魔王軍に入隊した人間の叙事詩

片山康亮

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Ⅰ:士官学校篇

緊急空挺作戦

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「全部隊に通達する」

待機しているように命じられた部屋に一人の士官が現れた。

「作戦の詳細を伝える。我が軍のダンジョン、カスレロ城塞から援軍要請があった。地上は混戦を極め近づけないため、飛空艇からの降下作戦を予定している」

兵士たちの顔に緊張が走る。それもそうだ、戦闘になるということはこの中の幾人かは生きて帰れないのだから。

『十分後に戦闘区域に入る、各自準備をしろ。戦闘員は総員、降下用意』

はじまった……砲撃音も間近に聞こえる。軍靴に支給されたマジックアイテムを取り付ける。耳の通信機からネター様の声がする。

『エテルニタ訓練分隊に命令する。戦闘中の訓練分隊を発見した。降下後に一度本隊から離れ、援護にまわってくれ』

「はっ」

『こちらブリッジ。戦闘員は降下をはじめて下さい』

船底の部屋に移動する。床の一部が開き、下の戦場がよく見える。深呼吸して心を落ち着ける。

「死ぬものか」

床を蹴り、落下に身を任せる。地上からの攻撃魔法が襲いかかり何人かの兵士がその餌食となった。

「散らばれ。攻撃の的を分散させろ」

味方の兵士たちの方を向く。無防備な空中で狙われたら危険だ。

「降りたら俺の所に集まってくれ。では、散開」

俺とフェザンたちを合わせても動かせる戦力は十二人。どう使うか……。地面がだんだんと近づいていく。軍靴に付けたマジックアイテムが作動する。足元に白い魔法陣が現れ、落下速度がゆっくりになる。バランスをとって着地。

『アルス、救援要請の狼煙を見つけた。たぶん私たちと同じ実戦訓練の。今どこにいる?』

通信機からヒエナの声がする。周りを見回すと少し離れた丘の上に小さな小屋が見えた。

「みんな、そこから丘は見えるか?そこの小屋で合流しよう」

通信機に向かって言う。剣を抜き、小屋へと向かう。竜騎兵が隊列を組んで頭上を通り過ぎ、四メートルはありそうな巨体が敵兵を殴り飛ばしている。各々が武器を構え、魔法を唱え、火を吹きそして、散っていく。気を抜けば命がすぐに消えていく。これが……戦場。攻撃を躱しながら小屋にたどり着く。すでに兵士八人とパーティーの三人が着いていた。

「全員聞いてくれ。現在われわれはダンジョンマスターの命令を受け、カスレロ城塞に配属された士官候補生を救出する任務にあたっている。そのための策をここで伝えたい」

そう前置きして作戦を話しはじめる。

「飛空艇からの情報だと、ヒノカグ帝国軍はダンジョンの南東から攻めて来ている。救援要請があったのはダンジョンの門付近。そこには見張り櫓があるがすでに陥落している」

カスレロ城塞周辺の地図を見せる。

「戦闘を避けるためにこの櫓の死角から進軍する。少ない兵力だから密集形態で進むぞ」

小屋に魔法が直撃し、壁が崩れ落ちる。

「いくぞ」

戦場の混乱を逆手に取り、戦闘を避けながら進む。今優先するべきは損害を極力少なくして進軍することだ。たどり着いたダンジョンの門は破壊され敵兵が中に侵入している。その一角、城壁に寄りかかっている少女が見えた。あのままだと戦死は免れない。早く治癒魔法をかけないと。

「大丈夫か?」

駆け寄ったグラムくんが肩を揺する。士官学校の制服。階級章の所には五年生を表すマークがついている。やはり救援要請をした訓練分隊の者か。

「……」

頭部に着けた防具で顔は見えないが息はしていた。良かった生きている。

「バルビュートくん……」

小さな声で少女が言う。

「『ヒール』」

治癒魔法で応急処置をする。

「ありがとう……」

少女が頭の防具を外す。一見人間のような見た目。でも尾と動物のような耳を持った獣人系の種族だ。

「会うのは訓練の時以来かな」

俺たちは一度彼女と共闘したことがある。名前は、シルファ-アングリラ。シルファの強みはなんと言ってもその魔術。大型の種族の者を数十秒にわたって凍結させることができる。

「パーティーメンバーはどうしたのか?」

グラムくんが問いかける。その言葉を聞いたシルファが震えだした。目にはうっすらと涙の跡がある。

「私たちのパーティーはダンジョンに櫓の奪還を命じられた……でも……みんな殺られた。もともと学校成績はあまり良くなかったけど。こんなにすぐ死んじゃうなんて……」

これが、戦場か。国のため、夢のため。目的は違えど平然と殺し合いが行われ、血とそれ以上の涙が流される。周りを見ると、そこはまさに地獄だ。種族、年齢、性別全て関係なく生まれた場所が偶然国境の反対側だったというだけで家族を、友達を殺され、それと同じように相手を殺す。俺たちのようにその訓練を受けている者じゃない限り一生悪夢に魘されるだろう。エルセルトさんのような歴戦の名将ですら『稀に嫌気がさす』と言うほどだから。

『こちら本隊。エテルニタ訓練分隊に通達します。カスレロ城塞の訓練分隊と協力して櫓の奪還をするようにとのことです』

すぐそばに伝令火が落ち、そう伝えられる。







 
















































    
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