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Ⅰ:士官学校篇
参謀と魔道士と戦劇と
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イーセル王国立軍事総合学園士官学校の戦劇大会の予選、その二人目の相手で早くも強敵に当たった。
シルファ-アングリラ……俺たちエテルニタ団のメンバーの一人、高火力の魔法を使いこなす頭脳と器用さを併せ持つ。どう攻めるか……
「お願いします」
思案を巡らせながら一礼する。俺と同じパーティーのメンバーということはそれだけ俺の戦法を知っている。中途半端な策では見破られる。まずは砦を盤の後方に置く。その側に歩兵、板の両端に魔導兵を置く。後は騎兵を縦陣形に配置した。それに対してシルファは砦の周りを魔導兵で固め、前方に騎兵と歩兵を横一列に並べている。突撃してきたら両翼を前進させて包囲するつもりなのだろう。けど、その対策もしてある。それに使うのは両端に置いた魔導兵だ。
まず俺は騎兵を前進させて横一列になったシルファの駒の手前で止める。シルファは俺の駒を包囲する形を取った。騎兵を後ろに下げる。一見すると包囲網から逃げているようだが違う。シルファは両翼を更に前に出して包囲網を狭める。
このままだと主力の駒がやられて攻められない。そう思うかもしれない。でも、こうは考えられないだろうか、騎兵によって敵を引き付けて本当の主力はどこかに温存している、と。
シルファの主力を最大限引き付けているうちに左右においてある魔導兵が砦を挟撃する。これが俺の作戦だ。
案の定シルファの主力である横陣は前進させて来た。俺も騎兵を動かして作戦を進める。駒がぶつかる直前、シルファの駒が二手に別れた。その先には待機させていた魔導兵がある。しかもシルファの駒が四駒に対して俺の駒は二つ。
こいつは……どうも見抜かれていたらしい。
俺の作戦を読んだ上でその要を潰しにかかる、当然のことだがこうなってしまった以上当初の作戦を続けることはできない。駒を打つ音が俺を盤上の戦争にのみ集中させていく。
俺の駒は両端に魔導兵二つずつと中央に騎兵四つ。魔導兵にはそれぞれ四つずつシルファの駒が向かって進軍している。そんななか、ふと思った。これは魔導兵と騎兵で挟撃する好機なのでわ、と。
左側の魔導兵に向かうシルファの駒を撃破する。そのうちに右側の魔導兵はやられるだろう、それでいい。これもそうだが、戦争というものは常に数だ。兵力が少なければ詭計を用いねば勝てないが兵力が多ければ相手が詭計を使う前に潰せる。軍隊というのは量より質と言う奴は大抵必要なだけの人数の兵士を集められなかった奴で、そいつはほぼ全員が自らの戦術に酔い、自滅して戦死するか敗戦の責任でクビになるかがオチだ。数の暴力こそが本来の正しい戦場の勝ち方だ。
そしてお互いに左右を制圧したときの残りの兵力は俺の方が多い。勢いのままにシルファの砦を守る駒を蹂躙し、戻ってくるシルファの駒を砦の守りにつけていた駒と挟撃し、勝利を完全なものにした上で砦を包囲する。
「勝者、アルスカイト-ヴィべーリオ」
こんなに戦劇を楽しめたのはいつぶりだろう。魔力も力も乏しい俺がこの魔界で生きるには、戦術眼だけでも確かなものにしないと。
異変に気がついたのは授業のときだ。パーティーの四人は普段通りだが、他の生徒たちがなぜか近くに座っていない。
「なぜ人間界ではわれわれのように文明を築く種族が少ないのか。元々、魔物と後に人間に進化する猿は同じ今の人間界に住んでいました。いつしかそれぞれの種族が文明を築きはじめ、生存を賭けて争い始めました。結果はいち早く道具というものを発明した人間が勝ち、敗れた他の種族はゲートを発見、今の魔界で発展していきました。人間界と魔界は気候や地質の特徴が微妙に異なり、そのため、二つの世界を繋ぐ大穴、ゲートは軍事的、経済的要所となりました」
