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Ⅰ:士官学校篇
冥帝の防壁
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学校に戻った俺たちは、イグドー教官の部屋へ行った。
「おお、君たちどうしたんだい」
教官に買ったマジックアイテムを差し出す。
「ありがとう、いやー、こんな素晴らしいお守りをもらえて嬉しいよ」
そう言って彼は、マジックアイテムをポケットに入れる。ふいに、教官の横に飾ってある、イーセル王国軍の紋章が付いた盾に目が行く。
「教官、この盾は」
「ああ、この盾はね、俺が前に前線勤務だったときに使っていた盾だよ。軍の制式盾を改良したものでね」
教官が笑顔でそう言ったが、目は笑っていなかった。
こんな教官初めて見る。まるで、その盾が忌まわしいもののように眺める教官を。
「聞きたいかい。この俺が、まだ最前線にいて、冥帝の防壁と呼ばれていたころの話を……」
ヴァンデーク城跡
かつてこの地を治めていた国の城を、イーセル王国軍の拠点としたダンジョン。古風の城内には大小さまざまなブロックに分かれ、約二千人の兵士が収容可能な大型要塞。
そこでは、ダンジョンマスターである先代霊王のプルトーのもとで、この俺、イグドー-バンディードは、マスターのパーティーメンバー兼タンク部隊指揮官として働いていた。
「イグドー、ちょっとこっちきてくれ」
「なんですか、プルトー様」
「見てみろ、この景色を」
「「「新霊王、プルトー様万歳」」」
窓の外を見ると、たくさんの兵士たちが、この間霊王に昇進したプルトー様を祝っていた。
新霊王のプルトー様は、少壮の堕天使で、俺の士官学校の先輩だった。卒業後、俺たちは、プルトー様がアタッカー、俺がタンクでパーティーを結成した。高火力の範囲魔法と剣と鎌が一体になった武器、そして、髑髏をモチーフにした仮面で、彼は冥帝の矛と呼ばれ、彼を徹底的に守っていた俺は、冥帝の盾と呼ばれた。
俺たちのパーティーは、高火力と堅い防御力の完璧な融合と称賛され、四王になる日も近いとも噂されていたが、ついに、プルトー様が霊王になったのだ。
しかし……
「バンディード司令、少し指導をお願いします」
あのとき、俺は部下でオーガの、グロイト小隊長と訓練をしていた。
「盾をもっと上げろ。そんなんじゃすぐ保たなくなるぞ」
「はい」
「じゃあ俺の攻撃を受け止めろ」
模擬戦用の槍を振り下ろす。グロイトが後ろに飛ばされる。
「どわっ、もう一度お願いします」
「わかった。では行くぞ」
もう一度槍を構えたところで城内にサイレンが鳴り響く。
『敵襲、敵襲、西門方面に敵、およそ三千体……あの紋章は……ヒノカグだ』
「訓練は中断だ、行くぞグロイト」
ダンジョンマスター室
『サイクロプスを確認、城壁を破壊される恐れあり』
「魔導弓兵を前へ、壁に近寄らせるな」
「わかりました」
弓兵隊長が前線指揮のために部屋をあとにする。
「伝令兵です、第七ブロックに侵入されました」
舌打ちをして机に手を叩きつける。
「周辺ブロックから非戦闘員を撤退させろ」
「はっ、中にいる敵の対処は」
「むやみに乱戦に持ち込むわけにはいかない。通路を封鎖し、ブロックの中に閉じ込めてやれ」
「だめです、中の敵が多すぎます」
「プルトー様、俺がそいつらを迎撃します」
「頼んだぞ、イグドー」
盾兵隊を連れて第七ブロックヘ行く。
「敵を外に押し戻せ」
盾を構え、体当たりをする。槍を薙ぎ払い、突き上げ、確実に敵を絶命させる。
「『火炎陣』」
炎のバリアをはり、他のブロックに行けないようにする。
魔法で落雷をおこし、敵の亡霊武者の頭部を吹き飛ばす。盾の角で殴りつけて気絶させ、喉を貫き、血を振り払う。
誰かの怒号が聞こえ、死臭と、血のにおいがする。
