上 下
14 / 73

<13>

しおりを挟む
 村長宅でお互いに軽く挨拶をし、ハウンさんと握手をした。

 商人のハウンさんは仕事が出来ますよって雰囲気を醸し出した30代の女性だった。
 実際やり手なのだろう、服装は華やかで高級感を醸し出しているが、お金持ち特有の嫌らしさはなく好感が持てた。

 日本で勤め先の社長と初めて出会った、そのときの感覚に似ている。 ……まぁ、勤め先の社長となんて、入社式で握手してもらって以来、会う機会もなかったのだが。

「この村の毛皮は質が良いとお客様からも好評を頂いておりまして、村長にお礼申し上げたところ、毛皮の半分はクラッド様が仕留めたとのお話しを伺いました。
 そしてクラッド様が本日こちらに見えるということで、誠に勝手ながら待たせていただいた次第です」
「なるほど、状況は理解しました。しかし、半分は言いすぎですよ、確かに仕留めてはいますが、まだまだ、祖父には届きませんから」
「なんでも、その若さでラビッドベアーを1人で仕留められ、さらには剥ぎ取り、なめしまで行うとか」

 弓の練習の合間に最近では、ばーちゃんから剥ぎ取りやなめしなど、獲物を製品にするための技術を学んでいた。

「まぁ、たしかに狩りから仕上げまでを1人で行うことも出来ますが、まだまだ、祖父母には勝てないですからね」
「ご謙遜を……、と言いたいところですが、たしかに比べる先が超一流のリアム夫妻ですから、それも仕方のないことです。しかし、他の村と比較すれば一流と呼んで差し支えないレベルに加え、すべて1人で行える。その点を加味して1度、ご挨拶とお礼をと考えた次第です」
「そういうことですか。評価して頂けることはありがたいことです。まだまだ至らないとは思いますが、お言葉は有難く頂戴させて頂きます。
 今後とも良い取引をよろしくお願いします」

 そういって深く頭を下げた。

 近隣の町がどこにあるか分からないが。わざわざ買取に来てくれ、さらには塩の販売もしてくれる。彼女が来なくなればこの村は廃村への道を直走るほかない。
 それに、話を聞く限り信用できそうな人だし、仲良くしておくほうが良いだろう。

「えっと、グラッド様。一つ、失礼ながら申し上げますが、よろしいでしょうか?」
「もちろんですよ。何でも仰ってください」
「……本当に、10歳ですか?」

 あ、やべ、やっちゃったかな? ……10歳ってこんなしゃべり方しないんだっけ?

「え、ええ。そうですよ。まぁ、まだ9歳ですが、そろそろ10歳になるってところです」

 そういって、9歳ですよアピールをするために両手を広げて、小さな体ですよアピールして見せた。

「そ、そうですよね。どうみても9歳です。不思議と大人相手に話している感覚に襲われたもので……」

 まぁ、中身大人ですからねー。見た目は子供、頭脳はおと―――。

「あぁ、いえ、申し訳ありませんクラッド様。良い取引に年齢は関係ない。それが手前ども協会の信念。どうかお忘れください」
「いえいえ、大丈夫ですよ。気にしてませんから」
「そうですか、ありがとうございます。……そうだ、少々お待ち頂いてよろしいですか?」

 僕がわかりました、と頷くと、彼女は村長宅を出て行き、5分ほどで荷物を抱え帰ってきた。

「御近づきとお詫びの印として差し上げます。多くの物から選らんで頂くのが協会の流儀なので、1品選んで頂きたく思います」

 そういって、大小様々なものが並べられていく。色紙から鉛筆、弓や剣などジャンルも幅広い。

 弓を鑑定して見るとランクCだったので、かなり良いものが並べられているのだろう。紙も白に近く、かなりの高級品のようだ。

 その中で、1つ気になるものを手にとると、ハウンさんからの説明が入る。

「そちらは、最高級の絹糸を纏め上げ、職人が丹精込めて赤く染色を施した1級品です。王都でも人気の高い品ですが……」

 なぜそちらをといった感情を目線で訴えてきたので、ジュリのほうをちらっと見る。そうすると、ハウンさんは商人の目から、やさしい近所の姉といった感じの目に変わった。

「ふふふ、さすがグラッド様です。そちらでよろしいですか?」

 ハウンさんに頷いたあと、太めの赤い糸をジュリに渡す。

「ジュリにプレゼント。最近、弓の練習がんばってるからね」
「え? ……いいの?」
「もちろん。ほら、付けて見て」

 嬉しそうに頷いたジュリは、ツインにしていた麻の糸を解き、村長夫人に手伝ってもらいながら、赤い糸を用いてポニーテールに結った。

 台所で水に映る自分の姿を確認した後、僕に見せつけるように後ろを向く。
 1つに束ねられた濡れたような漆黒の髪が、ジュリの嬉しさを表すかのように、左右にふれる。その隙間からちらりと赤い糸が顔をのぞかせた。
 
 いやー、艶のある黒髪に赤が映える。ジュリの可愛さが倍増したな。我ながらいい仕事が出来た。
 本当は弓でもよかったかもとか思っていたけど、これ以上の結果などないな!!

