上 下
90 / 107
連載

126:拒絶反応と恐れられるヘドロ使い

しおりを挟む
 前にジェロームは、フィーユから逃げてきた精霊に話を聞いたと言っていた。
 その精霊は、「フィーユの精霊たちが何らかの薬に引きよせられるように集まって、そこで捕まった」と話している。
 しかし、それは薬ではなく世界樹の花の蜜だった……と。

「おそらく、捕獲された精霊は、もう帰っては来ないだろう」

 ジェロームが悲しげな様子で呟いた。
 落ち着いたところで、彼はエミーリアに会いたいと言い出す。
 
「危険じゃないかな。アメリーちゃんやカマル君に攻撃してきたんだよ」
「ニキータ、そのときには、私が責任を持って止めよう。フィーユから逃げてきた精霊、それが彼女なんだ。何か新しいことがわかるかもしれない」

 言われて、私は渋々彼女を取り出すことにした。
 
「何かあったら、すぐにヘドロに収納できるように準備して……」

 エミーリアを取り出そうとする私を見て、シント魔法学校の生徒たちがヒソヒソと囁いている。
 
「ヘドロに収納って、すごいよな」
「どういう仕組みなのでしょう」
「空間魔法の収納なら、聞いたことがあるけど……ヘドロはね~」

 私は警戒しつつ、ヘドロごとエミーリアを呼び出した。
 地面からゴポゴポとせり上がるヘドロの中から、「ペッ」とエミーリアが吐き出される。
 今までヘドロの被害に遭った人たちと同様、彼女は憔悴しきった表情を浮かべていた。

「うう……やっと出られた」

 ゆっくり起き上がったエミーリアは、近くに立つ私を見て「ヒッ」と息を呑んだ。
 顔色がどんどん悪くなっていき、ガタガタと震えている。体調不良かな?

「ヘドロの化け物……!」

 あれ、この子、私を指さしているような? 化け物って……

「アメリーは化け物なんかじゃないよ。今度、失礼なことを口に出したら僕が異空間に沈めてやる」

 まっ先にカマルが反応し、エミーリアを威嚇した。
 いつの間に、そんな高度な魔法を使えるようになったのだろう。カマルの成長が早すぎる。
 そして、今日のカマルはいつもみたいに穏やかじゃない。
 険悪な状況に割って入ったのはジェロームだった。

「エミーリア、落ち着きなさい」

 仲間の精霊の姿を発見したエミーリアは、いそいそと移動してジェロームの後ろに隠れる。私、ものすごく怖がられている……?

「ヘドロ使いのお嬢さん、今回はやむを得ない事情があったが、今後精霊を取り込むことはやめなさい。あなたにとって危険だ」
「どういうこと?」
「お嬢さんの中には、すでにたくさんの精霊の結晶が取り込まれている。これ以上精霊を取り込むと、体の許容量を超えてしまい、人間ではなくなってしまうよ……すでに、人間と言っていいのかわからない存在になっているがね。これ以上、悪化させる必要はあるまいよ」
「……うん、わかったよ」

 精霊を取り込むのは危険。それには、納得できる。
 過去にフィーユで父に実験されたとき、体が苦しくて仕方がなかった。
 人間の体は、精霊の体とは相容れないものなのだろう。
 それを無理矢理同化させれば、きっと歪みが生まれるはず。

 あのとき、私は無意識に魔力を封じ込めることで、なんとか生きていられた。
 ついでに記憶までなくなってしまっていたけれど……

「なるべく、やめておくね」

 私は素直に頷いた。あんな思いをするのはもう嫌だ。

「普通の人間なら拒絶反応でどうにかなってしまうところだが……なぜか、お嬢さんたちは、その状態でピンピンしているから不思議だな」
「拒絶反応?」
「エミーリアが君たちに危害を加えたのは聞いた」
「うん。急に体調が悪くなったんだけど」
「それが拒絶反応だ。精霊は仲間と共鳴することで、様々な効果を引き起こすことができる。条件さえ揃えば、精霊を殺した人間を呪うことだって可能だ」
 
 そういえば、エミーリアも呪いについて話していたっけ……
 とはいえ、私やカマルが精霊を殺してしまったわけではないので、呪いにはかからない。
 その点は心配ないと言える。

 世界樹の花の香りが残っているからか、エミーリアは鼻をひくつかせたあとで盛大に顔をしかめた。

「この匂い……あのときと同じ。ここの精霊たちにも注意しろって伝えたのに……」

 彼女は、これが何なのかが、すぐにわかったのだろう。

「昔と同じ……嫌な香り。気分が変になりそう。この匂いを嗅いでおかしくなった精霊は、気が大きくなって、自分から人間の前に姿を現してしまうのよ」
「エメランディアの中で、精霊はここにしかいない。また同じ奴が来るかもしれないな」

 精霊はよほどのことがない限り、引っ越ししないという。
 今回の事件は、「よほどのこと」に入ると思うが、まだ辺境の森に残っている精霊もいるみたいだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

結婚六年目、愛されていません

杉本凪咲
恋愛
結婚して六年。 夢に見た幸せな暮らしはそこにはなかった。 夫は私を愛さないと宣言して、別の女性に想いがあることを告げた。

我儘姫の二度目の人生は愛されちゅう?!

