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4 錬金術の可能性

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 ミルトに勧められて、俺たちは中庭に向かった。

 なんでも我が家には、物騒な結界が張ってあるらしい。

「お部屋の中で魔力を使うと、爆発しちゃうと思います」

「へ……? 爆発?」

「はい。部屋の中にいた人は、たぶん……」

 死ぬレベルですか、そうですか。

 強い魔力を感知したらドカン。

 特に俺たち兄弟や兵の詰め所には、強力な物が設置されているらしい。

「裏切りを恐れて、か?」

「確証はありませんが、可能性は高いと思います……」

 当主の屋敷は別にあって、そっちは父だけを守る結界だ。

 露骨すぎて、溜め息すら出ないな。

「庭なら大丈夫なのか?」

「はい。周囲に見られそうな場所なら大丈夫みたいです」

「なるほどな」

 我が家の庭は、芝生だけの殺風景なもの。

 家のどこからでも見えて、メイドなどの視線が飛んでくる。

「ここでおかしなことをすれば、父に報告がいくのか」

 ちなみにだが、盗聴器の類は違法だ。

 王家の抜き打ち調査が入るため、そっちの心配はない。

「なんともすごい家だな……」

 露骨な庭も結界も、違法じゃないからOK。

 怪しい? 知らんがな。

 そんな父の態度が透けて見える。

「部屋の爆破はともかく、視線は気にしなくていいな」

 ハズレスキル持ちが、庭で馬鹿なことをしている。

 余程のことがなければ、そう報告されるだけだ。

「錬金術の実験を始めよう。何をすればいいか、指示してもらえるか?」

「わっ、わかりました」

 錬金術の本を持ったミルトが、いそいそと動き出してくれる。

 メイドに用意してもらった箱の中から、いくつかを取り分けてくれた。

「最初は、初級ポーションの作製です」

 大きなすり鉢で、薬草を念入りに磨り潰す。

 水を混ぜて、透明なビンに入れて、両手をかざす。

「魔力をなじませると、ポーションが出来るみたいです」

 言われる通りに、魔力を流していく。

 緑色だった液体が、綺麗な青に変わっていた。

「すごいですね。すぐに出来ちゃいました」

「まぁ、スキル持ちだからな」

 言われた通りのことしかしてないし、ラノベのイメージでやっただけだ。

 それにこれは、工場で大量生産できるものでしかない。

「市販品は、1本1コウか?」

「はい。そのくらいです」

 日本円に換算すると、1本100円くらい。
 薬草は3本で200円。

 ポーションを3本作って、100円の儲けだ。

 磨り潰す時間などを考えると、商売に結び付くとは思えない。

「確かに、趣味のレベルだな」

 中級、上級、超級のポーションも、同じような物。

 工場で作れて、相応の値段で売っている。

「錬金術のスキルを持っていると、調合に誤差があっても、作れるみたいです」

 逆に言うと、誤差なく調合できる装置があれば、錬金術師はいらない。

 だから、工場で量産できるわけだ。

「よし。次を試してみよう」

 この世界の錬金術は、大きく分けて3つある。

 ・ポーションの作製
 ・武具の製造
 ・ホムンクルスの使役

 それらすべてを試し、一応、成功した。

 だが、

「すべてが下位互換なのか」

 ポーションは工場に勝てない。

 武具の製造は、それぞれに専門の職人がいる。

 ホムンクルスは、魔物を使役するテイマーが上位互換だ。

「器用貧乏」

 その言葉がぴったりくる。

 一緒に頑張ってくれたミルドも、申し訳なさそうに本で顔を隠していた。

「だけど、あれだな。なにもないよりはいいか」

 そう呟きながら、60センチくらいの黒い人形を見下ろす。

 俺の魔力と魔石を混ぜて作ったホムンクルス。

 それなりに期待したが、小さなナイフすら振れなかった。

「こいつも、荷物持ちは出来るし」

 ポーションを両手で抱きしめて、ホムンクスルが嬉しそうにうなずく。

 話すことは出来ないが、俺の言葉には不備なく反応してくれる。

「ペットとしては優秀だな」

 よしよしと、ホムンクルスの頭をなでる。

 ちなみにだが、1体目は消えた。

 耐久テストで俺がテコピンしたら、簡単に消えてしまった。

「さて、どうするかな」

 すべてが簡単に成功したおかげで、素材は大量に残っている。

 だが、錬金術の訓練を続けても、今後につながるとも思えない。

 そう思っていると、ミルトが本を見つめて、不思議そうな声を漏らした。

「ホムンクルスは成長しない。ナイフで突けるけど、斬れない……」

「ん??」

 顔を上げたミルトと目が合う。

 二人そろって、首をかしげる。

「ナイフで突けた?」

 俺が突くように頼むと、ホムンクスルはナイフを落とした。

 成長しないはずなのに、ナイフを扱えたホムンクスルがいた。

 何かがおかしくないか?

「読み返してみます」

「ああ。よろしく頼む」

 目の色を変えたミルトが、本を読みこんでいく。

 彼女が与えられたスキルは、文官。

 情報の整理や、書類の作成が得意になるらしい。

「この世界のスキルって、どっちかって言うとジョブっぽいよな」

 そう呟いた俺の声も聞こえていない。

 本人曰く、脳内に図書館があって、過去に読んだ本や書類を検索できる。

 その図書館も使って、いろいろと悩んでいるのだろう。

「造り手に出来ること。ホムンクスルは、それが出来る……?」

 ミルトの口から、俺の運命を変えてくれそうな言葉が漏れ聞こえた。
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