魔王軍に入隊した人間の叙事詩

片山康亮

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Ⅰ:士官学校篇

任務部隊

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クロノード神殿から南に十キロ。俺たちは、哨戒部隊を率いて進んでいた。大きな道から少し外れた空き地に並んだ兵士たちにグラムくんが号令をかける。

「今から、計画通り作戦をはじめる。ダンジョンを中心とした半径十キロメートルの円に沿って移動する。一キロごとに録画魔法を掛けた石を置き、その映像をダンジョンに送る。僕たちは正規の軍人ではない。ベテランの兵士である君たちの力は心強いが、なるべく戦闘は避けるように」

俺たちの前には三台の装甲馬車と六頭の怪馬(黒色の翼と銀色の立髪をもつ小型だが力の強い馬)がいる。そのうち半数は馬車につながれていて、残りはイーセル王国軍の紋章が描かれた鞍がついている。

「兵士はパーティーごとに分かれて馬車に乗ってくれ。俺たちは怪馬に直接乗る」

「あのー、ヴィべーリオ下士官待遇。馬が足りないような気がしますが」

準備運動をしているフェザンの方を見る。俺に代わってヒエナが説明する。

「それは……私たちの中に馬に乗れない者がいてな……」

「とにかく、出発しよう」



さらに進むこと三時間、今のところ任務は順調に遂行されている。まあ……ここで訓練の方がキツかったわ……なんて死亡フラグは言わないが。

今、俺たちは初日の夕食を用意している。鍋を焚き火に焚べ、兵士の一人、参謀役の羊の頭に四本の腕を持った種族の男性と話す。

「ヴィべーリオ下士官待遇は私と同じで参謀タイプなんですか。すごく身体能力が高くて魔法の火力もあるのでアタッカーかと思いました」

「いや……俺もまだまだだよ。普段の訓練で普通の兵士数人くらいなら相手にできるけど、軍の部隊長レベルだと刃が立たない」

「でも、下士官待遇の種族って人間ですよね」

「教官が優秀だったんだ。基礎魔力の少ない俺が属性攻撃の技『蛇突』を使えるのもそのおかげさ」

イグドー教官との魔力操作訓練。その二週間ほどの短い間で、とくに心に残っていることがある。



『そういえば、どうして俺にここまで教えてくれるのですか?』

休暇中、ふと、疑問に思って尋ねたことがあった。

『うーん、俺は生徒への個人強化訓練が専門だから、君以外にも同じように教えたことも多いよ。でも、強いて言うなら素質があったんだよ、君には』

『そんなことないですよ。俺は……人間だし。得意分野といえばボードゲームの戦劇ぐらいです』

『だからだよ。君の長所はその戦術眼だ。たとえ体力や魔力が少なくても、相手の動きを先読みすることで歴戦の強者とも互角に渡り合える。そうだ、君におすすめの本があるんだ。君の戦技を極めるには役立つはずさ』

『ありがとうございます』

『ありがとうごさられます。さあ、訓練を再開しよう』



「アルス、鍋できたよー」

お椀と水筒を手にフェザンが飛来する。夕食は持ってきた干し肉と山菜を鍋で煮込んだ料理だ。

「グラムくんが料理できるとは知らなかったな」

その美味しさに舌鼓を打つ。グラムくんはこういうことも得意らしい。パーティーの優秀なタンクで優しく、そのうえ料理もできる。すごく頼りになる存在だ。

「そうだ、パンを持ってきますね」

さっきの兵士が馬車に向かう。

「ねえアルス、戦技『蛇神』だいぶ使いこなせるようになったね」

焚き火を挟んで反対側にいるヒエナが俺に視線を向ける。

「んー『蛇突』の方はだいぶ。でも『継承』は使ったことないな。学校だと戦闘系以外の技はあまりやらないから」

「どんな技なの?その『継承』って」

「前に調べたんだけどさ、『継承』は他の人の戦技を使って自分の戦技を強化する技なんだとか。けど、人間の魔力じゃ扱えないって。」

前例の少ない戦技『蛇神』その情報は、以外にも近くにあった。『イーセル創立詩』イーセル王国の建国を綴った叙事詩で、士官学校の歴史の教科書にもなっている。

「そんなところに!」

パーティーのみんなが目を丸くして言う。無理もない、なにせ学校で毎日のように読んでいるからだ。

「それの……どこに書いてあったの?」

「建国の英雄、初代国王アルガルト-イーセルの章にあった」

「聞かせて、その話」

日が落ちてゆくなか、俺は、話しはじめた。これは、建国の英雄、アルガルト-イーセルの物語だ。









































    
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