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番外編
番外編1
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ルイ王子とリズの婚約を聞き、デジーは怒りに震えていた。
そもそもあのみすぼらしくて地味な娘が舞踏会に来ているのにも腹が立った。しかもどんな魔法を使ったのか、とびきり上等なドレスを着て。
デジーの取り巻きの平民の娘に金を渡し、舞踏会の場でワインをかけさせ、ドレスをだめにしたにもかかわらず、王子と婚約?
これはどういうことなのか。自分は王子とダンスさえ踊れなかったというのに。
そう、自分にはチャンスがなかったのだ。王子の目にとまりさえすれば、リズではなく、自分が選ばれていただろう。
そう考えて、デジーはニヤリと笑った。
まだまだ二人は婚約期間。自分の方が美しいとわかれば、王子の心変わりもあり得るだろう。
それに、リズは何の後ろ盾もない貧乏人だが、自分は貴族の養女。
全てにおいて自分の方が勝っている。デジーはそのことを疑いもしなかった。
***
ある王宮主催の舞踏会の日、デジーはとびきり美しく着飾っていた。
自慢のブロンドの髪を複雑な形に結いあげ、お義父様にねだって買ってもらった流行りのデザイナーのドレスを身にまとう。真っ赤なそれは胸元が大きく開いており、デジーの妖艶な雰囲気を際立たせていた。
舞踏会が始まると、次から次へと年頃の男性からダンスに誘われ、デジーは自信をより一層強くした。
そう、これが当然の反応。王子も例に漏れず、デジーの虜になるだろう。
王子は基本的にリズと一緒にいるが、もちろん二人が離れる時もある。そんなタイミングを見計らって、デジーは王子にすり寄った。
「本日はお招きいただきありがとうございました。セドリック・アンテュセールの娘のデジーと申します。私、リズとは同じ孤児院で育ったお友達ですの。」
「ああ、君のことは知っているよ。孤児院時代にリズが大変お世話になったとか。まさかこんなに美しいご令嬢だとは思っていなかったよ。」
デジーは王子に美しいと褒められ、輝くような笑顔で見つめられて、舞い上がった。
が、それは一瞬のことだった。
「君には感謝しているよ。君のお友達がリズを突き飛ばしてワインをかけなかったら、僕たちが結ばれるのにはもう少し時間がかかっていたかもしれないからね。」
「え……」
デジーは一瞬王子が何を言っているのか理解することができなかった。
「ひ、悲惨な事故でしたわね。私もすぐに助けに行こうと思ったのですが、殿下のほうがお早く……。」
慌てて取り繕うが、先ほどまで優しさに溢れていた王子の目は、真冬の吹雪ほど冷たくなっていた。
「いいよ、誤魔化さなくても。調べはついんているんだ。それに、孤児院でも色々とリズの面倒を見てくれたんだろ?食事に腹を下す草を混ぜたり、着ているものを隠したり。真冬にリズがお使いに出ている間に孤児院の鍵を閉めきったこともあるんだって?リズはその時の後遺症で、今でも寒いところに行くと足が痛むんだよ。」
「な……!全部、全部デタラメだわ!リズが私に嫉妬して、有る事無い事吹き込んだのよ!」
デジーはわなわな震えていた。王子への恐れ、自分の所業を王子に告げ口したであろうリズへの怒りでわけがわからなくなった。
「リズの名誉のために言っておくが、彼女から聞いたわけではない。それどころか、リズは孤児院での嫌がらせを君の仕業だと気づいてもいないだろう。あの舞踏会の時、たまたまぶつかったにしては不自然なことが多かったから、君のお友達に聞いてみたんだ。罪には問わないと言って、お金を少し握らせたらすぐに話してくれたよ。」
デジーの顔はもはや蒼白になっていた。王子には全てばれている。これまで自分がリズにしてきた嫌がらせの数々が。
「きっとリズは大事にしたがらないだろうし、さっきも言った通り、あの舞踏会の一件で僕たちが親密になったことには少し感謝もしている。今後一生僕たちの前に顔を見せないと誓えば、今までのことには目を瞑ろう。わかったならとっとと姿を消せ。」
デジーは震える足を叱咤しながら、なんとか王子の御前から立ち去り、そのまま急いで自分の家の馬車に乗り込んだ。
そしてそれを最後に、デジーは王宮に来ることは一度もなかった。それどころか、社交界からも姿を消したのだった。
そもそもあのみすぼらしくて地味な娘が舞踏会に来ているのにも腹が立った。しかもどんな魔法を使ったのか、とびきり上等なドレスを着て。
デジーの取り巻きの平民の娘に金を渡し、舞踏会の場でワインをかけさせ、ドレスをだめにしたにもかかわらず、王子と婚約?