『隊長、隊長、霊王様です、霊王様がきました。』
空を見ると、自らの翼で飛翔するプルトー様の姿があった。危ない、あんなことしたら集中攻撃の的だ。
「プルトー様、さがって下さい」
「大丈夫だ、俺は霊王だ、そう簡単に死にはしない。それに、もしなにかあってもお前がいるからな」
そう笑って俺に背を向ける。
「プルトー様、お待ち下さい」
「何言っている、ここで俺が敵将を打ち取れば俺たちの勝ちだ」
そこまで言われると、もう止められない。学生のころからそうだった。それとも、彼なら大丈夫だろうと、心のどこかで思っていたのかもしれない。
ヒノカグ帝国軍本陣
「セぇっい」
プルトーが武器を一閃させ、魔法を撃ち込む。敵の首を切断し、飛びかかってきた兵士を撃墜する。轟音とともに現れたのは敵のゴーレム、地面に振り下ろされた腕に奪った槍を突き立て、駆け上がる。
ヴァンデーク城跡
侵入した敵のほとんどを撃破することに成功していた。
「隊長、霊王様はどこにおられますか」
兵士たちがそう聞いてくる。
「みんな、今から言うことをよく聞いてくれ。プルトー様は今、敵本陣を直属の特殊部隊とともに攻略いいかれている。そこで、われわれはその援軍として出撃する」
「「「「はっ」」」」
ヒノカグ帝国軍本陣
ゴーレムを討伐したプルトーは、ヒノカグ帝国軍の指揮官と対面していた。
「これはこれは、冥帝の矛様のお出ましであるか」
「貴様がヒノカグの指揮官か」
「さよう、我が、ヒノカグ帝国軍指揮官、オーグニだ」
プルトーが武器を構え、一息で振り下ろす。
「喋り方が古くせぇんだよ、このエセ悪役野郎が」
剣と剣がぶつかり、金属音が鳴り響く。
ヒノカグの指揮官の蹴りを弾き首を狙うが、霧になって回避される。姿を現し、空ヘ舞い上がった敵を追って飛翔する。
「戦技、『惨劇』」
敵に武器を突き刺し、そのまま体を捻って傷口を広げる技、“惨劇”。プルトーの放ったその一撃は、確かに指揮官に大ダメージを与えたように見えた。
「グギャア」
致命傷を負った敵が、深緑色の血をまき散らしながら地面に叩きつけられる。骨の砕ける音がして動かなくなる。
「案外、早く殺れたな」
武器に付いた血を払い、鞘に納める。
「さすがは霊王と言うべき戦いぶりだな。まさか、こうも早く我が影武者を殺すとは」
辺りにたちこめていた霧が集まり、さっき倒したはずの指揮官が現れる。
「さきほど、我の首を狙ったとき、我は霧に化けた。その時にそれ、そこに転がっている者とすり替わったのだよ」
「ならば、今、貴様を殺す」
抜刀と同時に放った斬撃を躱され、手首をつかまれる。
「セイッ」
投げ飛ばされ、背中に激痛がはしる。
起き上がったときに目に写っていたのは、巨大な火球を放とうとする、ヒノカグの指揮官だった……
イグドー隊
「プルトー様、どこにいらっしゃいますか、プルトー様」
返事は無く、戦場に声がこだまするだけだった。
「隊長、こちらを見て下さい」
そこには、まるで、道のように敵の死体が転がっていて、敵本陣の方に続いていた。
「何者かがここを通りながら襲ったのでしょうか」
部下がそう問いかける。だが、俺にはめどがついていた。
「プルトー様だ、これほど効率的に倒しながら進めるのは、あの方しかいない。行くぞ」
火球が放たれ、プルトーに直撃する。翼を焼かれ、全身に火傷を負う。
熱い、このまま燃え尽きそうだ。
「我が戦技、“ヴォルケーノ”を食らった気分はどうかね」
苦しい、辛い、だが……
「いままで、俺が殺してきたヒノカグの兵士たちの方がよっぽど辛かっただろう。お前のような生ゴミを守るために死なねばならなかったからな。」
「ナッ、生ゴミだと。貴様、灰になれ」
ヒノカグの指揮官が大量の火球を放つ。空を飛び回り、回避するが、翼が焼けていて躱しきれない。
「グァァ」
「どうだ、“生ゴミ”に負ける気分は」
敵本陣の階段を駆け上がる。気づけば部下たちの姿がない。耳につけた通信機から声がする。