くま
恋愛
民衆達の前で私は処刑台に立たされた。 『この税金泥棒が!』 『悪魔な女王め!』 『優秀だったアルファス皇子を殺したのもその女だ!!』 反乱軍に攻められたのは‥‥こうなったのは、いつからだろうか。 アルカイド帝国、次期国王になるのではないかと期待されていた腹違いの優しい兄が亡くなり、勉強も政治もろくに分からない私を支えてくれたのは、憧れだったユウリ•ディアデム様。 物腰が柔らかく、私をいつも支えてくれた彼と婚約し、女王となった私を‥‥ そう、私を殺したのは‥ 愛する婚約者だった。 『‥‥な、‥‥なんっ‥‥』 『ようやく、この国は私達のものになったよ』 私達?‥‥何を言ってるの? 彼の隣りにいたのは正教会で皆から、聖女と呼ばれ慕われている‥‥マリアだった。 マリアは私の方を見て涙を流がす。 『あぁ、可哀想に。最後に‥女王様に神のご加護をお祈り致します』 いや、何故貴女がいるの?何故‥‥ 『革命だあ!これからは聖女マリア様とユウリ様がこの国の王と王妃だ!』 そう歓声をあげる民衆達に私は唖然する。 『ふふ、可哀想な我儘お姫様のまま。あの時私を婚約者に選ばなかった皇子様がいけないのよ。私と婚約すれば教会は後押しをし、確実に王位継承権を得られたのに、むかつくわ』 そう小さな声で話す彼女は笑う。兄を殺したのも、邪魔な奴を排除したのも、私を孤立させたのも、全てこの為だと嘲笑い‥‥ 私は、処刑された。 「な、七代先まで呪ってやるぅー!!!え?あ?れ?首、あるわ‥‥」 目を覚ますと‥え!!?15歳!!?10年前に戻っている!? しかも‥‥まだ、お兄様が生きている‥‥。 勉強も何もかも嫌で他人任せだった。 政治とか面倒だと、民の声を聞いてもいなかった。 お兄様が亡くなるのは、確か2年後‥‥だったかしら? のどかな雰囲気だけれども、王宮内は既に腐敗しているのが今ならわかる。お兄様を無事王へと導く為に! 怠け者は少しお休みして、アイツらを見返してやる!!!そしてぎたんぎたんにしてやるわ!! ‥‥あー、でもどうすればよいのかしら? 面倒くさがりで勉強嫌い、民衆の事などまったく考えてない我儘お姫様が少しずつ、成長していくお話。 九月中には終わる予定のお話です。気の向くまま書いてるだけですので細かい設定など気になるかたはすいません!

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

ヒロインが迫ってくるのですが俺は悪役令嬢が好きなので迷惑です!

さらさ
恋愛
俺は妹が大好きだった小説の世界に転生したようだ。しかも、主人公の相手の王子とか・・・俺はそんな位置いらねー! 何故なら、俺は婚約破棄される悪役令嬢の子が本命だから! あ、でも、俺が婚約破棄するんじゃん! 俺は絶対にしないよ! だから、小説の中での主人公ちゃん、ごめんなさい。俺はあなたを好きになれません。 っていう王子様が主人公の甘々勘違い恋愛モノです。

シンデレラ。~あなたは、どの道を選びますか?~

月白ヤトヒコ
児童書・童話
シンデレラをゲームブック風にしてみました。 選択肢に拠って、ノーマルエンド、ハッピーエンド、バッドエンドに別れます。 また、選択肢と場面、エンディングに拠ってシンデレラの性格も変わります。 短い話なので、さほど複雑な選択肢ではないと思います。 読んでやってもいいと思った方はどうぞ~。

監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されたやり直し令嬢は立派な魔女を目指します!

古森きり
ファンタジー
幼くして隣国に嫁いだ侯爵令嬢、ディーヴィア・ルージェー。 24時間片時も一人きりにならない隣国の王家文化に疲れ果て、その挙句に「王家の財産を私情で使い果たした」と濡れ衣を賭けられ処刑されてしまった。 しかし処刑の直後、ディーヴィアにやり直す機会を与えるという魔女の声。 目を開けると隣国に嫁ぐ五年前――7歳の頃の姿に若返っていた。 あんな生活二度と嫌! 私は立派な魔女になります! カクヨム、小説家になろう、アルファポリス、ベリカフェに掲載しています。

あなたの愛はいりません

oro
恋愛
「私がそなたを愛することは無いだろう。」 初夜当日。 陛下にそう告げられた王妃、セリーヌには他に想い人がいた。

わたしはただの道具だったということですね。

ふまさ
恋愛
「──ごめん。ぼくと、別れてほしいんだ」  オーブリーは、頭を下げながらそう告げた。  街で一、二を争うほど大きな商会、ビアンコ商会の跡継ぎであるオーブリーの元に嫁いで二年。貴族令嬢だったナタリアにとって、いわゆる平民の暮らしに、最初は戸惑うこともあったが、それでも優しいオーブリーたちに支えられ、この生活が当たり前になろうとしていたときのことだった。  いわく、その理由は。  初恋のリリアンに再会し、元夫に背負わさせた借金を肩代わりすると申し出たら、告白された。ずっと好きだった彼女と付き合いたいから、離縁したいというものだった。  他の男にとられる前に早く別れてくれ。  急かすオーブリーが、ナタリアに告白したのもプロポーズしたのも自分だが、それは父の命令で、家のためだったと明かす。    とどめのように、オーブリーは小さな巾着袋をテーブルに置いた。 「少しだけど、お金が入ってる。ぼくは不倫したわけじゃないから、本来は慰謝料なんて払う必要はないけど……身勝手だという自覚はあるから」 「…………」  手のひらにすっぽりと収まりそうな、小さな巾着袋。リリアンの借金額からすると、天と地ほどの差があるのは明らか。 「…………はっ」  情けなくて、悔しくて。  ナタリアは、涙が出そうになった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。