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 飢えに苦しむ者の受け入れを始めてから1ヶ月。

 続々と町を訪れる移民に対し、町外れに急ぎで立てたテントのような簡易住居を斡旋し、着実に受け入れ態勢を充実させていった。

「本日の夕食は、猪のスープとパン1つ、それから、茹でかぼちゃでーす。家番号と名前をこちらで伝えてから、受け取ってくださーい」

 移住者には予定通り、朝晩1日2回の配給を行う。その際の給仕や料理人には、移民の中から経験者を募り、僕が雇い入れる形で仕事をしてもらっている。
 給料は食料や衣類などの現物支給だ。

「おら、そこ。順番を守れないようなら、裸で秘密の洞穴に放りこむぞ」

 人が急激に増えると、混乱が起こる。それを事前に防止するため、旧市民で近衛兵団、移住者で防衛団を組織した。
 こちらも経験者を優先しているので、一見すると新人ばかりの近衛兵団より防衛団の方が統率が取れていが、新しく入ってきた者を上にすると、先に暮らしていた者からの反発が予想されるため、このような形になったのだ。

 防衛団は主に移民達の争いを無くすために動いてもらっている。まぁ、現在の主な活動は、配給時の列整備になっているが、それも必要なことだろう。

 近衛兵団については、主に強盗の逮捕を任せている。動きについては素人に近いのだが、この町の地の利は知り尽くしているので、それなりの検挙率をあげていた。
 まぁ、すずめからの情報を流しているお陰って部分も多いのだが……。
 ちなみに、捕まえた人は、最近すずめの力で見つけた領内の炭鉱に送り込む。支給は3食の飯だけで、犯罪奴隷として働いてもらうことになった。

 食糧不足の現在、食料の価値は命に等しい。住民からは打ち首を望む声も多かったが、人手が必要なため、このような処置になった。
 そんな罰則も、飯を食えないよりはマシだと、ありがたがる者が多いのも事実だ。

「ハウン姉、悪いんだけど、足の速い者を使って、この手紙をシェル町の町長に届けてもらえないか?」

「畏まりました。すぐに手配いたします。……しかし、最近多いですね」

 僕から手紙を受け取ったハウン姉は、心底疲れた顔をした。そして、てきぱきと部下に指示を出し、どんどんと手紙が人の手を渡り歩いていく。そして、その手紙が目当ての人物に届いたのは、それから1日が経過したころであった。

「親父、クラッド領から手紙が届いたぞ、それもクラッド町長の印が押してある」

「……なに?」

 慌てて手紙を奪い取り、破るようにして中身取り出し、確認した彼は、その表情を一気に硬いものにした。

「…………作戦は中止だ」

「は?」

 息子は状況が理解できなかったのだろう。親父の顔をまじまじと見つめる。

「作戦ってあれか? 食料を奪いに行く作戦か? 中止するって、飢え死にを待つようなもんじゃないか。あそこには食料があるんだぞ。だまって見てろっていうのか?」

「…………ふぅ。ほれ、読んで見ろ」

 溜息を吐き出しながら渡された手紙を受け取った彼は、次第にその表情に影が混じりだす。

「……どういうことだ? これからの計画がすべて書いてあるじゃないか。なせ相手の町長が、俺達の実行日時や進行経路、人数、武器の数まで把握してるんだよ!!」

「そこに相手方が持つ、すべて情報が書いてあるとは思わん。この内容を考えるに、作戦のすべてを知っていると考えるのが妥当だろうな。……むしろ、ここまでされては、わしの髪の毛の数まで知ってるぞ、と言われても驚かんな」

「…………」

「作戦は中止だ。クラッド町長宛に反抗の意思が無い事と、今後は貴方の指示には逆らいませんと、言質を取られない程度に書いて出してくれ。わしはすこし休む」

「…………あぁ、わかったよ」

 王国の規定に背き、国全土から非難されることを理解しながらも、食料を得るためにクラッド領に攻め入ろうとした領主も数多く居たが、彼らの進軍は一通の手紙によって発起する前に撃破されていった。
 そしてその手紙があまりにも恐ろしく、彼らの心に恐怖の念を抱かせた。その結果、クラッドには絶対に逆らわないと心に決める者が続出し、その影響力を急激に増大させていった。
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