堂崎くんの由利さんデータ

豊 幸恵

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先輩が由利さんを?

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「俺と由利の関係……」
 ふいと視線を逸らして、気まずそうな表情をする先輩。
 何か僕に話すとまずい関係? 少し不安になって彼を見ると、それに気付いた先輩が困ったように小さく唸った。

「……んー、その……克哉くんには言ってなかったけどさ、実は俺も……由利と一緒で男もいけるんだよ。で、以前彼と一緒に飲む機会があってさ、そこでちょっと」
「ま、まさか先輩も、由利さんとそういう関係に……!?」
 チャラチャラした印象はないが、先輩は美形だ。もし以前バーとかクラブで由利さんと彼が会っていたなら、そういう可能性も十分ありえる。

 思わぬ告白に驚愕していると、向かいの先輩は少し慌てたようだった。
「ちょ、ちょっと待って、克哉くん。俺には本当は前から好きな人がいてさ。それが由利の……」
「え? 先輩って前から由利さんのこと好きだったんですか!?」
「……ええと、ね」
 彼は眉を顰めながらこめかみを抑えて、言葉を探している。
 僕が由利さんの恋人だと知って、気を遣っているのだろうか。

「知らぬこととはいえ、そんな先輩に由利さんとの恋愛相談をしていたなんて……、ごめんなさい。じゃあ今後は恋のライバルですね」
「恋のライバルって……」
 そう呟いてから、先輩はふと、何かを思いついたように僕に訊ねた。

「俺が由利のことを好きだったら、克哉くんはどうするの?」
「どうするって……正々堂々勝負しますよ。由利さんはもちろん好きだけど、僕は先輩のことも好きだもの。後腐れがないように決着付けたいじゃないですか」
 返した僕の言葉に、彼が二・三度目を瞬いた後、何故か口角を上げた。少しだけ、その姿勢が前のめりになる。

「正々堂々ってことは、例えば俺が由利に会うのも、由利の家に行くのも容認するってこと?」
「……僕、由利さんを束縛しない約束ですから、どっちにしろ由利さんと先輩が会うのを阻止する権利がありませんもん」
「ふぅん……」
 先輩は頬杖をつくと、僕をじぃっと見てからにこりと微笑んだ。

「そうか。じゃあ俺も克哉くんのこと大好きだから、決着付くまで正々堂々戦おうかな。安心して、克哉くんのいる時しか由利に会わないようにするし、君を出し抜いたりしないから」
「せ、先輩……」
 見た目もイケメンだけど、心も男前だ。つい感激して見つめ返すと、彼はポケットの手帳に挟んでいた今日の予定メモを取り出した。

「この後、ドライブして海辺のカフェにでも寄ろうかと思っていたんだけど、ちょっと予定を変更するね」
「え? あ、はい。……もしかして、ライバルになるから、もう遊んでくれないんですか?」
 先輩がこの後の予定のメモに×をつけるのを見て、唐突に何だか萎れた気分になる。
 しかし向かいの彼は、そんなわけがないと苦笑して首を振った。

「違うよ。これからだって、克哉くんさえ良ければもっと仲良くしたいし一緒に出掛けたい。ただ今日は、先にしておくべきことができちゃったから」
「しておくべきこと?」
 何のことだろう。
 首を傾げて問い返した僕に、先輩はいつもとちょっと違う、にやりとした笑みを口元に乗せた。

「これから二人で、由利の家に話をしに行こう」
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