上 下
45 / 73

<44>

しおりを挟む
 結局、焼き鳥を諦め、おつまみには、チーズとソーセージを購入し、宿で待っていたハウン姉と合流した。

 念の為にと、ハウン姉にも炭について訪ねてみたが、彼女も知らないらしい。
 
 商人として国中を回っていたハウン姉が知らないということは、この国に炭は存在しないと確信して良いだろう。
 地球では大昔から使われていたはずの炭が、何故無いのかはわからないが、今後の僕達には好都合である。

「炭について話す前に、僕についてなんだが。……どうやら、僕は前世の記憶を持って生まれてきたらしい。僕の中には前に生きていた世界の記憶があるんだ」

 特別秘密にしようとしていた訳ではないが、話す機会もなかったので、折角だからと話して見ることにした。

 僕の言葉が理解できなかったのか、ジュリとハウン姉さんは首を傾げている。
 そんな中、ソフィアだけが強い反応を見せた。

「前世の世界と言ったからには、この国とは別の場所の記憶があると理解して良いのかな?」
「そういうことだ。この国よりも技術が進んだ、日本と呼ばれる国で生活していた記憶がある」
「スミと呼ばれる物は、その国にあった物と言うわけだね?」
「そういうことだ。そして、僕はその炭が、僕達の村を発展させる物だと思う」

 そのまま、炭の説明に移った。
 前世の記憶に関しては、後でゆっくりと話すとしよう。

「炭は、薪に付加価値をつけたような物なんだ。
 薪と比べて体積が小さいのに火が長持ちする。詳しくは知らないが、重さも大きさも1/3程度になり、燃焼時間は2時間を越える物も作れる。そしてその火も薪と比べて安定するんだ。
 幸いなことに、僕達の村には木がたくさんある。そして、軽く小さい炭は輸出に最適だと思うのだが。
 ……ハウン姉、専門家としてどう思う?」
「そうですね。……クラッド様の話し通りの物なら村で作って見る価値はあるかと思います。
 問題は、加工についてでしょう。どのくらいの作業を行う必要があるのですか?」

 日本時代の僕は、炭については専門家どころか、作ったこともない。
 使ったことはバーベキュウくらいで、それこそ数えた程度である。

 それでも、加工については、なんとなくではあるが知っていた。

 5人組みのバンドグループが村を作るテレビ番組の内容を思い出しながら、話を進めていく。

「作業自体は火を燃やし続けるだけなんだが、3日ほど燃やし続ける必要がある。それに専用の窯も用意する必要があるが、1度に大量の炭を作ることが出来たと思うから、さほど問題ではないと思う」
「3日ですか……。現物を見て見ないと確かなことは言えませんが、高級な薪として売り出すことも可能かと思います」
「そうか。どちらにしろ、1度作ってみないことにはどうしようもないか。……よし、村に帰ったら早速作るかな。ダメだったら別の物を探せば良いだけだしな。
 そういう訳だから、ジュリ、ソフィア、村に戻ったら手伝ってくれるか?」
「うん、お兄ちゃんのためなら、何でもするよ」
「私も了解したよ。出来る限りのことをすると約束しよう」

 何の迷いもなく頷いてくれた2人に対し、感謝の念を抱きながら、ハウン姉の今後の行動について確認する。

「ハウン姉はどうする?」
「そうですね。炭作りも大変興味深いのですが、私は商売をしながらゆっくりと村に向かおうと思います。
 商会と敵対する形になってしまった現状では、村に塩などの物資を販売する者など、私以外居ないでしょうから」
「……たしかにな。しかし、商会の力もなく商売なんて出来るのか?」
「その点についてはご心配なく。
 村購入の成功報酬として頂いた資金がありますし、個人的に仲良くさせて貰ってる商人も居ますので」

 僕が渡せたお金なんて微々たる物だ。個人的なつながりがあると言っても大変なことに間違いはないだろう。
 そうわかってはいても他に打開策などあるはずもなく、ハウン姉に同意し、頼ることしか出来なかった。
 
しおりを挟む

処理中です...