魔王軍に入隊した人間の叙事詩

片山康亮

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Ⅰ:士官学校篇

エテルニタ

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イーセル王国軍士官学校
ある日のことだった。俺たちの学年全員が広場に集められた。

「これから、パーティー決定を始めます。まずベスティア教官、説明をお願いします」

前に出てきたのは狼の頭の中年の軍人でひとしきり挨拶をしたあと説明を始めた。

「わがイーセル王国軍では、パーティー制度を導入している」

大型の獣人らしく低くよく通る声を発する。

「これは、つねに三~五人のパーティーで行動することで、戦場での連携を高め、非常時の対応がしやすくなることを目的としている。各自先ほど配布した紙をみろ。そこにパーティーメンバーの名前とパーティー名を記入して提出しろ。あと、このパーティーは正規軍になってからも続くため、慎重に決めろ」

パーティー決めか。士官学校では、四年生までの間に基礎を固め、それぞれの適性を見出す。基礎訓練にほとんどの時間を費やすのは、戦場でも最低限の動きをするためなのだとか。そして、五年生は戦技やパーティーなど、卒業後に関わることを決め、六年生は実戦訓練の数が増え、毎年数人は死亡事故が起きるのだとか。気をつけなくっちゃ。


俺がとりあえず広場を歩いているとフェザンとヒエナに出会った。

「アルス、俺とヒエナと組まないかー?俺が援護射撃、ヒエナが接近アタッカーで」

「そうだね組もう。あとパーティーについて少し調べて見るよ」

そう言って俺はいったん図書室へ向かった。

『~パーティー戦においての立ち回りのコツ~
R-K-ガルベルト
パーティーを組むときにおいてとくに大切なことはメンバーそれぞれの役割を意識することである。
例えば、敵が騎兵を率いていたとする。まず一番やってはいけないことは敵に恐れをいだき、防戦一方になってしまうことである。そうならないためには、優秀なタンクが必要だ。この役は重装歩兵が向いている。タンクが食い止めている間に接近アタッカーがダメージを与える。そのほかは前の二つを援護する。とくにヒーラーがいると味方を回復できるため、攻略が楽になる。また、パーティーに司令塔がいると作戦が上手くいきやすくなる。さあ、正しい編成でよりよいパーティーライフを。』

「これを見ると俺たちのパーティーにはタンクが足りないなー」

もう何組か結成しているのが見える。

「そうだね、まあ回復魔法は全員使えるし、だけど私たちは軽装甲だからタンクにはむかないからね」

俺だとむかないどころじゃない。こう考えると、魔界の軍隊で俺が生きていけるのか不安になる。人間という種族は、さしたる特殊な能力は無い。とくに、魔力と耐久力は、ほとんどの種族に劣る。パーティーでタンクなど論外だ。だから、同級生で何度も模擬戦をしたから分かる、防御の名士を二人に紹介した。



「それで、僕に頼みに来たわけか」

広場の端の方でグラムくんと落ち合った俺たちが頼むと、快く了解してくれた。

「じゃあ、これで結成だなー」

「そういえばパーティー名はどうするの」

あっ、そうだった。ヒエナの言うとうりパーティー名まで考えるのだった。

「それならいい名前があるよ。エテルニタって名前だ」

「それってどういう意味の言葉なのー、グラムくん?」

翼を持つ弓使いがいたずらっぽい目で聞く。

「昔のイーセル語で“永遠”という意味だ。語呂もいいしこれでどうかな」

「いいねそれ。じゃあさっそく記入しようよ」

『パーティー名:エテルニタ団

 メンバー:アルスカイト-ヴィべーリオ

 :フェザン-デ-ヘリファルテ

 :ヒエナ-ムラクモ-フェルグス

 :グラム-バルビュート』

「改めてよろしくなー、アルス。」

「うん。そうだ、記念に四人で写真撮ろう」

「いいね」

ちょうど通りかかった生徒にカメラを渡して撮ってもらう。

「いい写真だねー。よし、教官に紙を提出しに行こう」

広場の中心にいた教官に紙を渡す。すると教官が

「これで、エテルニタ団の結成を正式に決定する」

と俺たちのパーティーの結成を宣言した。

「改めてよろしくな、フェザン、グラムくん、ヒエナ」


 












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