教官の講義を聞いて入るがそのことが気になって集中がもたない。
「おいおい、どうやって勝つんだよ」
「ヴィべーリオ……強すぎて怖い」
「あいつ人間だよな。不正じゃね」
「あんなのと当たるなら俺もう棄権するわ」
俺に向けられているのは恐怖と疑いとそして、嘲笑の目。
「ったっくさー、あいつら何だよ不正とか棄権とか、アルスが戦劇で強いのはもとからで勝てなさそうなのを知った途端戦意喪失して罵りだすとかなー」
放課後、食堂でフェザンが飲み物を飲んで反対に不快感を言葉にして吐き出した。
「なんで言われている張本人が黙ってんだよ、俺だったら喜んで羽根ビンタを贈るのによー」
「俺だってああも言われる筋合いはないよ。でも言ったところで変わらないさ」
「それでも不正に対してなら抗議してもいいんじゃない?」
「そうそう、もしもう一回戦ってもたぶん私が負けるから」
ヒエナの言葉にシルファが同調する。
「俺がさー、気になってんのは人間のくせにって言葉なんだよね。」
昼間の訓練で疲れが溜まったのだろう。文字通りの意味で羽根を伸ばしたフェザンが頬杖をついて話し始める。
「ここイーセルは多種族国家だ。当然ごくわずかだがアルスみたいな人間もいる、まー軍事関係に携わるのはほぼいないけど。つまり差別的発言はタブーなわけよ。けどそんなこと分かりきってるはずなのになんでかなー」
「人間界の国との戦闘があったからな、それで知り合いが戦死とかだと思うよ。アルスに責任は無い。不正かどうかは公正な対局で証明しよう」
グラムくんの落ち着いた意見に賛成しつつも、俺は初めて周りから向けられる恐怖に近い驚きの目が気になっていた。
それから約一週間、予選期間も終わり、校内の掲示板にその結果が掲載された。俺は十五戦ほどの対局で勝利をおさめて予選突破。シルファも決勝へ駒を進めた。
シルファ-アングリラ……俺たちエテルニタ団のメンバーの一人、高火力の魔法を使いこなす頭脳と器用さを併せ持つ。どう攻めるか……
「お願いします」
思案を巡らせながら一礼する。俺と同じパーティーのメンバーということはそれだけ俺の戦法を知っている。中途半端な策では見破られる。まずは砦を盤の後方に置く。その側に歩兵、板の両端に魔導兵を置く。後は騎兵を縦陣形に配置した。それに対してシルファは砦の周りを魔導兵で固め、前方に騎兵と歩兵を横一列に並べている。突撃してきたら両翼を前進させて包囲するつもりなのだろう。けど、その対策もしてある。それに使うのは両端に置いた魔導兵だ。
まず俺は騎兵を前進させて横一列になったシルファの駒の手前で止める。シルファは俺の駒を包囲する形を取った。騎兵を後ろに下げる。一見すると包囲網から逃げているようだが違う。シルファは両翼を更に前に出して包囲網を狭める。
このままだと主力の駒がやられて攻められない。そう思うかもしれない。でも、こうは考えられないだろうか、騎兵によって敵を引き付けて本当の主力はどこかに温存している、と。
シルファの主力を最大限引き付けているうちに左右においてある魔導兵が砦を挟撃する。これが俺の作戦だ。
案の定シルファの主力である横陣は前進させて来た。俺も騎兵を動かして作戦を進める。駒がぶつかる直前、シルファの駒が二手に別れた。その先には待機させていた魔導兵がある。しかもシルファの駒が四駒に対して俺の駒は二つ。
こいつは……どうも見抜かれていたらしい。
