が耳打ちをした。

「ホムンクルスは外に出さず、訓練はこの場を使うように」

「……なるほど。そういうことですか」

 この家に来てからずっと、俺たちは全員でストレッチをして、みんなで走っていた。

 黒いぬいぐるみが遊んでいるようにしか見えなくても、一般人には未知の光景だ。

 デコピンで消える戦力だが、知らない人がみれば恐怖でしかない。

「ご迷惑をおかけしました」

 ミルトも一緒だから、使用人がやめて欲しいとは言えないしな。

 監視の意味も込めて、屋敷に部屋を用意した訳か。

「よい。先も言った通り、使用人からの評判は予想以上だ」

 それは俺がフェドナくんだったからだ。

 ウワサに聞いたよりまともでよかった。そんな評価だろう。

「父としては反対だが、その方にはミルトレイナの力も必要なのであろう?」

「はい。ミルトレイナ嬢には、多いに助けられております」

「ミルトでよい。男爵家当主として、その方には期待している」

 おまえには、娘の知恵が必要なんだろ?

 期待して見といてやるよ。

 ダメだった時は、どうなるかわかってんだろうな? ああん?

 意訳するとそんな感じか……

「承知しました。この場にて、これまでの成果を見ていただけますでしょうか?」

「む? 見せてもらえるのか?」

「本当に、微々たる力ですが」

 訓練場に呼び出しておいて、よく言うよ。

 病気治ったー? 住む部屋をあげるよー。

 そう伝えるだけなら、応接室に呼べばいい。

「失礼ですが、兵の方にお願いがあります」

 訓練中の兵の中で、1番偉そうな人に目を向ける。

 服の装飾を見る限り、一般兵くらいなら自由に命令できる人だろう。

「重い武装をした人を3人と、正方形の絨毯を3枚用意してもらえますか?」

 後半は、遠くに控えているメイドさんに対してのお願いだ。

「む?」

 こちらを向いた兵士やメイドたちが、不思議そうな顔をする。

 そんな人々を横目に、男爵が目を見開いた。

「武装した兵を運ぶ気か?」

「はい。現状では、3人が限界かと」

「……なるほどな。あのときの光景は、窮地に落ちた主人を助けるための力ではなかった。そういうことか」

 そうつぶやいて、男爵がメイドに指示を出してくれた。

 訓練を終えた兵が集まる中で、分厚い絨毯が運ばれてくる。

 ただ、その数は1枚だ。

「その方とミルトレイナが運ばれてくる姿は見ている。優れる点は、持久力だ」

 俺が気絶したあの日。

 男爵は、ミルトが単独で伯爵家に向かったと知り、慌てて馬を走らせた。

 だが、事前の根回しもなく、伯爵領には入れない。

 単独の突撃も考えていた中で、気絶した俺たちを運ぶホムンクスルを見たそうだ。

「あの光景を再現出来れば、武装した兵も運べるだろう。だが、それであれば馬でよい」

 ホムンクルスたちに馬ほどのスピードはなく、突破力もない。

 仮に馬と同等の力を付けたとしても、ホムンクルスの持ち味はそこではない。

「疲れを知らず、動き続ける」

 その点が、なにより優れている。

 であれば、乗る者が武具を着ている意味はないそうだ。

「この黒き者は、手元を離れても動き続ける。そう思って良いな?」

「はい。男爵領の端まで単独で行けることは確認しております」

『フェドナくんが、気絶しても消えなかったから。どこまでても離れられる、かも……?』

 そうミルト姉さんに聞いて、色々と実験した結果だ。

 ただ真っ直ぐに走り続るだけで、細かな指示は出せない。

 その実験結果はミルトを通じて、男爵にも伝えてある。

「伝令に向く者を用意した。この者を乗せて、長距離を走って貰いたい」

 長距離の伝令に使えないか?

 この世界を長く生きた男爵は、そこに活路を見出したようだ。

「昼夜を問わず、最低でも3日は必要だな」

「わかりました」

 長距離、長時間の伝令と聞いて、戦国ドラマを思い出す。

 道なき道を走る駕籠かごのヒモに掴まり、味方の謀反を殿様に伝えた男たち。

 フェドナくんに伝令の知識はないが、同じような世界なのだろう。

「それでは、始めさせていただきます」

 本当に伝令するわけでもないのに、訓練に付き合ってもらって申し訳ない。

 そう思いながら、伝令の人を見る。

 するとなぜか、その場にいた全員が、大きく目を見開いた。

「……出来るのか?」

「確証はありませんが、伝令の方にはお付き合いいただきたく思います」

「う、うむ」

 了承を得て、絨毯に乗った人を持ち上げて貰う。

 道案内に従うようにお願いして、8体のホムンクルスたちに走り出して貰った。
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