『隊長、グロイトです。われわれは、本陣の入口で敵を防いでいます。早く、プルトー様のもとへ』
「わかった、死ぬなよ」
『隊長こそ、さあ、行ってください』
「グァァ」
あれはプルトー様の声だ。
「どうだ、“生ゴミ”に負ける気分は」
これは…プルトー様と戦っている者の声か。
武器を構え、プルトー様のいる部屋に入る。
「なんだね、貴様は」
プルトー様といたもう一人の男が問いかける。
「ヴァンデーク城跡、タンク部隊指揮官、イグドー-バンディードだ」
「ふむ、そのバンディードなる者、貴様の勇気に敬意を現し……」
「プルトー様、申し訳ありません。さあ、城ヘ帰りましょう」
「話を聞け、馬鹿者。貴様の勇気に敬意を現し、ここで名誉ある自害の権利をやる」
自害…つまり死ねと言うことか。
「プルトー様、無視して帰りましょう」
「そうだな。ここは引こう」
怪我をしていて歩けないプルトー様を背負う。
「おい、こら待ちたまえ」
そう声をかけられる。
「貴様らは帰ってもかまわん。だが、そのかわり此奴の命をいただく」
やつの手には鎖がつながっていて、それに縛られていたのは。
「グロイト」
「隊長、早く、プルトー様をお連れして城ヘお戻り下さい」
「だめだイグドー、グロイトを連れて行け」
どうする、俺が来た目的はプルトー様を助けること。だが、グロイトを見捨てるわけにはいかない。だとしたら。
「どうするのかね、はやく決めたまえ。」
ヒノカグの指揮官の声に対し、槍を構える。
「そうか、覚悟をしたか」
よし、グロイトを離した。
「戦技、『火炎陣』」
プルトー様とグロイトを炎のバリアで囲う。
「でりゃぁっ」
槍を突きだす。火花が散り、非音楽的な響がする。
敵がなにやら呪文を唱える。
「ぐっ」
一瞬体が宙に浮き、地面に叩きつけられる。
「ふ、ハハハハハ、これで我の勝ちだ。散れ、灰になれ」
敵の武器が振り下ろされ…ない。血は…流れている、俺ではない、誰かの血が。
「プ、プルトー様、プルトー様ー」
「おお、君たちどうしたんだい」
教官に買ったマジックアイテムを差し出す。
「ありがとう、いやー、こんな素晴らしいお守りをもらえて嬉しいよ」
そう言って彼は、マジックアイテムをポケットに入れる。ふいに、教官の横に飾ってある、イーセル王国軍の紋章が付いた盾に目が行く。
「教官、この盾は」
「ああ、この盾はね、俺が前に前線勤務だったときに使っていた盾だよ。軍の制式盾を改良したものでね」
教官が笑顔でそう言ったが、目は笑っていなかった。
こんな教官初めて見る。まるで、その盾が忌まわしいもののように眺める教官を。
「聞きたいかい。この俺が、まだ最前線にいて、冥帝の防壁と呼ばれていたころの話を……」
ヴァンデーク城跡
かつてこの地を治めていた国の城を、イーセル王国軍の拠点としたダンジョン。古風の城内には大小さまざまなブロックに分かれ、約二千人の兵士が収容可能な大型要塞。
そこでは、ダンジョンマスターである先代霊王のプルトーのもとで、この俺、イグドー-バンディードは、マスターのパーティーメンバー兼タンク部隊指揮官として働いていた。
「イグドー、ちょっとこっちきてくれ」
「なんですか、プルトー様」
「見てみろ、この景色を」
「「「新霊王、プルトー様万歳」」」
窓の外を見ると、たくさんの兵士たちが、この間霊王に昇進したプルトー様を祝っていた。
新霊王のプルトー様は、少壮の堕天使で、俺の士官学校の先輩だった。卒業後、俺たちは、プルトー様がアタッカー、俺がタンクでパーティーを結成した。高火力の範囲魔法と剣と鎌が一体になった武器、そして、髑髏をモチーフにした仮面で、彼は冥帝の矛と呼ばれ、彼を徹底的に守っていた俺は、冥帝の盾と呼ばれた。
俺たちのパーティーは、高火力と堅い防御力の完璧な融合と称賛され、四王になる日も近いとも噂されていたが、ついに、プルトー様が霊王になったのだ。
