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8.海葡萄カイト
25.申しわけありませんでした
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「ハムロ!」
三人が谷の底まで、くだりきるよりも早く、バタバタと、こちらへかけよってくる、いくつもの少年たちの姿があった。みんな、ハムロに協力して、怨墨に襲われた少年たちだ。
「みんな、無事か」
ハムロが気づいて階段を飛びおり、少年たちに、かけよる。
「ああ、その墨狩りに助けてもらったから」
「マムロは?」
「大丈夫。その人に、もらったあめを、なめたから、すっかり落ちついて、今は眠ってる」
ハムロは涙ぐみながら「よかった」とつぶやくと、ごしごしと顔を、ぬぐった。
「バッソ」
ふり返りながら、ハムロがバッソを呼び、バッソはうなずいた。
「ああ、行こう。早めに墨を抜いてやりたい。ずいぶん苦しんだろうからな」
ハムロの案内で、バッソとウタマクラは、少年たちのあとに、ついていった。集落の中心にある、円形の花飾りの舞台の横を通りすぎて、さらに先へと進む。ハムロの家は、崖に彫りこまれた、洞穴式住居のうちの、ひとつだった。
「母さん」
入口に、かかっていた布を、ハムロは手で、たくしあげながら、なかに入った。あとから、バッソ、ウタマクラと続く。友人たちが続かないので、ウタマクラが、ふり返っていると、ハムロが「布をおろしてくれていい」と、うなずいた。
「ハムロ」
奥から出てきた女性が、ハムロの名前を呼んだ。ハムロに、とてもよく似ている。
「母さん。ただいま」
「まったく、むちゃなことを。でもありがとうね。ええと、そちらのかたが」
「ああ、墨狩りのバッソさんと――竜骨研究所の、ウタマクラさんだ」
とたん、女性が深く頭をさげた。
「このたびは、本当に、ご迷惑を、おかけいたしました」
「いえ、そんな……」
ウタマクラは、あわてて手をあげたが、実際、迷惑だったことは、まちがいない。どうせ「匂い」で本心は悟られてしまうだろうから、正直に話すことにした。
「研究所としては、〈竜骨の化石〉が、傷つくことなく、無事にもどることが最善です。しかし、報道で知られてしまった以上、なかったことにはできません」
「そう、ですよね……」
うなだれる母親にウタマクラがとまどっていると、バッソがウタマクラの前に、すっと手を出した。ウタマクラが顔をむけると、バッソは小さくうなずき、一歩、前に進みでた。
「それに関しては、俺が、撲墨連を通して、上にかけあってみる。うまくいく保証はないが、事情が事情だ。ハムロ、お前たちは〈嗅感葉〉だ。だましたのが怨墨では、対処のしようもない。それに、ヤツの本体を逃がしたのは、俺の手落ちだ。墨狩りの不手際で引きおこしたこととも言える。むしろ、助けにくるのがおそくなり、申しわけなかった」
そう言うと、バッソは、さらりと髪を肩からこぼしながら、まっすぐに頭をさげた。そんな彼の背中を、ウタマクラは、じっと見つめた。彼が背負おうとしているものが、そこにはあった。だから、ウタマクラも一歩、前に出て、バッソのとなりにならんだ。
「それを言うなら私もです。ハムロくんと出会った時に、私がすぐ父に報告をしていれば、きっと、こうはならなかった。父は聡い人ですから、事情を察してくれたことでしょう。気もちに行きちがいがあるなら、その場でなんとかしなくてはならないのに、そうとは思いつけず、行動もしなかった。私の判断ミスです。本当に、申しわけありませんでした」
ウタマクラも、心をこめて頭をさげた。それに、バッソは少しだけ目をむけて、やはり、一緒に頭をさげ続けた。
それに対して、ハムロと、ハムロの母親もまた、黙って頭をさげたのだった。
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