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A君発見?
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大学時代の友人知人に連絡を取りまくって、僕と同じ背格好でさらさら黒髪お目々ぱっちりのデータ好き人間を知らないかと聞きまくったけれど、皆に一様に『それってお前じゃねーの』と言われるばかりで、僕の方のA君捜しは早々に手詰まっていた。
全く、それが僕だったら苦労しない。
僕は他に手はないかと考えながらアマンダに向かった。
「ママ、こんばんは。ずっとドリンク代払いに来れなくてごめんね」
開店したばかりのバーにはまだ客はいないようだ。カウンターにいるママにお土産の和菓子と以前のドリンク代を渡す。
「久しぶりね、堂崎ちゃん。最近由利くんがよく来てるわよ。人を捜しに」
「ですよね。だからちょっと長居できないんだ。また今度時間を見つけて来るから」
僕がすぐに出て行こうとすると、彼女はちょっと思案顔をした。
「……堂崎ちゃん、もうしばらくここに居てみたら?」
「へ? そんなことしたら由利さんと顔を合わせちゃいますけど……」
「いいのよ、そしたら多分面白いことになると思うわー」
ママがふふふと何か含みのある笑みを浮かべる。
しかし僕は由利さんの家に行って、夕飯の仕込みをしなくてはいけないのだ。
「今日は急いでるから、また今度。これから着替えと化粧もしなくちゃいけないし」
「そのままでいるのが面白いのに。……まあ、私がどうこう言うべきじゃないかしら」
特に強く止めようという気はないらしい。彼女は肩を竦めるとひらひらと手を振った。
「ふふ、頑張ってねえ~」
「? うん、ありがとう」
僕はアマンダを出るとそのまま駅に向かった。いつもここのロッカーに着替えを入れているのだ。由利さんの自宅と仕事場の最寄り駅になる。
着替えを持って駅ビルに入り、ほとんど入る人が居ない婦人服売り場の男子トイレをお借りする。
好きではないけれどすっかり慣れてしまった化粧を終えるまで、二十分。全身鏡でかつらや襟を整えてトイレを出る。
「あれ? 由利さん?」
すると、驚いたことに由利さんとばったり鉢合わせした。
「堂崎……中に誰かいる?」
「僕以外いませんでしたけど。珍しいですね、一人で買い物?」
「いや、その、アマンダに行く途中であいつに似た奴が駅ビルに入ったのを見つけて……この階にエレベーターが止まったようだったから、売り場を探してたんだけど」
「えっ? あいつってA君? 本当ですか、僕が乗ったエレベーターは一人だったからなあ……一緒に乗ったら気づいたかもしれないのに」
きょろきょろと売り場を見回す僕を、なぜか由利さんがじっと見つめた。
「……堂崎、その大荷物は?」
「ん? 着替えですよ。由利さんちにスーツで行くのも場違いなんで、いつも着替えて行きます。またロッカーに預けてこなくちゃ」
「……あいつも似たような大荷物を持ってた」
「へえ? もしかしてこの辺に住んでるんじゃなくて、出張とかで来てるとかなのかな? じゃなきゃ普通こんな大荷物持ち歩かないですもんね。だからなかなか見つからないのかも。……もう少しこの辺捜してみましょうか? 僕も手伝いますよ」
「……いや、いい。もう帰る」
由利さんは一瞬だけ思案をしたようだったが、思いの外あっさりとあきらめてしまった。いいのだろうか。
「これからアマンダに?」
「そのつもりだったんだが、気が削がれた。このままマンションに戻る」
「ふおああああああマジですか! 初祝・完全定時帰宅! それにまさか由利さんと並んで帰宅できるなんて……!」
思わぬ幸甚に感激に打ち震えていると、由利さんが大きな荷物を持ってくれた。
「これから飯の準備だろ。変な声出してないで早く帰るぞ」
あああ何その旦那様っぽい言い方かっこいいいいい! 僕を待たずにすたすた行ってしまったけれど、その背中もかっこいいからどうでもいい。
彼の背中に急いで追いついて、僕はその隣を歩きながら顔が緩むの
を抑えられなかった。
なんだこの幸運、いつにない由利さんの気遣い。もしかして今が僕の人生のピークなの?