しかし……
「バンディード司令、少し指導をお願いします」
あのとき、俺は部下でオーガの、グロイト小隊長と訓練をしていた。
「盾をもっと上げろ。そんなんじゃすぐ保たなくなるぞ」
「はい」
「じゃあ俺の攻撃を受け止めろ」
模擬戦用の槍を振り下ろす。グロイトが後ろに飛ばされる。
「どわっ、もう一度お願いします」
「わかった。では行くぞ」
もう一度槍を構えたところで城内にサイレンが鳴り響く。
『敵襲、敵襲、西門方面に敵、およそ三千体……あの紋章は……ヒノカグだ』
「訓練は中断だ、行くぞグロイト」
ダンジョンマスター室
『サイクロプスを確認、城壁を破壊される恐れあり』
「魔導弓兵を前へ、壁に近寄らせるな」
「わかりました」
弓兵隊長が前線指揮のために部屋をあとにする。
「伝令兵です、第七ブロックに侵入されました」
舌打ちをして机に手を叩きつける。
「周辺ブロックから非戦闘員を撤退させろ」
「はっ、中にいる敵の対処は」
「むやみに乱戦に持ち込むわけにはいかない。通路を封鎖し、ブロックの中に閉じ込めてやれ」
「だめです、中の敵が多すぎます」
「プルトー様、俺がそいつらを迎撃します」
「頼んだぞ、イグドー」
盾兵隊を連れて第七ブロックヘ行く。
「敵を外に押し戻せ」
盾を構え、体当たりをする。槍を薙ぎ払い、突き上げ、確実に敵を絶命させる。
「『火炎陣』」
炎のバリアをはり、他のブロックに行けないようにする。
魔法で落雷をおこし、敵の亡霊武者の頭部を吹き飛ばす。盾の角で殴りつけて気絶させ、喉を貫き、血を振り払う。
誰かの怒号が聞こえ、死臭と、血のにおいがする。
『隊長、隊長、霊王様です、霊王様がきました。』
空を見ると、自らの翼で飛翔するプルトー様の姿があった。危ない、あんなことしたら集中攻撃の的だ。
「プルトー様、さがって下さい」
「大丈夫だ、俺は霊王だ、そう簡単に死にはしない。それに、もしなにかあってもお前がいるからな」
そう笑って俺に背を向ける。
「プルトー様、お待ち下さい」
「何言っている、ここで俺が敵将を打ち取れば俺たちの勝ちだ」
そこまで言われると、もう止められない。学生のころからそうだった。それとも、彼なら大丈夫だろうと、心のどこかで思っていたのかもしれない。
ヒノカグ帝国軍本陣
「セぇっい」
プルトーが武器を一閃させ、魔法を撃ち込む。敵の首を切断し、飛びかかってきた兵士を撃墜する。轟音とともに現れたのは敵のゴーレム、地面に振り下ろされた腕に奪った槍を突き立て、駆け上がる。
ヴァンデーク城跡
侵入した敵のほとんどを撃破することに成功していた。
「隊長、霊王様はどこにおられますか」
兵士たちがそう聞いてくる。
「みんな、今から言うことをよく聞いてくれ。プルトー様は今、敵本陣を直属の特殊部隊とともに攻略いいかれている。そこで、われわれはその援軍として出撃する」
「「「「はっ」」」」
ヒノカグ帝国軍本陣
ゴーレムを討伐したプルトーは、ヒノカグ帝国軍の指揮官と対面していた。
「これはこれは、冥帝の矛様のお出ましであるか」
「貴様がヒノカグの指揮官か」
「さよう、我が、ヒノカグ帝国軍指揮官、オーグニだ」
プルトーが武器を構え、一息で振り下ろす。
「喋り方が古くせぇんだよ、このエセ悪役野郎が」
剣と剣がぶつかり、金属音が鳴り響く。
ヒノカグの指揮官の蹴りを弾き首を狙うが、霧になって回避される。姿を現し、空ヘ舞い上がった敵を追って飛翔する。
「戦技、『惨劇』」
敵に武器を突き刺し、そのまま体を捻って傷口を広げる技、“惨劇”。プルトーの放ったその一撃は、確かに指揮官に大ダメージを与えたように見えた。
「グギャア」
致命傷を負った敵が、深緑色の血をまき散らしながら地面に叩きつけられる。骨の砕ける音がして動かなくなる。
「案外、早く殺れたな」
武器に付いた血を払い、鞘に納める。
