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雨の日の薔薇園で①(side マイア)
しおりを挟む童話作家ベイリーの生家は、季節の花と軽食を楽しめるレストランとなっている。
ディアソーが集めているクッキーの抜き型にはここでしか売られていないものであり、彼女が気に入りそうな雑貨が色々と取り揃えられていた。
マイアの主人とアーシェルが出会ってから時の流れが早くなったように思う。
いつもなら、彼女への誕生日プレゼント候補をいくつも見つけている時期だというのに、今年はこれだというものが決まらない。
伯爵家からの給金を同年代の女性と比べる機会はないのだが、年に数回の旅行や流行のドレスを買っても貯蓄がしっかり出来るくらいの額は受け取っている。
だからといって、奮発しすぎても無理をさせたとディアソーが思い悩むだろう。
『マイアが私を思って、選んでくれることがとってもうれしいの』
喜んでくれる主人の、屈託のない笑顔が今年も見られるだろうか。
包装を開く前のドキドキする瞬間は、毎年変わらない。
どんなものを好むか、普段からそれとなく観察はしているけれど、ほんの少し意外性がある贈り物を見つけるのは簡単ではない。
彼女をよく知る者にしか選べない特別なプレゼント。
それを探すために、町へ出てきたマイアの休日は忙しいものになりそうだった。
ディアソーは自分に似合う色やデザインを限定してしまっている。
どこか現実的でない透明感を持つ美貌が霞むことなどあり得ないのに、背の高さや女性らしい丸みの少ない体つきが気になるのか、無難なものばかり選んで悲しそうな顔をする。
マイアや伯爵夫妻がどれだけ勇気づけても、他とは違うことを肯定的に受け止めてもらえない。
自分の力不足が悔しくて、見る目のない周りの男達が腹立たしくて、マイアは常に気を張ってきた。
無邪気な愛らしさの象徴とされる鞠花や匂い立つ華やかさの代表である薔薇に例えられる女性だけが美しいわけではない。
彼女の名前の由来である夏の花ディアソリウムは、香りもなく花瓶に挿して映える形でもないけれど、真っ青な空へ向かって伸びやかに咲く姿に他とは違う美しさを感じる。
ディアソリウムの別名は葵竜花。闘竜令嬢と呼ばれることを主人は嫌がっているけれど、調子良くすり寄ってくる男たちが減るのなら、それでもいいとマイアは思ってきた。
まさか王族が、ディアソーに求愛してくるなんて想像もしていなかった。
ずっと大切に思い見守ってきた主人を正当に評価してくれる彼が現れたことで、マイアは異性に対して貼っていた壁をようやく取り除くことが出来そうだった。
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