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133:水源と雪原と意外な繋がり
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「名乗り遅れたけど、俺はローリー・オールブライツという。気軽にローリーと呼んでくれ」
ローリーさんの言葉には、カマルが応える。
「僕はカマル・マラキーア、彼女はアメリー・リシェニ」
ハリールさんの養女になって名字が変わったものの、学園ではややこしいので、入学した当初のアメリー・メルヴィーンで通している。
けれど……カマルは新しい姓のほうで名乗ってしまった。
(うっかりしていたのかな?)
それにしても、学園の生徒が洞窟で野宿の準備をするなんてびっくりだ。
「ローリーさんは、ここで暮らしているのですか?」
「まあな。普段は冒険者モドキをして生きている。ギルドの仕事は、他人の役に立っていると実感できるから好きなんだ」
「学園には……?」
「昨年の二学期から一度も帰っていないな。黒撫子寮の奴らは気のいい人間ばかりなんだが、それ以外が面倒で会いたくないんだよ」
貴族で黒撫子寮に入ったことといい、外で冒険者をしていることといい、不思議な人だ。
話を聞いていると、カマルがやや固めの声でローリーさんに問いかける。
「赤薔薇寮の三年生、アーサー・オールブライツとあなたは、何か関係があるの?」
カマルの言葉の意味を理解し、私はギョッとした。
(そうだ、赤薔薇寮長もオールブライツだった!)
誰かに似ていると思ったら、公爵令息のアーサーと同じ名字。髪の色も一緒。
しかし、かたや優等生の寮長、かたや野宿とは……何がどうなっているのだろうか。
二人の雰囲気が違いすぎて、兄弟だと気づけなかった。
私の迷いに答えるように、ローリーが口を開く。
「アーサーは、実の兄なんだ。不本意だがな」
けれど、ローリーの言い方からすると、あまり仲良くはなさそうだ。
「あいつとは、ありえないくらい気が合わない。兄は公爵家の考えに染まり、いろいろと俺に価値観を押しつけてくる……だから、入学時に家族の反対を押し切って、赤薔薇寮ではなく、黒撫子寮を選んでやった。にもかかわらず、その後もあいつはことあるごとに黒撫子寮に迷惑をかけて、いたたまれなくなった俺は旅に出た。そして、今に至る」
冒険者になるまでにも、紆余曲折があったらしい。
「将来的には、兄が政治系で俺が軍事系に進む予定だった。これも家の決まり事だ。冒険者なら実戦経験が積めるから文句ないだろ……と思ったんだ。でも、今となっては家に戻るのも癪で、このまま冒険者として生きるのもいいかもしれないと考え始めた」
ローリーは野宿生活を満喫しているようだった。
「アーサーたちには、俺がここにいたことは内緒にして欲しい。誰にも会わないと思ったのにな……まさか、学生の間に『根』どころか『葉』のランクまで取ってしまう奴がいるとは、予想外だったよ」
「わかりました、言いません」
「それから、寮長によろしくと伝えておいて。そのうち、一度寮に顔を出すよ」
私とカマルは困惑しながら頷いた。
とりあえず、ローリーさんは『シララ水源』のどこかにいるということだろう。
思いがけない場所で発見した先輩に手を振って別れる。
続いて、私とカマルは『ミピ雪原』を目指した。
一度、転移陣で四階へ戻り、白い扉を開いて中へ入る。
しかし……外は吹雪だった。
「ひぇぇ、寒いっ」
「これはすごいね。一面銀世界だ……標高が高い山の上って感じかな。今日は厚着じゃないし、あまり遠くへ行かないようにしよう」
私カマルは、転移陣に近い辺りを散策したけれど、途中で断念して元来た道を引き返す。
ギルドに戻ったときには、二人ともガタガタと震えていた。
「……しばらくは、『シララ水源』でバイトしようかな」
「……そうだね」
雪国に耐性のない二人にとって、初めての『ミピ雪原』は厳しかった。
ローリーさんの言葉には、カマルが応える。
「僕はカマル・マラキーア、彼女はアメリー・リシェニ」
ハリールさんの養女になって名字が変わったものの、学園ではややこしいので、入学した当初のアメリー・メルヴィーンで通している。
けれど……カマルは新しい姓のほうで名乗ってしまった。
(うっかりしていたのかな?)
それにしても、学園の生徒が洞窟で野宿の準備をするなんてびっくりだ。
「ローリーさんは、ここで暮らしているのですか?」
「まあな。普段は冒険者モドキをして生きている。ギルドの仕事は、他人の役に立っていると実感できるから好きなんだ」
「学園には……?」
「昨年の二学期から一度も帰っていないな。黒撫子寮の奴らは気のいい人間ばかりなんだが、それ以外が面倒で会いたくないんだよ」
貴族で黒撫子寮に入ったことといい、外で冒険者をしていることといい、不思議な人だ。
話を聞いていると、カマルがやや固めの声でローリーさんに問いかける。
「赤薔薇寮の三年生、アーサー・オールブライツとあなたは、何か関係があるの?」
カマルの言葉の意味を理解し、私はギョッとした。
(そうだ、赤薔薇寮長もオールブライツだった!)
誰かに似ていると思ったら、公爵令息のアーサーと同じ名字。髪の色も一緒。
しかし、かたや優等生の寮長、かたや野宿とは……何がどうなっているのだろうか。
二人の雰囲気が違いすぎて、兄弟だと気づけなかった。
私の迷いに答えるように、ローリーが口を開く。
「アーサーは、実の兄なんだ。不本意だがな」
けれど、ローリーの言い方からすると、あまり仲良くはなさそうだ。
「あいつとは、ありえないくらい気が合わない。兄は公爵家の考えに染まり、いろいろと俺に価値観を押しつけてくる……だから、入学時に家族の反対を押し切って、赤薔薇寮ではなく、黒撫子寮を選んでやった。にもかかわらず、その後もあいつはことあるごとに黒撫子寮に迷惑をかけて、いたたまれなくなった俺は旅に出た。そして、今に至る」
冒険者になるまでにも、紆余曲折があったらしい。
「将来的には、兄が政治系で俺が軍事系に進む予定だった。これも家の決まり事だ。冒険者なら実戦経験が積めるから文句ないだろ……と思ったんだ。でも、今となっては家に戻るのも癪で、このまま冒険者として生きるのもいいかもしれないと考え始めた」
ローリーは野宿生活を満喫しているようだった。
「アーサーたちには、俺がここにいたことは内緒にして欲しい。誰にも会わないと思ったのにな……まさか、学生の間に『根』どころか『葉』のランクまで取ってしまう奴がいるとは、予想外だったよ」
「わかりました、言いません」
「それから、寮長によろしくと伝えておいて。そのうち、一度寮に顔を出すよ」
私とカマルは困惑しながら頷いた。
とりあえず、ローリーさんは『シララ水源』のどこかにいるということだろう。
思いがけない場所で発見した先輩に手を振って別れる。
続いて、私とカマルは『ミピ雪原』を目指した。
一度、転移陣で四階へ戻り、白い扉を開いて中へ入る。
しかし……外は吹雪だった。
「ひぇぇ、寒いっ」
「これはすごいね。一面銀世界だ……標高が高い山の上って感じかな。今日は厚着じゃないし、あまり遠くへ行かないようにしよう」
私カマルは、転移陣に近い辺りを散策したけれど、途中で断念して元来た道を引き返す。
ギルドに戻ったときには、二人ともガタガタと震えていた。
「……しばらくは、『シララ水源』でバイトしようかな」
「……そうだね」
雪国に耐性のない二人にとって、初めての『ミピ雪原』は厳しかった。
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