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Ⅰ:士官学校篇
こんな戦技は嫌だ?
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「ダセェって……そんな文句を言っても……」
「まー今更変えられる訳でもないけどさー」
そう不満そうに呟いたフェザンは更に続けた。
「アルスは『蛇突』だろー、ヒエナは『断頭台』と、なんで揃いも揃ってそんな名前なんかなー『シャイニングスコール』だぞー、『シャイニング』で『スコール』考えたの絶対ガキだろ」
「それはない」
戦技を考えた大昔の罪なき誰かのネーミングセンスを罵りだしたフェザンにはっきりと言う。
「戦技とか、技の名前は基本的に最初の使用者が決めれるけど、フェザンの言うガキに使いこなせる技か?」
「そんなわけないだろー」
「だよね、あと、名前よりもまずは性能の方を見てみな。自由に操れる魔力の弓を大量に出現させる。上手く使えば一人で弓兵一個小隊並のことができる」
「そうだよなー、俺の技は強い」
数分前とは真逆で機嫌が良くなったフェザンは
「んじゃ先帰ってるなー」
とだけ言って飛び去ってしまった。その背中を見ていると、ふと、微笑んでいることに気がついた。それと同時に疑問が出てきた。
俺はなんでここに来たのか。眠れなく、あと戦劇大会が終わったらすぐに試験があるからかもしれない。戦術戦略などの筆記はともかく、接近格闘や属性武器や魔法などの魔力操作系の実技が心もとないのだ。いや、それ以外の不安要素は?
的に向けて木刀を振るってもその疑問はなくならない。
「『蛇突』」
浮かんでは消える不安な心を打ち消すように、いつもよりも強めに突き出した木刀の先端から蛇の形をした白い炎が伸び、的を砕く。
眠れない理由は?やはり気になるのは他の生徒たちだ。フェザンやヒエナ、パーティーのみんなはいつも通りだった。そうではない。戦劇大会が進行すると同時に、他の生徒と俺が遠ざかっていくのを今更ながら実感した。そうだ、今更だ。
ここは魔王軍の士官学校。種族というものは寿命別にに三種類に分けられる。一番長生きなのは亡霊や不死者などで千年ほど生きる者もいる。次がゴーレムや鎧兵などの非生物が魔力などによって生きているタイプだ。最も短いのは有翼人や獣人など、名前に『人』がある、すべての種族が人間界に住んでいた頃の名残りがある種族で、長くて二百年ほどの命だ。だが、どの種族だろうが天寿を全うすることは稀だ。軍に携わる大半の者が若くして戦死するのである。
そうだな、どうせ何年かしたら半分くらいは死んでいるんだ。気にするだけ無駄、そう自分に言い聞かせる。そうやって、五年間過ごしてきたじゃないかと。
「あれ?」
魔法を唱えようとしてふらつく。魔法とは、体内に存在する魔力を使って物理現象や自然現象に干渉する術のことだ。当然ながら魔力を使い果たすと使えないが、まさか強めに放った『蛇突』一発でここまで消費するとは……
「これじゃ長期戦は無理そうだな」
でも『蛇突』以外に俺が使える技でまともに強い種族と戦えるものはない。戦技『蛇神』のもう一つの技『継承』に至っては使い方さえわからない。そもそも、戦争に役立たなさそうな技は訓練でもやらないのだ。
「アルガルト-イーセルはどうしたんだろう」
イーセル王国の初代国王で、戦技『蛇神』の生みの親である彼は、自らの二つ名を付けた戦技をどう操ったのだろうか。
「帰ろう。でも、その前に……」
訓練所から出て向かったのは、図書館がある棟だ。目当ては、『アルガルト-イーセル叙事詩』内容は……その名の通りだ。壁一面が本棚に覆われ、大小様々な書物が収められている。深夜だから当たり前だが本棚の間のスペースにあるデスクは空いている。
二十分ほど流し読みした。結論から言うと求めていた答えはなかった。『叙事詩』と大層な名前で呼ばれているはずだが、何よりもアルガルト-イーセルの種族が分からない。一国の始祖の資料が少ないのはどうなのだろうか……。
「あのー、アルガルト-イーセル王の資料ってありますか?」
近くにいた図書館員に尋ねるが申し訳無さそうに答えられた。
「あいにくですが、その『アルガルト-イーセル叙事詩』が本館でもっとも彼について詳しい本です」
「でも、種族すら分かっていないじゃないですか」
「実は、長年の戦乱で結構な量の資料が焼失してしまったんです。まあ当時の王室の暗部に関わる内容もあるでしょうし、一般公開されているのはこの程度です」
「わかりました。もう少し読んでみます」
