貧乏少女と王子様

秋風からこ

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本編

本編1

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 ーリーンゴーンリーンゴーン

 すがすがしい晴天の空の中、大聖堂の鐘の音が街中に響き渡る。この鐘は王室に祝い事がある時にだけ鳴らされるものだ。

(今日はなんの日なんだっけ……。)

 リズは床を磨きながら考え込んだ。

 リズは王立図書館の清掃員として勤務している。まだ16歳と働くには少し早い年齢ではあったが、幼いうちに父母を亡くし、施設に引き取られた彼女は去年から自立し、慎ましやかに生活していた。
 まわりにはそんなリズを哀れむ人もいたが、リズはこの自由気ままな生活が案外気に入っているし、貧乏ながらも食べるのに困ったことはなかった。

 いつものように書棚のホコリを取り、床の掃除にうつろうとしたところでふと思い出す。

(さっきの鐘の音、今日は王子様のお誕生日ね。)

 この国の国王には子どもが二人いた。一人は今日がお誕生日のルイ王子、もう一人はその妹のカトリーヌ王女。王子は今日で十八歳になる。
 成人の儀を済ませるまでは王族は公には出てこないが、巷ではルイ王子は大変見目麗しいという噂だ。そんな王子のハートを誰が射止めるのかがここ最近の王国中の関心事となっていた。


 リズが図書館での勤務を終えて小さな我が家に帰ると一通の手紙が届いていた。封蝋には王家の紋章が押してあり、リズはそれで中身の察しがついた。
 舞踏会の招待状だ。

 この国では王子が十八になった一ヶ月後に成人の儀が執り行われ、その夜舞踏会が行われる。舞踏会には国中の年頃の娘たちが集められ、王子が結婚相手を選ぶのだ。

 普通の娘たちには心踊るイベントだが、リズは気が重かった。なぜならドレスを買う余裕も、伸び放題伸びた髪の毛を整える余裕もなかったから。
 こんなときに己の貧乏暮らしが少し辛くなる。

(諦めるしかないのかな……)

 リズは残念に思いながらも舞踏会への参加を半ば諦めていた。


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