貧乏少女と王子様

秋風からこ

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本編

本編3

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 そしてあっという間にひと月が経ち、舞踏会の日になった。
 今日は仕事は休みだが、いつもの通り早く起きたリズは簡単に身支度を整え、食材を買うために市場へ向かっていた。 

 舞踏会に行くつもりはなかった。
 結局ルークとはあの日以来会うことはなかったし、彼はリズの家の場所さえ知らないから、ドレスを見繕うという話はリズを励ますためのお世辞だったのだと思うことにしたのだ。

 市場へ行く途中にある美容院やブティックを横目で見ると、同じ年頃の娘たちが今夜の舞踏会のために着飾っていた。
 少し羨ましいなと思う。
 舞踏会にはあまり興味はないが、綺麗な格好をして、ルークに見せたい。いつものボロボロの服じゃなくて。そしたらもしかして……、と甘い想像を膨らませながら歩いていると、見知った顔に出会った。

「あらリズ、久しぶりじゃない!」

「デジー……、久しぶり。」

 このデジーという見目麗しい少女は施設で数年間一緒に育ったのだが、十二歳のときにお金持ちのお屋敷へ引き取られていったのだ。
 美しいブロンドの髪に碧色の大きい瞳、すらっとした体躯は人目を惹きつけるが、リズはデジーが少し苦手だった。

「リズ、相変わらずみすぼらしい格好をしているのね。その服では舞踏会には行けないわよ。ま、あなたが行ったところで王子様の目にとまるはずもないから無駄でしょうけどね。」

 相変わらずだ、とリズは思った。
 デジーは昔からリズを見るたびに意地悪なことを言ってくるのだ。
 言い返すのも面倒だし、自分がみすぼらしいのも、舞踏会へ行かないのも本当のことなのでリズは黙っていた。

「ふん、そういうところも相変わらずね。それじゃあね、リズ。王宮に住み始めたらもう会うこともないでしょうけど。」

 まるで自分が王子様に見初められるのが当然かのようなデジーの発言にリズは少し呆れながらも、彼女くらい美しければあり得なくもないと思った。

(きっとルークも私のような地味で静かな人より、ああいう派手な人が好きね…。)

 舞踏会に興味がないのは本当だが、着飾った同年代の少女たちを見ると胸がモヤモヤする。普段貧乏暮らしを苦にも思っていなかったはずなのに……。

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