魔王軍に入隊した人間の叙事詩

片山康亮

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Ⅰ:士官学校篇

イセトリンク繁華街

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朝起きたら、掲示板に人が集まっていた。

『イグドー教官の転勤のお知らせ
イグドー教官が今度、最前線のダンジョンである、アーロゴスト地底都市に転勤になりました。出発は来週の火曜日です』

「イグドー教官って、あのダンス好きの」

「ああ、なんでもあの人は、先代霊王様のパーティーでタンクをしていたらしい。」

「どうりで防御力がバケモノだったのか」

俺が掲示板を見ていると、ヒエナが話しかけてくる。

「アルス、イグドー教官が前線に行くって本当?」

「本当らしい。昨日教官が職員室に呼び出されていたけど、たぶん、このことについて話したんだと思う」

「ねえ、教官にお守り的なのをプレゼントしない」

確かに、タンクは、パーティーの中でもとくに致死率が高い。お守り的なのがあったほうがいいだろう。

「じゃあ、防御力を高めるマジックアイテムとかはどうかな」



「いいねそれ、今度フェザンとグラムくんも誘って行こう」

こうして、俺たちは学校の近くにある、イセトリンク繁華街へ行くことになった。



さまざまな店が、ところ狭しと並び、通路が立体的に交差している。

ここはイセトリンク繁華街、俺たちはその中のマジックアイテムを扱う店に入った。

「いらっしゃいませ、学生さんですか」

奥から出たのは、ドワーフと思われる店員さんだ。

「はい、士官学校で勉強してます」

「おおそうですか。今日は何をお探しですか」

「タンク用のお守りです。実はお世話になった人が今度最前線に行くことになったので」

わかりましたと言って店員さんが取り出したのは、鳥の羽の形で、中央に目の彫刻がしてある魔石が埋め込まれているイヤリングだ。

「これは自分たちへの攻撃を察知し、おおよその方角が分かるアイテムです」

すごい、学校で簡単なマジックアイテムの作り方は習うけど、ここまで強力なのは初めて見る。

「じゃあこれにします」

「お買い上げ、ありがとうございます」

店員さんに贈り物用の包装をしてもらって外へ出る。

これで一番の目的は達成された。

「アルス、次どこ行く」

「そうだね、グラムくんは、どこか気になる店はあった」

「あそこはどうかな、あの武具屋」

そう言ってグラムくんが指したのは、繁華街の端の方にある、小さな店だった。

『高級木刀専門店』

店に並んだ商品を見てはっとする、ここは五年前に魔界での俺の保護者のエルセルトさんと、訓練用の剣を買いにきた所だ。

向こうで他のお客さんがタバコを取り出した。

「申し訳ありません、お客様、当店は火気厳禁で、高温を確認するとつまみ出される魔法がかかっています」

そういう魔法もあるのか。

「いらっしゃいませ、今日はどのようなご要件で」

「この訓練用のメイスの修理をしてほしいのですが」

グラムくんが店員さんに武器を差し出す。

「わかりました、ついでに耐熱加工もしましょうか」

グラムくんが、「する」と答えると、店員さんが、あと三日ほどでできると言った。


「僕の用事に付き合ってくれてありがとう。ほかに行きたい所はあるかい」

その後もあちこちの店を周り、昼過ぎになってきたころ。

「強盗だー」

強盗、見ると店の一つが強盗に占拠されていた。

「あそこは」

「私たちがさっきまでいた、『高級木刀専門店』」

あきらかに襲う店間違えている。あの店の店員さんは、全員が元武芸の師範、つまり、めちゃくちゃ強いってことだ。

「お前ら、憲兵なんて呼んだらどうなるかわかっているのか。この客の首が蒸発するぞ」

なるほど、お客さんを人質にしているのか。

「なあアルス、あいつ頭悪いねー」

「確かに、もしあいつの言うとうり、蒸発させるとしたら熱系の攻撃をするはず。だけどあそこは火気厳禁の魔法がかかっている。高温を出すと、つまみ出される」

「どうする、人質を解放するかい」

「そうだね、じゃあ作戦を考えようか」

そうして、俺の考えた作戦を三人に話した。俺たちはまだ学生、まともに戦ったら勝ち目は薄い。でも、戦闘を避けて人質を解放することはできるはず。



「その袋に金を詰めろ。はやくしろ」

怒り、焦り、悪意、物欲、その手のいろいろな感情で周りが見えていない。一言で言うと…とんだ阿呆だ。

「よし、いまだ」

グラムくんが強盗を後ろから締め上げる。

「なにをする、貴様」

そう言って強盗が熱放出魔法を唱える。

『高温を確認、高温を確認、対象を除去します』

魔法の腕が伸びて強盗をグラムくんごと店外に投げる。

外で待機していたフェザンにサインを送る。

フェザンの撃った矢が強盗の袖に当たり、壁に打ち付ける。

その間に、俺とヒエナで人質を解放して、憲兵に通報した。




「ありがとうございました、学生とは思えないみごとな作戦でした」

最寄りの憲兵隊の詰所で感謝状を受け取る。

「いえ、こちらこそ、軍人の卵として当然のことをしただけです」

「そうですか、ですが、危ないこともあるので、自分たちで解決する前に、憲兵隊に連絡してください」

確かに、少し無茶しちゃったな。

夕方、憲兵隊にもらった表彰状と、買ったマジックアイテムを持って学校に向かう。

そういえば、俺が育った人間界の村は、近くにこういう所はなかったから、友達と行くのは初めてだな。

「どうだった、イセトリンク繁華街」

そうグラムくんが言う。

いろいろあったけど、すごく楽しい一日だった。




























    
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