軽く笑ってその場を離れるが、寮の部屋に帰るためではない。もう一度本を開き、『アルガルトが使った戦術』の章を読み始めた。
「まー今更変えられる訳でもないけどさー」
そう不満そうに呟いたフェザンは更に続けた。
「アルスは『蛇突』だろー、ヒエナは『断頭台』と、なんで揃いも揃ってそんな名前なんかなー『シャイニングスコール』だぞー、『シャイニング』で『スコール』考えたの絶対ガキだろ」
「それはない」
戦技を考えた大昔の罪なき誰かのネーミングセンスを罵りだしたフェザンにはっきりと言う。
「戦技とか、技の名前は基本的に最初の使用者が決めれるけど、フェザンの言うガキに使いこなせる技か?」
「そんなわけないだろー」
「だよね、あと、名前よりもまずは性能の方を見てみな。自由に操れる魔力の弓を大量に出現させる。上手く使えば一人で弓兵一個小隊並のことができる」
「そうだよなー、俺の技は強い」
数分前とは真逆で機嫌が良くなったフェザンは
「んじゃ先帰ってるなー」
とだけ言って飛び去ってしまった。その背中を見ていると、ふと、微笑んでいることに気がついた。それと同時に疑問が出てきた。
俺はなんでここに来たのか。眠れなく、あと戦劇大会が終わったらすぐに試験があるからかもしれない。戦術戦略などの筆記はともかく、接近格闘や属性武器や魔法などの魔力操作系の実技が心もとないのだ。いや、それ以外の不安要素は?
的に向けて木刀を振るってもその疑問はなくならない。
「『蛇突』」
浮かんでは消える不安な心を打ち消すように、いつもよりも強めに突き出した木刀の先端から蛇の形をした白い炎が伸び、的を砕く。
眠れない理由は?やはり気になるのは他の生徒たちだ。フェザンやヒエナ、パーティーのみんなはいつも通りだった。そうではない。戦劇大会が進行すると同時に、他の生徒と俺が遠ざかっていくのを今更ながら実感した。そうだ、今更だ。
ここは魔王軍の士官学校。種族というものは寿命別にに三種類に分けられる。一番長生きなのは亡霊や不死者などで千年ほど生きる者もいる。次がゴーレムや鎧兵などの非生物が魔力などによって生きているタイプだ。最も短いのは有翼人や獣人など、名前に『人』がある、すべての種族が人間界に住んでいた頃の名残りがある種族で、長くて二百年ほどの命だ。だが、どの種族だろうが天寿を全うすることは稀だ。軍に携わる大半の者が若くして戦死するのである。
そうだな、どうせ何年かしたら半分くらいは死んでいるんだ。気にするだけ無駄、そう自分に言い聞かせる。そうやって、五年間過ごしてきたじゃないかと。
「あれ?」
魔法を唱えようとしてふらつく。魔法とは、体内に存在する魔力を使って物理現象や自然現象に干渉する術のことだ。当然ながら魔力を使い果たすと使えないが、まさか強めに放った『蛇突』一発でここまで消費するとは……
「これじゃ長期戦は無理そうだな」
でも『蛇突』以外に俺が使える技でまともに強い種族と戦えるものはない。戦技『蛇神』のもう一つの技『継承』に至っては使い方さえわからない。そもそも、戦争に役立たなさそうな技は訓練でもやらないのだ。
「アルガルト-イーセルはどうしたんだろう」
イーセル王国の初代国王で、戦技『蛇神』の生みの親である彼は、自らの二つ名を付けた戦技をどう操ったのだろうか。
「帰ろう。でも、その前に……」
訓練所から出て向かったのは、図書館がある棟だ。目当ては、『アルガルト-イーセル叙事詩』内容は……その名の通りだ。壁一面が本棚に覆われ、大小様々な書物が収められている。深夜だから当たり前だが本棚の間のスペースにあるデスクは空いている。
二十分ほど流し読みした。結論から言うと求めていた答えはなかった。『叙事詩』と大層な名前で呼ばれているはずだが、何よりもアルガルト-イーセルの種族が分からない。一国の始祖の資料が少ないのはどうなのだろうか……。
「あのー、アルガルト-イーセル王の資料ってありますか?」
近くにいた図書館員に尋ねるが申し訳無さそうに答えられた。
「あいにくですが、その『アルガルト-イーセル叙事詩』が本館でもっとも彼について詳しい本です」
「でも、種族すら分かっていないじゃないですか」
「実は、長年の戦乱で結構な量の資料が焼失してしまったんです。まあ当時の王室の暗部に関わる内容もあるでしょうし、一般公開されているのはこの程度です」
「わかりました。もう少し読んでみます」
軽く笑ってその場を離れるが、寮の部屋に帰るためではない。もう一度本を開き、『アルガルトが使った戦術』の章を読み始めた。
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