俺の作戦を読んだ上でその要を潰しにかかる、当然のことだがこうなってしまった以上当初の作戦を続けることはできない。駒を打つ音が俺を盤上の戦争にのみ集中させていく。
俺の駒は両端に魔導兵二つずつと中央に騎兵四つ。魔導兵にはそれぞれ四つずつシルファの駒が向かって進軍している。そんななか、ふと思った。これは魔導兵と騎兵で挟撃する好機なのでわ、と。
左側の魔導兵に向かうシルファの駒を撃破する。そのうちに右側の魔導兵はやられるだろう、それでいい。これもそうだが、戦争というものは常に数だ。兵力が少なければ詭計を用いねば勝てないが兵力が多ければ相手が詭計を使う前に潰せる。軍隊というのは量より質と言う奴は大抵必要なだけの人数の兵士を集められなかった奴で、そいつはほぼ全員が自らの戦術に酔い、自滅して戦死するか敗戦の責任でクビになるかがオチだ。数の暴力こそが本来の正しい戦場の勝ち方だ。
そしてお互いに左右を制圧したときの残りの兵力は俺の方が多い。勢いのままにシルファの砦を守る駒を蹂躙し、戻ってくるシルファの駒を砦の守りにつけていた駒と挟撃し、勝利を完全なものにした上で砦を包囲する。
「勝者、アルスカイト-ヴィべーリオ」
こんなに戦劇を楽しめたのはいつぶりだろう。魔力も力も乏しい俺がこの魔界で生きるには、戦術眼だけでも確かなものにしないと。
異変に気がついたのは授業のときだ。パーティーの四人は普段通りだが、他の生徒たちがなぜか近くに座っていない。
「なぜ人間界ではわれわれのように文明を築く種族が少ないのか。元々、魔物と後に人間に進化する猿は同じ今の人間界に住んでいました。いつしかそれぞれの種族が文明を築きはじめ、生存を賭けて争い始めました。結果はいち早く道具というものを発明した人間が勝ち、敗れた他の種族はゲートを発見、今の魔界で発展していきました。人間界と魔界は気候や地質の特徴が微妙に異なり、そのため、二つの世界を繋ぐ大穴、ゲートは軍事的、経済的要所となりました」
教官の講義を聞いて入るがそのことが気になって集中がもたない。
「おいおい、どうやって勝つんだよ」
「ヴィべーリオ……強すぎて怖い」
「あいつ人間だよな。不正じゃね」
「あんなのと当たるなら俺もう棄権するわ」
俺に向けられているのは恐怖と疑いとそして、嘲笑の目。
「ったっくさー、あいつら何だよ不正とか棄権とか、アルスが戦劇で強いのはもとからで勝てなさそうなのを知った途端戦意喪失して罵りだすとかなー」
放課後、食堂でフェザンが飲み物を飲んで反対に不快感を言葉にして吐き出した。
「なんで言われている張本人が黙ってんだよ、俺だったら喜んで羽根ビンタを贈るのによー」
「俺だってああも言われる筋合いはないよ。でも言ったところで変わらないさ」
「それでも不正に対してなら抗議してもいいんじゃない?」
「そうそう、もしもう一回戦ってもたぶん私が負けるから」
ヒエナの言葉にシルファが同調する。
「俺がさー、気になってんのは人間のくせにって言葉なんだよね。」
昼間の訓練で疲れが溜まったのだろう。文字通りの意味で羽根を伸ばしたフェザンが頬杖をついて話し始める。
「ここイーセルは多種族国家だ。当然ごくわずかだがアルスみたいな人間もいる、まー軍事関係に携わるのはほぼいないけど。つまり差別的発言はタブーなわけよ。けどそんなこと分かりきってるはずなのになんでかなー」
「人間界の国との戦闘があったからな、それで知り合いが戦死とかだと思うよ。アルスに責任は無い。不正かどうかは公正な対局で証明しよう」
グラムくんの落ち着いた意見に賛成しつつも、俺は初めて周りから向けられる恐怖に近い驚きの目が気になっていた。
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