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2.〈竜の一族〉

5.ひとりに、なりたくない。

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      ***

 その夜、カイトは、イトミミズの子をいれた金魚鉢を、自分のベッドの枕もとにおいた。うつぶせになって、そのようすをながめて、うとうとしながら考えた。

 あのあと、ばあちゃんと、ごはんを食べながら、イトミミズの子をカイトが見つめていると、ばあちゃんは、少しだけ困ったような顔をして笑った。

「あんまり見つめて、情がうつりすぎたら、いけないよ」
「どういうこと?」

 眉をしかめながら、カイトはソーセージを一本、いっきに、ほおばった。

「この子が本当に〈出世しゅっせミミズぞく〉の迷子なら、早く親御さんを、お探しして、返してやらねば、ならんからね」
「わかってるよ、そんなこと」

 ばあちゃんに、言われなくても、そんなことは最初からわかっている。だけど、この子の魂の〈音〉は、とてもきれいで、「読み」続けていたら、ずっとどこか、ギスギスしていた自分の心が、ふわっと、やわらかくなったような、そんな気がしたのだ。だから、いつか別れなくてはいけないと、あらためて言われたのが、いやだった。

 目の前で、「る」の形みたいになって、じっとしているイトミミズの子を見つめていたら、昼間に、ばあちゃんから教えてもらった「ミズチ」のお話を思いだした。そうだ、名前をつけてやらなきゃ。

「る、みたいな、ねぞうだから、じゃあ、お前の名前は、ミズルチ、な……」

 いつのまにか、うつぶせのまま、カイトは、すやすやと眠りに落ちていた。


 ――カイトの胸のなか、心の奥深くに、ぼんやりとした、黒いかたまりがある。
 その、ゆらゆらと、ゆれて、集まったり、ほぐれたりしていた、禍々しいすみのようなものは、ふわっと、浮かびあがると、カイトの背中から、あふれでた。するとそれは、すこぉしだけ開けられていた、窓のむこうに、するりと消えていった。

 兄ちゃん。どうして帰ってこないの。

 母さん。やっぱり、オレのせいだと思ってる? 父さんも、そうなんでしょ?

 いやだ。もう、なにも失くしたくない。

 ひとりに、なりたくない。


 眠るカイトの目から、ひとつぶの涙が、こぼれ落ちていた。


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