魔王軍に入隊した人間の叙事詩

片山康亮

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Ⅰ:士官学校篇

訓練所

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「ここ、第一回戦の結果があるよ」

そう案内されて学校にいくつかある掲示板に行く。

『戦劇大会決勝戦中間発表
決勝戦第一回戦終了時において持ち点が多かった五名の内、最も高得点の者と残りの四名によるトーナメント戦の勝者で最終決戦が行われる。

五位、五年シルファ-アングリラ

四位、六年キール-レオナルド-クラーク

三位、六年サクロ-ハルベルト

二位、四年アイラ-ウエブスタ

一位、五年アルスカイト-ヴィべーリオ』

「やった、一位だ」

もう一度掲示板を見直す。一位だ、ということはシード権は俺のものになる。いよいよ負けられない、ここまで来たのだから。

「あいつら……」

隣りにいたフェザンが移動している生徒の一つのグループに憎しみが少し混じった視線を投げかけている。

「どうした?」

「なんでもねーよ。それよりも飯行かねー?」


空いている席を探して食堂を歩いていると他の生徒に避けられているように感じた。訓練で何度か組んだことがある男子生徒を見つけ、話しかけようとしても視線を合わせない。

「ねえ、みんなどうしたんだ?」

問いかけに対して彼は答えず、一瞬迷ったような表情を浮かべたかと思うと踵を返して行ってしまった。

なんとなくだが、戦劇で相手の策にはまりそうな時に感じる独特な、寒気にも似た感覚を感じた。探るような、というよりも疑うような視線が一つ、二つ、いやこの食堂のいたるところから透明な槍となって俺に突き刺さる。その痛みは肉体ではなく精神に激しくのしかかった。困惑が感情を負の方向に揺さぶるのを体全体で感じる。


夜になってもあのなんとも言えない不快感を感じて寝付けない。そういえば、学校の敷地内に夜間も利用できる訓練所がいくつかあったはずだ。士官学校であるため、当然ながら校内の規則は厳しいが、夜に活動する種族の生徒も多いため消灯時間や門限などは特にない。というよりも夜更かしが問題なのではなく、それによって翌日の訓練に支障が出ることが問題に問われる。

寮を出て例のごとく視線を合わせない自主訓練中の生徒たちとすれ違いながら馬小屋に向かう。この士官学校があるイーセル王国立軍事総合学園は国防における重要施設の一つで、地方都市並の敷地面積がある。一番近い野外訓練所までは三キロほど、だから生徒に貸し出されている軍用怪馬を使うのだ。手綱を掴み、鞭を打って走り始める。ある程度スピードが出たところで怪馬が翼を開き離陸する。

誰もいないのだろうか、訓練所の馬小屋には一頭も怪馬の姿がない。軽くストレッチをして用具庫の壁に立てかけてある木刀の一つを手に取る。

おかしいな……明かりがついている。

誰もいないはずの訓練所から光が漏れているのだ。中を覗いてみると壁には大量の矢が刺さり、その中心には弓を携えたフェザンがいる。

「ああ、来てたんだなーアルス」

「まあ、何だか寝付けなくて」

「昼間のことかー?優秀で目立つやつほど叩かれる。ひでー話だよなー、謀将の蛇神さんよ」

冗談を交えながらも心配してくれているフェザンの表情からかなりの魔力が消費されていることがわかった。

「でも気にするだけ無駄だな。この間の実戦訓練でもわかった通り、ヒノカグ帝国との戦闘が増えている。たぶん近いうちに大規模な会戦がはじまるだろう。そうすれば、目先のトラブルなんて取るに足りないものだ。それよりも、随分と疲れているようだが?」

「……そーか?」

フェザンが不意を突かれたような苦笑を浮かべる。

「……わかった、見せてやるよー」

そう言って十本ほどの矢を掴む。それに魔力を込めて淡い碧色になったら空中に投げ、出現した魔力の弓がそれを一斉に放つ。

「……」

いつも通りの技と何が違うんだ?そう思ったが口には出さず見つめているとフェザンの方から疑問を投げかけてきた。

「戦技ってあるだろー……俺のその名前、なんていうんだ?」

「『空賊』だろ」

「じゃーその技の名前は?」

「二つあるけど今使ったのは『シャイニングスコール』で合っているか?」

「そー、それ」

大きくため息をついたフェザンが長距離飛行で鍛えたであろう豊かな肺活量を活かして息を吸い込み叫んだ。

「ダセェんだよー」

「……はっ?」



















    
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