「さすがは霊王と言うべき戦いぶりだな。まさか、こうも早く我が影武者を殺すとは」
辺りにたちこめていた霧が集まり、さっき倒したはずの指揮官が現れる。
「さきほど、我の首を狙ったとき、我は霧に化けた。その時にそれ、そこに転がっている者とすり替わったのだよ」
「ならば、今、貴様を殺す」
抜刀と同時に放った斬撃を躱され、手首をつかまれる。
「セイッ」
投げ飛ばされ、背中に激痛がはしる。
起き上がったときに目に写っていたのは、巨大な火球を放とうとする、ヒノカグの指揮官だった……
イグドー隊
「プルトー様、どこにいらっしゃいますか、プルトー様」
返事は無く、戦場に声がこだまするだけだった。
「隊長、こちらを見て下さい」
そこには、まるで、道のように敵の死体が転がっていて、敵本陣の方に続いていた。
「何者かがここを通りながら襲ったのでしょうか」
部下がそう問いかける。だが、俺にはめどがついていた。
「プルトー様だ、これほど効率的に倒しながら進めるのは、あの方しかいない。行くぞ」
火球が放たれ、プルトーに直撃する。翼を焼かれ、全身に火傷を負う。
熱い、このまま燃え尽きそうだ。
「我が戦技、“ヴォルケーノ”を食らった気分はどうかね」
苦しい、辛い、だが……
「いままで、俺が殺してきたヒノカグの兵士たちの方がよっぽど辛かっただろう。お前のような生ゴミを守るために死なねばならなかったからな。」
「ナッ、生ゴミだと。貴様、灰になれ」
ヒノカグの指揮官が大量の火球を放つ。空を飛び回り、回避するが、翼が焼けていて躱しきれない。
「グァァ」
「どうだ、“生ゴミ”に負ける気分は」
敵本陣の階段を駆け上がる。気づけば部下たちの姿がない。耳につけた通信機から声がする。
『隊長、グロイトです。われわれは、本陣の入口で敵を防いでいます。早く、プルトー様のもとへ』
「わかった、死ぬなよ」
『隊長こそ、さあ、行ってください』
「グァァ」
あれはプルトー様の声だ。
「どうだ、“生ゴミ”に負ける気分は」
これは…プルトー様と戦っている者の声か。
武器を構え、プルトー様のいる部屋に入る。
「なんだね、貴様は」
プルトー様といたもう一人の男が問いかける。
「ヴァンデーク城跡、タンク部隊指揮官、イグドー-バンディードだ」
「ふむ、そのバンディードなる者、貴様の勇気に敬意を現し……」
「プルトー様、申し訳ありません。さあ、城ヘ帰りましょう」
「話を聞け、馬鹿者。貴様の勇気に敬意を現し、ここで名誉ある自害の権利をやる」
自害…つまり死ねと言うことか。
「プルトー様、無視して帰りましょう」
「そうだな。ここは引こう」
怪我をしていて歩けないプルトー様を背負う。
「おい、こら待ちたまえ」
そう声をかけられる。
「貴様らは帰ってもかまわん。だが、そのかわり此奴の命をいただく」
やつの手には鎖がつながっていて、それに縛られていたのは。
「グロイト」
「隊長、早く、プルトー様をお連れして城ヘお戻り下さい」
「だめだイグドー、グロイトを連れて行け」
どうする、俺が来た目的はプルトー様を助けること。だが、グロイトを見捨てるわけにはいかない。だとしたら。
「どうするのかね、はやく決めたまえ。」
ヒノカグの指揮官の声に対し、槍を構える。
「そうか、覚悟をしたか」
よし、グロイトを離した。
「戦技、『火炎陣』」
プルトー様とグロイトを炎のバリアで囲う。
「でりゃぁっ」
槍を突きだす。火花が散り、非音楽的な響がする。
敵がなにやら呪文を唱える。
「ぐっ」
一瞬体が宙に浮き、地面に叩きつけられる。
「ふ、ハハハハハ、これで我の勝ちだ。散れ、灰になれ」
敵の武器が振り下ろされ…ない。血は…流れている、俺ではない、誰かの血が。
「プ、プルトー様、プルトー様ー」
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