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1.〈薄明光線〉
1.応答せよ
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ピピーピピピー。ピピーピピピー。
応答せよ、応答せよ。CR998750。くり返す。応答せよ。CR998750。こちら地球、アキツシマ、ヒルミムラ。ウミブドウ・カイトです。応答せよ――
二階和室の子ども部屋。机の前の、開け放った窓の先には、満天の星が広がっている。
風に熱がにじむ、九月の末。今夜もカイトは夜空へむけて、十五分間のコンタクトをとっていた。五分メッセージを送って、十分まつのだ。でも、やっぱり今夜も返事はこない。
ため息をつきながら、カイトは両眼一体型ARグラスを、ひたいにもちあげた。セラミック製の白いグラスは、ぽってりと分厚い質感で、顔のうえ半分を、ゆったりと覆うデザインだ。鼻あて部分に、少しの切れこみがある。軽いけれど、十歳のカイトには大きすぎて、いつのまにか、ずり落ちてくる。母さんのお下がりだから、しかたないのだが。
グラスを外すと同時に、それまでカイトの目の前をゆったり泳いでいた、ガイドAIのホログラムが姿を消した。デザインはくじらで、名前はマルーン。カラーはブルーグリーン。カイトの目からは、だいたい十五センチくらいに見える。
マルーンが消えたあとも、PCの空中ディスプレイは、星空とカイトのあいだに浮かびあがっている。16対9の、最小6.1インチから、23インチまでサイズ調整ができるタイプだ。最新型からは二世代落ちだけど、まあまあ使いやすくて、気にいっている。
蛍光ライトブルーの、コントローラーグローブをつけた両手を、うで組みにしつつ、くちびるを曲げて夜空をにらんだ。カイトとしては、かなり、するどい表情を作っているつもりなのだが、眉尻がさがっていて、もともとの顔つきが、やさしいので「そんなことをしても、ちっとも迫力がない」と、いつも、ばあちゃんに笑われてしまう。
もう一度にらんだ。でも、やっぱり返事はこない。りりーりりりー、という、虫の音がするだけだ。ため息まじりに電源を落とすと、カイトは窓を、がらっと閉めた。
グローブとグラスを外して、机の上にぽんと放りだす。二階建てベッドの下がわにもぐりこむと、誰もいない上段ベッドの底板を見あげてから、ぎゅっと目をつむって布団を頭からかぶった。
――ねぇ、にいちゃ。おそらのとおく、とーくから、〈音〉が、するよ。
あの日、開け放った窓の外、満天の星へむけて、指さした自分を、思いだす。
(おやすみなさい、兄ちゃん。)
言葉には出せないまま、カイトは心のなかで、ツナグ兄ちゃんに、おやすみを告げた。
だから、窓のむこうで、一瞬先とは、うって変わった暗雲が立ちこめはじめたことに、カイトは気づいていなかったのだ。
応答せよ、応答せよ。CR998750。くり返す。応答せよ。CR998750。こちら地球、アキツシマ、ヒルミムラ。ウミブドウ・カイトです。応答せよ――
二階和室の子ども部屋。机の前の、開け放った窓の先には、満天の星が広がっている。
風に熱がにじむ、九月の末。今夜もカイトは夜空へむけて、十五分間のコンタクトをとっていた。五分メッセージを送って、十分まつのだ。でも、やっぱり今夜も返事はこない。
ため息をつきながら、カイトは両眼一体型ARグラスを、ひたいにもちあげた。セラミック製の白いグラスは、ぽってりと分厚い質感で、顔のうえ半分を、ゆったりと覆うデザインだ。鼻あて部分に、少しの切れこみがある。軽いけれど、十歳のカイトには大きすぎて、いつのまにか、ずり落ちてくる。母さんのお下がりだから、しかたないのだが。
グラスを外すと同時に、それまでカイトの目の前をゆったり泳いでいた、ガイドAIのホログラムが姿を消した。デザインはくじらで、名前はマルーン。カラーはブルーグリーン。カイトの目からは、だいたい十五センチくらいに見える。
マルーンが消えたあとも、PCの空中ディスプレイは、星空とカイトのあいだに浮かびあがっている。16対9の、最小6.1インチから、23インチまでサイズ調整ができるタイプだ。最新型からは二世代落ちだけど、まあまあ使いやすくて、気にいっている。
蛍光ライトブルーの、コントローラーグローブをつけた両手を、うで組みにしつつ、くちびるを曲げて夜空をにらんだ。カイトとしては、かなり、するどい表情を作っているつもりなのだが、眉尻がさがっていて、もともとの顔つきが、やさしいので「そんなことをしても、ちっとも迫力がない」と、いつも、ばあちゃんに笑われてしまう。
もう一度にらんだ。でも、やっぱり返事はこない。りりーりりりー、という、虫の音がするだけだ。ため息まじりに電源を落とすと、カイトは窓を、がらっと閉めた。
グローブとグラスを外して、机の上にぽんと放りだす。二階建てベッドの下がわにもぐりこむと、誰もいない上段ベッドの底板を見あげてから、ぎゅっと目をつむって布団を頭からかぶった。
――ねぇ、にいちゃ。おそらのとおく、とーくから、〈音〉が、するよ。
あの日、開け放った窓の外、満天の星へむけて、指さした自分を、思いだす。
(おやすみなさい、兄ちゃん。)
言葉には出せないまま、カイトは心のなかで、ツナグ兄ちゃんに、おやすみを告げた。
だから、窓のむこうで、一瞬先とは、うって変わった暗雲が立ちこめはじめたことに、カイトは気づいていなかったのだ。
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