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 なぞの気配を感じてから1週間が経過した。

 ジュリと僕は行動範囲を家周辺に限定し、その気配になるべく近寄らないことにした。

 もちろん、その間の情報収集はおこたってない。

 気配察知の結果、どうやら7人組みのらしく、すべて男性のようだ。

 彼らは、1箇所をねぐらにし、狩をして食料を集めているらしい。村長代理や商人のジュリさんに探りを入れてみたが、めぼしい情報は得られなかった。

 探りを入れているあいだも、彼らの行動範囲は徐々に広がり、遂には2人の気配が家の前までたどり着いてしまった。

 事前に察知していた僕は、彼らに見つからないように、ジュリと2人で近くの森に身を隠し、様子を伺う。

 近くに来ないことを祈っていたが、無情にも男達は目視で確認出来る距離まで来てしまった。

 無精髭を生やした髪に濁った目、右手に錆びれた短剣を握っている。

 到底真っ当な人間には見えなかった。

 僕の裾をギュっと握りしめたジュリの顔はには、恐怖と不安の色が滲んでいる。もし、彼女がいなければ、僕もこの場から逃げ出していただろう。

 そんな僕達を尻目に、男達は、家を眼下に話しを繰り広げる。

「おー、家じゃねぇーか。ちょっとぼろいが悪くないな」
「ヒャッハー、大当たりだぜ。これで洞穴とはおさらばよー」
「住民はどうせ狩人かきこりだろう。殺すかうっぱらってここを本拠地にするか」
「狩りの時間だぜー。住民ちゃんよー」
「まてまて、1度帰って全員で――ガハっ」

 僕の手を離れた矢が、1人の男に命中する。
 額に深々と刺さったことを確認すると、もう一方の獲物へ向けて矢を撃つ。

「ぐべっ」

 彼らの会話は、悪人で救いようのない人間だとわかるものだった。

 そして、そんな奴等がこの家を奪おうとしている。じーちゃんとばーちゃんが大事にしていたこの家に住もうとしている。

 それだけわかると、体が勝手に動いていた。

「……お兄ちゃん?」

 倒れた獲物に近寄る前に足を射る。

 手負いの獣は危険だからな。きっちり仕留めたことを確認するべきだ。

 ……ふぅ、動かないか、ちゃんと1発で仕留めれたな。

「ねぇ、おにいちゃん」
 
 ん? この獲物はどうやって剥ぎ取ればいいんだ? 毛皮なんてないぞ?

「お兄ちゃん!!」
「……あ、あぁ」

 男達に近づき、剥ぎ取り用のナイフを取り出したところで、ようやくジュリの声が耳に入った。

 どうやら、大分気が動転しているらしい。

 周囲を一通り見渡した後、大きく息を吐き出し、気持ちを落ち着かせ、心配そうな表情を浮かべるジュリへと向き直る。

「ジュリ、お前は村へ向かえ。ここにいると危ない」
「え? ……お兄ちゃんはどうするの?」
「僕はこいつ等の片づけをする」

 ジュリの顔に浮かんだ不安の色が濃くなり、裾を握る手にも力が入る。

「……やだよ。お兄ちゃんも一緒にいこ。ね?」
「ダメだ。ほら、早く村にいくんだ。いい子だから」
「…………」
「ジュリ、行ってくれお願いだから。
 君はここに居てはいけないんだ。村へいかな――」

 言葉の途中で、パッチンという音と共に、頬に痛みを感じた。

 視界いっぱいに、泣き出しそうなジュリの顔が見える。

 そして、自分がジュリに頬を叩かれたのだと理解した。

「……じゅ、り? ……んっ!」

 ジュリが両手が僕の頬を包み込むように伸ばされ、

 背伸びをするかのように

 彼女の唇が僕の唇にふれた。

 さわるだけのような軽いキス。


 初めてのキスは、やさしい香りがした。
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