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 幼い頃から鍛えてはいるものの、女性2人を密着させた状態では、人混みで動けそうになかったので、断腸の思いで、手をつなぐだけにしてもらった。
 
「それじゃぁ、ゆっくり見て回るか」
「はーい」
「了解したよ」

 美女を両手に侍らせ、アクセサリーを所せましと並べた店や、剣や盾の店、パンケーキの店など、目に付くものを取り止めとなく眺めていった。 
 
 2人に何か記念のプレゼントをとも思ったが、あいにくと手持ちが心もとない。
 僕の懐事情については、彼女らも重々承知しているためか、2人も何かをねだることもせず、嬉しそうに隣を歩いてくれた。

 そして、冷やかした店が10を超えた頃、辺りが夕暮れに染まりはじめる。

「暗くなる前に宿に戻るとするか。
 それで2人とも、何か欲しい物はなかったのか?」
「うーん。私はお兄ちゃんと一緒に、いろんな物を見て回れただけで楽しかったから、物は別にいらないかなー」 
「ボクもジュリの意見に賛成するよ。なかなか興味深い幸せな体験が出来た。ありがとう」

 ジュリもソフィアも、満開の笑顔であり、僕に遠慮しているわけではなさそうだ。
 そのまぶしい笑顔が、余計に僕の情けなさを助長させる。 
 
「……それじゃぁ、ハウン姉に食べ物でも買って帰るとするか。
 何が良いと思う?」
「うーん。さっきのパンケーキとかどぉかな? 
 あとお酒。それにおつまみもあるとハウン姉さん喜ぶと思うよ」
「そうだな。そうするか」

 人混みをかき分け、他愛の無い会話を続けながら、お酒とスイーツを購入した。
 あとはおつまみだけなのだが、なかなか良さそうな店が見つからない。

 何件目になるかもわからないほど料理の屋台を眺めたところで、ソフィアから質問が飛んできた。

「ご主人様。先ほどから、串焼きの屋台ばかりを気にして見ているようだが、キミはなにか探しているのかな?」
「……あぁ。実は、鳥の肉を串に刺して、炭火で焼いた物を探してるんだよ。
 何件か鳥の肉を扱う店はあったんだが、どうも薪で焼いてるみたいでな」

 つまりは焼き鳥を探していた。
 屋台的な場所で、酒のおつまみといえば焼き鳥だろうと考えた訳だ。
 それが、どういう訳か、何件巡っても良さそうな店に巡り会わなかった。
途中、妥協して薪の焼き鳥でも、とも思ったが、薪では火の勢いが強すぎるのか、表面が焦げた物ばかりである。
 まぁ、それはそれで香ばしく、美味しいと思うのだが、どうせなら、炭火でじっくり焼いた焼き鳥が食べくて探して居た訳だ。

 そんな僕の思いを打ち砕くかのような言葉が、ジュリから発せられる。

「……お兄ちゃん。スミビってなに?」
「え?」

 嫌な予想と共にソフィアに顔を向けると、その予想を肯定するように彼女が首を横にふった。

「恐らくは藁焼きのように、○○焼きと付いてることから、スミビという物を燃やした火で焼いた鳥肉だとは思うが、聞いたことがない調理法だよ」
「いや、炭火は炭を燃やした火のことだ。……その法則に当てはめるなら、炭焼き鳥だな」
「……スミに関しても聞いたことはないな。ボクが読んだ本の中にもスミなる単語は出てこなかったと記憶しているよ」
「えっと、あれだ。真っ黒い木の塊に火をつけて、長時間燃やすやつあるだろ。あれだよ」
「黒い木って魔界の木だよね? お兄ちゃん、見たことあるの?」

 最後の望みを賭けて、見た目と機能性で伝えて見たが、呆気なく撃沈した。

 無論、炭については現地の言葉で発音している。
 昔、家のかまど内で燃え残り、炭化した物の鑑定結果を元に発音しているため、言葉が間違っている可能性は低い。

 村育ちのジュリはともかく、物が集まる王都育ちのソフィアが知らないとすれば、この国には、炭が存在しない可能性が高いことになる。 
 
 純粋な驚きと共に、村おこしの光が見えた気がした。
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