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Ⅰ:士官学校篇
クロノード神殿
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『えー、グラム-バルビュートくん、グラム-バルビュートくん、至急職員室へ来なさい……』
「グラムが呼び出しくらうなんて珍しいね」
「いつも一人で訓練していたからな」
「なにかあったのでしょうか」
ある日の自由時間
同級生のグラム-バルビュートが呼び出しをうけた。彼はとくに問題を起こすタイプではない。むしろトラブルメーカーの生徒を取り締まる側である。
「そんなあいつが、いったいどうして」
「私もわからない。でも至急呼び出しされるということは、かなり大変なことじゃないかな」
フェザンとヒエナも首を傾げている。向こうから職員室から出たグラムが俺に手招きしている。
「ごめんアルス、ちょっと話がある」
なんだろう、すごく悲しそうな声だ。
「君は、人間との戦争についてどう思う」
「人間との戦争……俺は殺し合いはしたくない。それも、俺の親戚や友達がいるかもしれない軍とはなおさら」
「そうか、実はそれについてなんだけど、少し聞いてくれるかな。僕の父親、オルドール-バルビュートは、軍のダンジョン、クロノード神殿で騎兵部隊の指揮官をしていた。けど……」
「バルビュート様、人間の軍が攻めてきました」
「なぜ……まあいい。騎兵隊、総員戦闘準備。入口付近に敵の注意が向いているうちに敵の後方を撹乱する」
門の上から兵士たちが魔力を纏わせた矢をうち、突破を狙った人間を追い返す。
門の外では敵を食い止めるために壮絶な白兵戦が繰り広げられている。
「皆の者バルビュート様に遅れるな」
「敵将の首をあげて神殿を守れ」
騎乗していたペガサスを円を描くように走らせ、戦鎚を叩きつける。後ろからの魔法攻撃を飛翔して躱すとこちらの魔法で焼き払う。
「オグドール-バルビュート、覚悟」
「ギェェ」
敵の矢がペガサスに命中して落馬する。
「戦技、『破城槌』」
技を放って前方の敵を吹き飛ばす。
馬を失ったのがいけなかったか。
耳につけた通信機から声が聞こえる。
『バルビュート隊長、こちら第八小隊のギルトヴァールです。第五小隊全滅しました。われわれもあと数人を残してあとは…ぐはぁ!』
ギルトヴァールも殺られたか。さらにこちらも……。
気づいたら後ろにいたはずの部下が一人もいなくなっている。
そのうえ、二十人以上の敵に囲まれている。なら、範囲魔法で、
「アクアサギッタ」
これで敵は空から降り注ぐ水の矢でまとめて貫かれるはず。
しかし現実は簡単に予想を裏切った。水の矢がいとも容易く砕け散ってしまう。
「馬鹿め、足元をよく見ろ」
そう言われて下を見ると、巨大な魔法陣になっていた。
「この魔法陣の中では貴様らモンスターの魔力が五分の一になる。お前ら、このダンジョンのモンスターを一匹も逃がすな」
「やめろ、あの中には非戦闘員も多くいる」
「黙れ、弱者を生かすも殺すも勝者の自由だ」
「そうはさせない」
「はぁ?何をいまさら」
「いまさらではない。これが、俺の騎士道だ。戦技、『死の防壁』……」
「……父さんが最後に使った技、死の防壁は自分を犠牲にして強力な結界をはる技だ。」
「ということは…。」
「そう、さっき僕が呼ばれた理由、父さんが戦死したということを伝えられたんだ。父さんや僕の種族、鎧兵は、戦うために生きる動く武具。そして、戦いに負けると塵になる。先生たちも、遺品を回収するのがやっとだって。」
「グラムくん……」
「父さんがいつも言ってた言葉、『俺の騎士道』と。アルス、僕と模擬戦をしてくれ。父さんを斃した人間がどんなものか、その剣で教えてくれ。君の騎士道を」
そう言ってメイスを構える。
「うん、分かった……始め」
武器に異なる色の炎が纏わる。横からの打撃を剣の腹で受け止めた。続く足払い、上段回し蹴り。二連の足技を躱し、剣を振り下ろす。鍔迫り合い。背後を取り、首元を狙う。盾で防がれた。
鎧兵と人間の違い、それは、圧倒的な耐久力の違いだ。普通の人間なら数発で死亡する攻撃を、三十発以上も耐えた例がある。その上、今のグラムくんは盾で武装している。
「普通の攻撃じゃダメージは無理か」
訓練場の柱を蹴って飛び上がる。下から撃たれた魔法を弾き、重力を利用して剣を叩きつける。これなら、切断攻撃の効きにくい鎧兵にも衝撃でダメージを与えられるはず……。
「躱された」
剣は空を切る。そのままグラムくんの立っていた所に突き刺さる。上からメイスの打撃。
「させない」
前転で躱す。ふたたび背後を取り、兜に一撃。
「これが、俺の騎士道だよ。グラムくん」
「すごいな、アルスは。魔法も打撃も全部見切られているみたいだったよ」
訓練場の隅のベンチに座ったグラムくんが、盾を磨きながら言う。
「ところでアルスはどうして士官学校に入ったの?」
「俺が人間だということは知っているよね。なんで魔界にいるかというと、もといた村が山賊に焼かれて、逃げてきた先がここだったんだ」
「そうなんだ……アルスの剣は、迷いがなかった。僕の攻撃も、魔法も、わかりきったみたいだった」
「いや、この間の授業の模擬戦。俺の部隊はみごとに分断されたよ」