これはどういうことなのか。自分は王子とダンスさえ踊れなかったというのに。
そう、自分にはチャンスがなかったのだ。王子の目にとまりさえすれば、リズではなく、自分が選ばれていただろう。
そう考えて、デジーはニヤリと笑った。
まだまだ二人は婚約期間。自分の方が美しいとわかれば、王子の心変わりもあり得るだろう。
それに、リズは何の後ろ盾もない貧乏人だが、自分は貴族の養女。
全てにおいて自分の方が勝っている。デジーはそのことを疑いもしなかった。
***
ある王宮主催の舞踏会の日、デジーはとびきり美しく着飾っていた。
自慢のブロンドの髪を複雑な形に結いあげ、お義父様にねだって買ってもらった流行りのデザイナーのドレスを身にまとう。真っ赤なそれは胸元が大きく開いており、デジーの妖艶な雰囲気を際立たせていた。
舞踏会が始まると、次から次へと年頃の男性からダンスに誘われ、デジーは自信をより一層強くした。
そう、これが当然の反応。王子も例に漏れず、デジーの虜になるだろう。
王子は基本的にリズと一緒にいるが、もちろん二人が離れる時もある。そんなタイミングを見計らって、デジーは王子にすり寄った。
「本日はお招きいただきありがとうございました。セドリック・アンテュセールの娘のデジーと申します。私、リズとは同じ孤児院で育ったお友達ですの。」
「ああ、君のことは知っているよ。孤児院時代にリズが大変お世話になったとか。まさかこんなに美しいご令嬢だとは思っていなかったよ。」
デジーは王子に美しいと褒められ、輝くような笑顔で見つめられて、舞い上がった。
が、それは一瞬のことだった。
「君には感謝しているよ。君のお友達がリズを突き飛ばしてワインをかけなかったら、僕たちが結ばれるのにはもう少し時間がかかっていたかもしれないからね。」
「え……」
デジーは一瞬王子が何を言っているのか理解することができなかった。
「ひ、悲惨な事故でしたわね。私もすぐに助けに行こうと思ったのですが、殿下のほうがお早く……。」
慌てて取り繕うが、先ほどまで優しさに溢れていた王子の目は、真冬の吹雪ほど冷たくなっていた。
「いいよ、誤魔化さなくても。調べはついんているんだ。それに、孤児院でも色々とリズの面倒を見てくれたんだろ?食事に腹を下す草を混ぜたり、着ているものを隠したり。真冬にリズがお使いに出ている間に孤児院の鍵を閉めきったこともあるんだって?リズはその時の後遺症で、今でも寒いところに行くと足が痛むんだよ。」
「な……!全部、全部デタラメだわ!リズが私に嫉妬して、有る事無い事吹き込んだのよ!」
デジーはわなわな震えていた。王子への恐れ、自分の所業を王子に告げ口したであろうリズへの怒りでわけがわからなくなった。
「リズの名誉のために言っておくが、彼女から聞いたわけではない。それどころか、リズは孤児院での嫌がらせを君の仕業だと気づいてもいないだろう。あの舞踏会の時、たまたまぶつかったにしては不自然なことが多かったから、君のお友達に聞いてみたんだ。罪には問わないと言って、お金を少し握らせたらすぐに話してくれたよ。」
デジーの顔はもはや蒼白になっていた。王子には全てばれている。これまで自分がリズにしてきた嫌がらせの数々が。
「きっとリズは大事にしたがらないだろうし、さっきも言った通り、あの舞踏会の一件で僕たちが親密になったことには少し感謝もしている。今後一生僕たちの前に顔を見せないと誓えば、今までのことには目を瞑ろう。わかったならとっとと姿を消せ。」
デジーは震える足を叱咤しながら、なんとか王子の御前から立ち去り、そのまま急いで自分の家の馬車に乗り込んだ。
そしてそれを最後に、デジーは王宮に来ることは一度もなかった。それどころか、社交界からも姿を消したのだった。
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