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 足を撃たれ、歩けなくなったゴブリン達にも止めを刺し、周囲の気配を探る。
 
 動物の気配は感じるが、ゴブリン達のような禍々しい存在は居ないようだ。
 
「ふぅ、なんとかなったな。……ジュリ、怪我はないか?」
「うん、大丈夫だよ。お兄ちゃんは?」
「俺も大丈夫だ」

 感覚をすずめを共有すれば、村の入り口で、心配そうに森を見つめるソフィアの姿が映し出された。

「ソフィアとハウン姉も無事みたいだな。よし、それじゃぁ、あの石を拾って村に帰るぞ」
「うん」

 念の為と、拾う前に鑑定を行った。

・魔玉・小 ランクD 
 説明:祈りを捧げると技術レベルが上がる。 
 使用制限:ハウン、ジュリ

 予想通り、魔玉らしい。 

 ハウン姉の話しでは、一般的に魔法を増幅させるための媒介として用いるらしいのだが、技術石を使った僕達にとっては、経験値のようなものだろう。
 使用制限が、僕とジュリなのは、倒した際に近くに居たからか、傷をつけたのが、僕達だからだと思う。
 ほんとうに、ゲームの経験値システムに近い気がする。

 この使用制限が無ければ、ソフィアの空間魔法のレベルが上げれるのかを調べたかったのだが、不可能なようだ。

 仕方がないので、僕とジュリで様子を見ながら使うことにした。
 
「それじゃぁ、僕から使うよ。技術石のときはジュリからだったし、良いよな?」
「うん。おにいちゃんにお任せするよ」

 足元に集められた禍々しい石を1つ手に持ち、ジュリに宣言する。

 真っ黒な球体の中には、さらに黒い煙のようなものがうごめいていた。
 とてもじゃないが、試しもせずに、ジュリに渡せるような見た目ではない。

 そんな石を両手で包み、胸に当てる。
 ほどなくして、何かが自分の中に入り込む感覚を感じたかと思うと、手の中には何も残って居なかった。

 すぐに鑑定スキルで自分を見たところ、無事に召還魔法が2にあがっているのが、確認出来た。
 それに、体調が悪くなるなどの不具合もなさそうだ。

「ジュリ、ちょっと後ろに下がってくれるか?」
「うん、いいけど。どうしたの? 魔玉は?」
「あぁ、無事に技術力が上がったよ。それで、新しい召還獣を出せそうなんだ」

 なんでか、と聞かれるとわからないが、なんとなく、出来そうな気がした。

 ジュリが十分に離れたことを確認し、魔方陣に魔力を注ぎ込む。すると、魔方陣から30センチ程度のシルエットが浮かび上がってきた。



「……おにいちゃん、すずめさんだよ?」

 現れたのはどう見てもすずめだった。しかし、毛並みの色が少しばかり異なっている気がする。それに、感覚を村の方に向けると、相変わらず森を見つめるソフィアの姿が確認出来た。

 ……どうやら、召還出来るすずめが2匹に増えたようだ。

「……あー、ジュリ、悪いんだが、魔玉、もう1個、貰っていいか?」
「うん、もちろんだよ」

 続けて、2個目、3個目、4個目と使用した結果、召還出来る召還獣は5体になった。
 勿論、別の種類なんて増えていない。全部すずめである。

「仲間が増えてよかったね、お兄ちゃん」
「……そうだな」
 
 純粋に喜ぶジュリに対しては、そう答えるのが精一杯だった。
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