全く、それが僕だったら苦労しない。
僕は他に手はないかと考えながらアマンダに向かった。
「ママ、こんばんは。ずっとドリンク代払いに来れなくてごめんね」
開店したばかりのバーにはまだ客はいないようだ。カウンターにいるママにお土産の和菓子と以前のドリンク代を渡す。
「久しぶりね、堂崎ちゃん。最近由利くんがよく来てるわよ。人を捜しに」
「ですよね。だからちょっと長居できないんだ。また今度時間を見つけて来るから」
僕がすぐに出て行こうとすると、彼女はちょっと思案顔をした。
「……堂崎ちゃん、もうしばらくここに居てみたら?」
「へ? そんなことしたら由利さんと顔を合わせちゃいますけど……」
「いいのよ、そしたら多分面白いことになると思うわー」
ママがふふふと何か含みのある笑みを浮かべる。
しかし僕は由利さんの家に行って、夕飯の仕込みをしなくてはいけないのだ。
「今日は急いでるから、また今度。これから着替えと化粧もしなくちゃいけないし」
「そのままでいるのが面白いのに。……まあ、私がどうこう言うべきじゃないかしら」
特に強く止めようという気はないらしい。彼女は肩を竦めるとひらひらと手を振った。
「ふふ、頑張ってねえ~」
「? うん、ありがとう」
僕はアマンダを出るとそのまま駅に向かった。いつもここのロッカーに着替えを入れているのだ。由利さんの自宅と仕事場の最寄り駅になる。
着替えを持って駅ビルに入り、ほとんど入る人が居ない婦人服売り場の男子トイレをお借りする。
好きではないけれどすっかり慣れてしまった化粧を終えるまで、二十分。全身鏡でかつらや襟を整えてトイレを出る。
「あれ? 由利さん?」
すると、驚いたことに由利さんとばったり鉢合わせした。
「堂崎……中に誰かいる?」
「僕以外いませんでしたけど。珍しいですね、一人で買い物?」
「いや、その、アマンダに行く途中であいつに似た奴が駅ビルに入ったのを見つけて……この階にエレベーターが止まったようだったから、売り場を探してたんだけど」
「えっ? あいつってA君? 本当ですか、僕が乗ったエレベーターは一人だったからなあ……一緒に乗ったら気づいたかもしれないのに」
きょろきょろと売り場を見回す僕を、なぜか由利さんがじっと見つめた。
「……堂崎、その大荷物は?」
「ん? 着替えですよ。由利さんちにスーツで行くのも場違いなんで、いつも着替えて行きます。またロッカーに預けてこなくちゃ」
「……あいつも似たような大荷物を持ってた」
「へえ? もしかしてこの辺に住んでるんじゃなくて、出張とかで来てるとかなのかな? じゃなきゃ普通こんな大荷物持ち歩かないですもんね。だからなかなか見つからないのかも。……もう少しこの辺捜してみましょうか? 僕も手伝いますよ」
「……いや、いい。もう帰る」
由利さんは一瞬だけ思案をしたようだったが、思いの外あっさりとあきらめてしまった。いいのだろうか。
「これからアマンダに?」
「そのつもりだったんだが、気が削がれた。このままマンションに戻る」
「ふおああああああマジですか! 初祝・完全定時帰宅! それにまさか由利さんと並んで帰宅できるなんて……!」
思わぬ幸甚に感激に打ち震えていると、由利さんが大きな荷物を持ってくれた。
「これから飯の準備だろ。変な声出してないで早く帰るぞ」
あああ何その旦那様っぽい言い方かっこいいいいい! 僕を待たずにすたすた行ってしまったけれど、その背中もかっこいいからどうでもいい。
彼の背中に急いで追いついて、僕はその隣を歩きながら顔が緩むの
を抑えられなかった。
なんだこの幸運、いつにない由利さんの気遣い。もしかして今が僕の人生のピークなの?
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