貧乏少女と王子様

秋風からこ

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本編

本編10

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「ルークが王子様……?」

 リズは落ち着いてから、先ほど告げられた驚愕の事実を確認する。
 するとルークは申し訳なさそうに「ごめん、リズ」と言って、きゅっと手を握ってくる。

「最初は興味本位で王立図書館に行ったんだ。そこでリズを見つけた。いつ行っても一生懸命仕事をしていて、人が側を通るとわざわざ手を止めて挨拶をして、可愛いと思ったんだ。リズがバケツの水を溢したのだってラッキーだと思った。」

 ルークはリズの手をさすり、目を見て語り出した。

「名前を名乗る時に咄嗟に嘘をついたのは、僕の身分を知ったらリズが態度を変えてしまうんじゃないかと不安だったからなんだ。だからもっと仲良くなってから本当の事を伝えようと思ってたんだけど……、遅くなってごめん。」

「本当に本当にびっくりした……。でも、私なんかが、王子様と結婚してもいいの?私、孤児なの。知っての通り、貧乏だし、美人でもないし、スタイルだって……。」

 リズは改めて自分のことを考えると、ルークに見合うようなところが見つからず、悲しい気持ちになって俯く。

「リズがいいんだ。身分とか家柄は関係ない。それに、リズはすっごく可愛い……!」

 そんなリズをルークはふわりと抱きしめると、耳元でそう囁いた。
 リズがあまりの嬉しさで涙をぽろりと溢すと、ルークはそれを舌で掬い目元にキスをする。

「それに、昨夜ので赤ちゃんができてるかもしれないしね。」

 ルークが少し意地悪な顔で言うと、リズはぼっと顔を赤くする。


「コホン」

「エエエエエエエエ、エマさん!!」

 エマのわざとらしい咳払いでまだ部屋にエマが居たことを思い出して、更にリズの顔が熱くなる。

「殿下、リズ様、朝食が冷めてしまいますわ。」

 リズとルークは席に着き、朝食をとり始めた。



 それからは目まぐるしく日々が過ぎていった。
 リズはすぐに王宮へ引っ越し、仕事をやめた。リズは続けたかったが、王家へ嫁ぐにあたり学ばなければならないことがたくさんあったし、嫁いだ後も王族としての公務で忙しいということだった。
 図書館で働いていた同僚たちはリズが結婚するために辞めると言うと、皆祝福してくれた。「お相手は?」と聞かれたが、「よくここに来ていた人」とだけ答えた。



 そして晴天のある日、リーンゴーンリーンゴーンと大聖堂の祝いの鐘が鳴り響いた。
 今日は王子様の結婚式。街は祝福ムードに包まれていた。
 様々な露店が立ち並び、広場では楽器の演奏や、踊り子たちによるショーがさらに街を賑わせている。
 そんな中、一つの芝居が一際注目を集めていた。劇の内容は王子様と結婚相手の女性との馴れ初め話。
 貧乏な女の子が一生懸命働いているところを王子様に見初められ、恋に落ちるという内容だった。芝居を観た人達は夢のようなお話にうっとりと顔を綻ばせた。



「リズ、緊張してる?」

「う、うん。だってこんなに大勢の人に見られるなんてことないもの!」

「これからはたくさんあるから、慣れないとね。」

 式が終わり、ルーク改めルイとリズは民衆へのお披露目のために、王宮二階のバルコニーの前に立っていた。
 王宮の庭園には国中の人々が、新たな門出を迎えた二人を一目見ようと集まっている。
 リズは緊張と不安で小さく震えていた。

「僕が緊張を解くおまじないをしてあげようか?」

「うん、お願い……!」

 リズが答えるや否や、ルイがリズにキスをする。

「え、はぅ、うう、んんんんん!!」

 キスだけと思いきや、唇を割り開き、舌を絡められて激しく貪られる。
 リズは必死に抵抗するが、ルイに敵うはずもなく、キスが終わった頃には息も絶え絶えになっていた。

「はぁ、はぁ、はぁ……。」

「どう?緊張解けたでしょ?」

 意地悪気な顔で微笑むルイをリズはキッと睨んで、「ひどい!」とルイをぽかぽか叩く。

「でもほら、震えがおさまってるよ?」

「ほ、本当だ……。」

 やり方は荒々しかったが、どうやらリズの緊張は緩和されたらしい。

「ありがとう……。」

「じゃあこれからも毎回してあげるからね。」 

「え、遠慮します……!」

 そんな仲睦まじいやりとりをしている二人にエマが声をかける。

「さあ、お二人とも、間も無く扉を開けますよ」

「「はい!」」

そして二人は大観衆の前へ出て行った。


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