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 夜の帳が周囲を静寂に包み込んだ頃、僕達2人の姿は、盗賊が潜む洞穴の近くにあった。

 真っ暗闇の中を目を凝らして進んでいく。
 僕もジュリもずっとこんな田舎暮らしなので、比較的夜目が利く。なにより、この辺りは毎日のように駆け回った庭のような場所だ。
 月明かりの届かない森の中でも迷わずに目的地へと忍びよる。
 
 近寄りながらも、敵がこちらの気配に気がついた素振りを見せたら迎え撃とうと考えていた。
 こちらに気配察知があるように、敵が僕達に気付いてもおかしくはない。

 気付かれるまで、ギリギリまで行こうと思って近づいていたが、とうとう本拠地と思われる洞穴を目視で捉えれる位置まで来てしまった。

 木々の影に隠れるように目視で洞窟を確認すると、洞穴入り口を陣取って焚き火をしている1人居る。
 ついでとばかりに気配で確認すると、洞穴の中で蹲っている者が4人。

 おそらく、見張り1人を残して寝ているのだろう。

 日頃行動している人数は全部で7人。
 つまりは、すでに殺した2人を除き、全員がここに集まって居るようだ。
 
 迎える作戦から、攻め込む作戦へと切り替え、ジュリに声をかける。

「それじゃ、攻めの作戦通りに動くから、何かあったらフォローよろしくな」
「うん。まかせてお兄ちゃん。危なくなったらすぐ助けるからね」 

 緊張感を高まらせる彼女を安心させるように、そして、自分自身をも安心させるように、ジュリの頭を撫でてから、ゆっくりと息を吐き出す。

 背負っている矢、腰に着けている道具、弓の張り具合、それらを丁寧にチェックし、覚悟を決める。

 木々の合間から、出来る限り殺気を抑え、闇に溶け込むように、矢を放つ。そして、矢継ぎ早に二本目を放った。
 
 放たれた2本の矢は、見張りの心臓を貫き、次いで額を打ち抜く。
 見張りはうめき声をあげることすら許されずにこの世を去った。

 慎重に近づき、灯されていた焚き火を蛇口の魔法で消す。
 辺りが再び、夜の闇に支配られた。

 闇に溶け込むように再び森へと戻ると、腰に着けた丸めた毛皮を引きちぎる。
 手のひらほどのその毛皮に油を染み込ませ、矢の先端に取り付けると火をつけた。そして、そのまま離れた位置にある1本に撃ちたてた。

 木に当たった後も火は燃え続け、洞窟の入り口を淡く照らし出す。 

 下準備は完了した。あとは、覚悟を決めて、仕上げるだけだ。

「ジュリ、僕が撃ち漏らした敵は任せるからな」
「うん、私、ばんばん撃っちゃうから」
「ばんばんって、そんなに漏らすほど、僕はヘタクソじゃないぞ」

 無論、彼女に射らせるつもりはない。手を汚すのは僕だけで十分だ。

「それじゃ、燻し出しますかね」
 
 先ほど火を付けた物よりやや小ぶりの毛皮に油を染みこませ、火をつけ、洞窟内に撃ち込む。
 腰に残っていた3個も全てを同様に洞窟内に撃ち込んだ。

 程なくして、洞窟ないから独特な香りと煙が広がってくる。

 洞窟内に撃ち込んだ毛皮は、中に木のチップや香草など、煙が出やすいものを存分に入れ込んだ特性の煙玉だ。
 毒はさすがに入れてないが、中には目が強烈に染みるものも含まれている。
 したがって、盗賊達は、敵襲だとわかっていても意を決して外に出てくるか、悶え苦しむかの2択しかない。
 
 無論、悶えて出てきた奴をそのままになどするはずがない。
 面白いほどあっさりと洞窟から飛び出してくる盗賊達に向け矢を撃つ。

 結局は、4人中3人が何も出来ずに矢が刺さりこの世を去ってくれた。
 残る1人は、弓を手に反撃してきたが、矢は遠く離れた火の方へと向かい、僕達にはかすりもしなかった。

 念のために周囲の気配を確認し、安堵の息を漏らす。

「ふぅ……。もう、気配はないな。
 けど、こいつらの仲間がまだ居る可能性はある。今日は一旦帰ろうか」
「うー。お兄ちゃんが全部やっちゃうから、私、何にも出来なかったじゃん」
「2人とも無事だったんだから良いじゃないか」
「私だって撃ちたかったのにーー」
 
 どう聞いても殺人兄妹の会話だよなー。まぁ、ジュリがそんな子じゃないってわかってるけど。
 たぶん、僕ばっかりが負担を背負うのが嫌だったんだろう。

「わかったよ。じゃぁ、明日はジュリがメインで遣ってもらうからな。
 ほら、ほかの仲間が戻ってくる前に帰るぞ。それでいいか?」
「……うん、わかった。
 その代わり約束だからね。明日はせーったい、私がメインなんだからね」

 こうして、初日の夜は更けていった
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