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135:自尊心と迷いと新たな実験(サリー視点)

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 二学期末の学園、赤薔薇寮の談話室で、サリーは不安な気持ちを抱えていた。
 魔法インターンから帰って数日、アメリーとカマルが魔物退治で功績をあげ、分校長に表彰されたことを知った。
 エメランディア新聞も、魔法都市新聞も、その話題で持ちきりだ。
 
「なんてことなの」
 
 サリーが応急医務官として、「聖女様~」とチヤホヤされている間に、アメリーがまた手柄をあげたなんて!
 これでは自分の立つ瀬がない。自尊心はズタズタだ。
 
「でも……」

 インターン中に王立研究所の職員がサリーに接触を図ってきた。
 父の部下で、母と共に商会を切り盛りしていた人物だ。
 しかし、彼はメルヴィーン商会の悪事が明るみに出た途端、母やサリーを見捨てて逃げた。
 どこに行ったのかと思ったら、王立研究所の上級職員として好待遇を受けていたらしい。

(私は大変な思いをしたというのに)
 
 ちょっとどころではなく、腹が立つ。
 実験を行っていたのは大人たちなのに、被験者のサリーまで微妙な立場になった。サリーは被験者に選ばれたものの、実験について深く知っているわけではない。
 乗り気だったのは母のドリーで、サリーは言われるがまま父に従っただけ。
 薬を飲んだり、注射を打ったりしただけだ。
 おかげで、「聖女様」とチヤホヤされるような、特殊な魔法の力を得たし、ヨーカー魔法学園に特別枠で入ることもできたのだ。
 
 インターン先で出会った職員は、「また実験を受ける気はないか」とサリーに尋ねた。
 そのときは突っぱねたけれど……

「被験者になったら、アメリーより活躍できる……かも?」

 サリーの心に迷いが沸き起こる。
 失敗作のアメリーのくせに、あれだけの活躍をするのだ。
 成功作のサリーなら、もっとずっと、すごい力を手に入れられるに決まっている。 
 
(そういえば、彼はお母様の体調が優れないとも言っていたわ。とはいえ、親子の接触は禁止だから、私にはどうすることもできないけど)
 
 母が幽閉されたのは監視の厳しい牢屋の中で、外部から侵入するなんて不可能な場所。
 魔法を使ったところで、どうにもならない。

(というか、お母様の体調を知っているなんて、あの研究員は面会を許されたのかしら? それとも、人づてに聞いたのかしら?)

 悩んでも、サリーの情報量が増えるわけでもない。
 どうしようかと考えを巡らせていると、後ろから声がかかった。

「大丈夫かい、サリー? 浮かない顔をしているけれど」
「あ、アーサー様」
 
 振り返ると、麗しい外見の貴公子が優しげな眼差しでサリーを見つめていた。
 でも、サリーは知っている。「優しげ」なのは、表面上のことだけだと。
 貴族的なアーサーは、割とシビアな人間だ。特に、サリーのような平民に対しては。
 
 アーサーが自分を優遇してくれるのは、ひとえにサリーの能力故。
 他の赤薔薇寮生も、寮長の行動を見て彼に倣う。
 アーサーが手のひらを返せば、サリーの環境は地獄に変わるだろう。かつてのアメリーのように。
 多少はマシだろうけれど、どちらにせよアメリーと比べられ続けるのは嫌だ。

(このままでは、そろそろ後がないかも。最近のアーサー様は、アメリーのことばかり聞いてくるし。権力で周りの貴族を動かして、あの女を取り込もうと動いているし)

 決意を固めたサリーは、今後の方針を決めた。
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