魔王軍に入隊した人間の叙事詩

片山康亮

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Ⅰ:士官学校篇

シード権

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決勝戦は予選突破者十人が行う。第一回戦の勝者五名のうち最も持ち点が多い者と残りの四名で行うトーナメント戦を制した者が対局し、優勝を決める。決勝戦の序盤で注目するのはその最も持ち点が多い者。いわゆるシード権というやつだ。当然だがこれを手にすれば優勝に大きく近づく。

その日の授業は午前中で切り上げられた。午後から決勝戦が始まるのだ。その知らせが届いた途端、俺の中を心地の良い緊迫感が駆け巡った。現在俺の持ち点の順位は二位、第一回戦でまだ逆転が可能な点差だ。

「やっぱ二位かー、アルスの腕前なら敵なしと思ったんだけどなー」

参加者の待機する教室に様子を見に来てくれたフェザンが残念そうな声を上げる。

「予選でなかなか相手がいなくてね」

もちろん俺は不正なんかしていないし手を抜く理由も無い。けれど一度疑われるとなかなか弁解できないらしく、相手をしてくれないのだ。なんとかできた対局の殆どで勝利をおさめられたもののあと一歩のところでシード権を確実の物にするまでに届かなかった。

「まー俺が言うのもおかしいけど頑張れよー」

珍しい種族なのもあるだろうし、俺からもあまり積極的に話しかけるタイプじゃないから五年生でパーティーを結成するまでフェザンくらいしか友達と呼べる誰かがいなかった俺にとってその素っ気ない声援は本人の思っている以上に嬉しいものだった。


『さぁ始まりました校内戦劇大会決勝戦。会場では続々と準備が整いつつあります。今宵、我が校の最高の戦劇プレイヤーが決まるのです』

司会者の声が響き渡る。緊張してるのだろうか、心臓の音がいつもよりも速い。大丈夫だ、この日、この時のために何度も戦劇を打ち、寝る間も惜しまず作戦と、それを見破られたときの対応策を何通りも考えた。

対局会場が突然静まり返る。第一試合が始まった。

四十分程して対局会場から拍手が鳴る。控え室から二人、次の対局をする生徒が出ていく。

「行ってくるね」

出ていく生徒の片方はシルファだった。対局会場へ向かうその姿はいつになく不安と緊張を身に纏っていた。

気づけば残りは俺ともう一人だけだ。

「ヴィべーリオ先輩ですか?」

制服の学年章を見ると四年生のようだ。種族はおそらく魔族、人間と近い種族だが魔界の環境に適応するため進化の過程で人間に比べて基礎魔力の量が優れている。

「凄いな、あのヴィべーリオ先輩だ」

「君は俺のことを知っているの?」

「もちろんですよ。『謀将の蛇神アルスカイト-ヴィべーリオ』は校内で有名ですから」

そうなの……いつの間にか二つ名みたいなのもあるし……

「私はアイラ-ウエブスタです。よろしくお願いします」

小麦色やや短く切った髪と知的な印象の眼鏡をかけた女子生徒は俺が初めて知った噂話に驚いている間に自己紹介を済ませた。

「まさか先輩と戦えるなんて、嬉しいです」

「君は、戦劇が得意なの?」

これは要らない問だったかもしれない。猛者揃いの戦劇大会で決勝戦に残るくらいなのだから。だが、次の一言で『得意』どころではないと思った。

「はい、どうやら予選で一位だったようです。シード権をもらえるように頑張ります」

「頑張ります……か」

もしこの対局で勝てなければ今年の俺の大会はそれまでだ。一年生の頃から毎年出場はしていた、けれど毎回優勝まで届かなかった。だが、この対局に勝てばシード権はほぼ確実に俺のものになるだろう。

『次が、決勝戦第一回戦の最後の対局です。恐らくはこの対局の勝者がシード権を手にするでしょう』

ついに俺たちの番だ。会場は隣の教室、机が片付けられ、中央によく手入れされた戦劇盤と一つに審判が座った三脚の椅子が設置されている。策がぶつかり合う盤上の会戦が今、はじまる。









    
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