「あれは……僕の班に用兵学を専攻している人がいて、その人が考えた作戦なんだ」
「グラムくんは、どんな戦法が得意なの?」
「僕は、父さんに教わった盾の扱い方を活かせる、防壁としての戦法がよくやるね」
「グラムが呼び出しくらうなんて珍しいね」
「いつも一人で訓練していたからな」
「なにかあったのでしょうか」
ある日の自由時間
同級生のグラム-バルビュートが呼び出しをうけた。彼はとくに問題を起こすタイプではない。むしろトラブルメーカーの生徒を取り締まる側である。
「そんなあいつが、いったいどうして」
「私もわからない。でも至急呼び出しされるということは、かなり大変なことじゃないかな」
フェザンとヒエナも首を傾げている。向こうから職員室から出たグラムが俺に手招きしている。
「ごめんアルス、ちょっと話がある」
なんだろう、すごく悲しそうな声だ。
「君は、人間との戦争についてどう思う」
「人間との戦争……俺は殺し合いはしたくない。それも、俺の親戚や友達がいるかもしれない軍とはなおさら」
「そうか、実はそれについてなんだけど、少し聞いてくれるかな。僕の父親、オルドール-バルビュートは、軍のダンジョン、クロノード神殿で騎兵部隊の指揮官をしていた。けど……」
「バルビュート様、人間の軍が攻めてきました」
「なぜ……まあいい。騎兵隊、総員戦闘準備。入口付近に敵の注意が向いているうちに敵の後方を撹乱する」
門の上から兵士たちが魔力を纏わせた矢をうち、突破を狙った人間を追い返す。
門の外では敵を食い止めるために壮絶な白兵戦が繰り広げられている。
「皆の者バルビュート様に遅れるな」
「敵将の首をあげて神殿を守れ」
騎乗していたペガサスを円を描くように走らせ、戦鎚を叩きつける。後ろからの魔法攻撃を飛翔して躱すとこちらの魔法で焼き払う。
「オグドール-バルビュート、覚悟」
「ギェェ」
敵の矢がペガサスに命中して落馬する。
「戦技、『破城槌』」
技を放って前方の敵を吹き飛ばす。
馬を失ったのがいけなかったか。
耳につけた通信機から声が聞こえる。
『バルビュート隊長、こちら第八小隊のギルトヴァールです。第五小隊全滅しました。われわれもあと数人を残してあとは…ぐはぁ!』
ギルトヴァールも殺られたか。さらにこちらも……。
気づいたら後ろにいたはずの部下が一人もいなくなっている。
そのうえ、二十人以上の敵に囲まれている。なら、範囲魔法で、
「アクアサギッタ」
これで敵は空から降り注ぐ水の矢でまとめて貫かれるはず。
しかし現実は簡単に予想を裏切った。水の矢がいとも容易く砕け散ってしまう。
「馬鹿め、足元をよく見ろ」
そう言われて下を見ると、巨大な魔法陣になっていた。
「この魔法陣の中では貴様らモンスターの魔力が五分の一になる。お前ら、このダンジョンのモンスターを一匹も逃がすな」
「やめろ、あの中には非戦闘員も多くいる」
「黙れ、弱者を生かすも殺すも勝者の自由だ」
「そうはさせない」
「はぁ?何をいまさら」
「いまさらではない。これが、俺の騎士道だ。戦技、『死の防壁』……」
「……父さんが最後に使った技、死の防壁は自分を犠牲にして強力な結界をはる技だ。」
「ということは…。」
「そう、さっき僕が呼ばれた理由、父さんが戦死したということを伝えられたんだ。父さんや僕の種族、鎧兵は、戦うために生きる動く武具。そして、戦いに負けると塵になる。先生たちも、遺品を回収するのがやっとだって。」
「グラムくん……」
「父さんがいつも言ってた言葉、『俺の騎士道』と。アルス、僕と模擬戦をしてくれ。父さんを斃した人間がどんなものか、その剣で教えてくれ。君の騎士道を」
そう言ってメイスを構える。
「うん、分かった……始め」
武器に異なる色の炎が纏わる。横からの打撃を剣の腹で受け止めた。続く足払い、上段回し蹴り。二連の足技を躱し、剣を振り下ろす。鍔迫り合い。背後を取り、首元を狙う。盾で防がれた。
鎧兵と人間の違い、それは、圧倒的な耐久力の違いだ。普通の人間なら数発で死亡する攻撃を、三十発以上も耐えた例がある。その上、今のグラムくんは盾で武装している。
「普通の攻撃じゃダメージは無理か」
訓練場の柱を蹴って飛び上がる。下から撃たれた魔法を弾き、重力を利用して剣を叩きつける。これなら、切断攻撃の効きにくい鎧兵にも衝撃でダメージを与えられるはず……。
「躱された」
剣は空を切る。そのままグラムくんの立っていた所に突き刺さる。上からメイスの打撃。
「させない」
前転で躱す。ふたたび背後を取り、兜に一撃。
「これが、俺の騎士道だよ。グラムくん」
「すごいな、アルスは。魔法も打撃も全部見切られているみたいだったよ」
訓練場の隅のベンチに座ったグラムくんが、盾を磨きながら言う。
「ところでアルスはどうして士官学校に入ったの?」
「俺が人間だということは知っているよね。なんで魔界にいるかというと、もといた村が山賊に焼かれて、逃げてきた先がここだったんだ」
「そうなんだ……アルスの剣は、迷いがなかった。僕の攻撃も、魔法も、わかりきったみたいだった」
「いや、この間の授業の模擬戦。俺の部隊はみごとに分断されたよ」
「あれは……僕の班に用兵学を専攻している人がいて、その人が考えた作戦なんだ」
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