「お似合いですよジュリ様。それでは、そちらは協会からの贈り物ということで、もう一本同じものを私個人からの品としてお送りさせていただきますね。……ジュリ様はツインテールもお似合いですから」

 その言葉を聴き、思わずハウンさんとがっちりと握手をした。

 この人、分かってらっしゃる。ポニーもいいけど、ツインもね!!!
 ハウンさんは全面的に信頼できるな。倍払うといわれても彼女以外とは絶対取引してやらない。

 翌日以降、弓練習中はポニー、それ以外がツイン。赤い糸で髪を留めた少女の姿が村で見られるようになった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

妹しか愛していない母親への仕返しに「わたくしはお母様が男に無理矢理に犯されてできた子」だと言ってやった。

ラララキヲ
ファンタジー
「貴女は次期当主なのだから」  そう言われて長女のアリーチェは育った。どれだけ寂しくてもどれだけツラくても、自分がこのエルカダ侯爵家を継がなければいけないのだからと我慢して頑張った。  長女と違って次女のルナリアは自由に育てられた。両親に愛され、勉強だって無理してしなくてもいいと甘やかされていた。  アリーチェはそれを羨ましいと思ったが、自分が長女で次期当主だから仕方がないと納得していて我慢した。  しかしアリーチェが18歳の時。  アリーチェの婚約者と恋仲になったルナリアを、両親は許し、二人を祝福しながら『次期当主をルナリアにする』と言い出したのだ。  それにはもうアリーチェは我慢ができなかった。  父は元々自分たち(子供)には無関心で、アリーチェに厳し過ぎる教育をしてきたのは母親だった。『次期当主だから』とあんなに言ってきた癖に、それを簡単に覆した母親をアリーチェは許せなかった。  そして両親はアリーチェを次期当主から下ろしておいて、アリーチェをルナリアの補佐に付けようとした。  そのどこまてもアリーチェの人格を否定する考え方にアリーチェの心は死んだ。  ──自分を愛してくれないならこちらもあなたたちを愛さない──  アリーチェは行動を起こした。  もうあなたたちに情はない。   ───── ◇これは『ざまぁ』の話です。 ◇テンプレ [妹贔屓母] ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング〔2位〕(4/19)☆ファンタジーランキング〔1位〕☆入り、ありがとうございます!!

晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]

ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。 「さようなら、私が産まれた国。  私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」 リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる── ◇婚約破棄の“後”の話です。 ◇転生チート。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。 ◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^ ◇なので感想欄閉じます(笑)

魔力無しだと追放されたので、今後一切かかわりたくありません。魔力回復薬が欲しい?知りませんけど

富士とまと
ファンタジー
一緒に異世界に召喚された従妹は魔力が高く、私は魔力がゼロだそうだ。 「私は聖女になるかも、姉さんバイバイ」とイケメンを侍らせた従妹に手を振られ、私は王都を追放された。 魔力はないけれど、霊感は日本にいたころから強かったんだよね。そのおかげで「英霊」だとか「精霊」だとかに盲愛されています。 ――いや、あの、精霊の指輪とかいらないんですけど、は、外れない?! ――ってか、イケメン幽霊が号泣って、私が悪いの? 私を追放した王都の人たちが困っている?従妹が大変な目にあってる?魔力ゼロを低級民と馬鹿にしてきた人たちが助けを求めているようですが……。 今更、魔力ゼロの人間にしか作れない特級魔力回復薬が欲しいとか言われてもね、こちらはあなたたちから何も欲しいわけじゃないのですけど。 重複投稿ですが、改稿してます

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)電子書籍発売中!
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完結】間違えたなら謝ってよね! ~悔しいので羨ましがられるほど幸せになります~

綾雅(りょうが)電子書籍発売中!
ファンタジー
「こんな役立たずは要らん! 捨ててこい!!」  何が起きたのか分からず、茫然とする。要らない? 捨てる? きょとんとしたまま捨てられた私は、なぜか幼くなっていた。ハイキングに行って少し道に迷っただけなのに?  後に聖女召喚で間違われたと知るが、だったら責任取って育てるなり、元に戻すなりしてよ! 謝罪のひとつもないのは、納得できない!!  負けん気の強いサラは、見返すために幸せになることを誓う。途端に幸せが舞い込み続けて? いつも笑顔のサラの周りには、聖獣達が集った。  やっぱり聖女だから戻ってくれ? 絶対にお断りします(*´艸`*) 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/06/22……完結 2022/03/26……アルファポリス、HOT女性向け 11位 2022/03/19……小説家になろう、異世界転生/転移(ファンタジー)日間 26位 2022/03/18……エブリスタ、トレンド(ファンタジー)1位

王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」 公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。 血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。

処理中です...