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126:拒絶反応と恐れられるヘドロ使い
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前にジェロームは、フィーユから逃げてきた精霊に話を聞いたと言っていた。
その精霊は、「フィーユの精霊たちが何らかの薬に引きよせられるように集まって、そこで捕まった」と話している。
しかし、それは薬ではなく世界樹の花の蜜だった……と。
「おそらく、捕獲された精霊は、もう帰っては来ないだろう」
ジェロームが悲しげな様子で呟いた。
落ち着いたところで、彼はエミーリアに会いたいと言い出す。
「危険じゃないかな。アメリーちゃんやカマル君に攻撃してきたんだよ」
「ニキータ、そのときには、私が責任を持って止めよう。フィーユから逃げてきた精霊、それが彼女なんだ。何か新しいことがわかるかもしれない」
言われて、私は渋々彼女を取り出すことにした。
「何かあったら、すぐにヘドロに収納できるように準備して……」
エミーリアを取り出そうとする私を見て、シント魔法学校の生徒たちがヒソヒソと囁いている。
「ヘドロに収納って、すごいよな」
「どういう仕組みなのでしょう」
「空間魔法の収納なら、聞いたことがあるけど……ヘドロはね~」
私は警戒しつつ、ヘドロごとエミーリアを呼び出した。
地面からゴポゴポとせり上がるヘドロの中から、「ペッ」とエミーリアが吐き出される。
今までヘドロの被害に遭った人たちと同様、彼女は憔悴しきった表情を浮かべていた。
「うう……やっと出られた」
ゆっくり起き上がったエミーリアは、近くに立つ私を見て「ヒッ」と息を呑んだ。
顔色がどんどん悪くなっていき、ガタガタと震えている。体調不良かな?
「ヘドロの化け物……!」
あれ、この子、私を指さしているような? 化け物って……
「アメリーは化け物なんかじゃないよ。今度、失礼なことを口に出したら僕が異空間に沈めてやる」
まっ先にカマルが反応し、エミーリアを威嚇した。
いつの間に、そんな高度な魔法を使えるようになったのだろう。カマルの成長が早すぎる。
そして、今日のカマルはいつもみたいに穏やかじゃない。
険悪な状況に割って入ったのはジェロームだった。
「エミーリア、落ち着きなさい」
仲間の精霊の姿を発見したエミーリアは、いそいそと移動してジェロームの後ろに隠れる。私、ものすごく怖がられている……?
「ヘドロ使いのお嬢さん、今回はやむを得ない事情があったが、今後精霊を取り込むことはやめなさい。あなたにとって危険だ」
「どういうこと?」
「お嬢さんの中には、すでにたくさんの精霊の結晶が取り込まれている。これ以上精霊を取り込むと、体の許容量を超えてしまい、人間ではなくなってしまうよ……すでに、人間と言っていいのかわからない存在になっているがね。これ以上、悪化させる必要はあるまいよ」
「……うん、わかったよ」
精霊を取り込むのは危険。それには、納得できる。
過去にフィーユで父に実験されたとき、体が苦しくて仕方がなかった。
人間の体は、精霊の体とは相容れないものなのだろう。
それを無理矢理同化させれば、きっと歪みが生まれるはず。
あのとき、私は無意識に魔力を封じ込めることで、なんとか生きていられた。
ついでに記憶までなくなってしまっていたけれど……
「なるべく、やめておくね」
私は素直に頷いた。あんな思いをするのはもう嫌だ。
「普通の人間なら拒絶反応でどうにかなってしまうところだが……なぜか、お嬢さんたちは、その状態でピンピンしているから不思議だな」
「拒絶反応?」
「エミーリアが君たちに危害を加えたのは聞いた」
「うん。急に体調が悪くなったんだけど」
「それが拒絶反応だ。精霊は仲間と共鳴することで、様々な効果を引き起こすことができる。条件さえ揃えば、精霊を殺した人間を呪うことだって可能だ」
そういえば、エミーリアも呪いについて話していたっけ……
とはいえ、私やカマルが精霊を殺してしまったわけではないので、呪いにはかからない。
その点は心配ないと言える。
世界樹の花の香りが残っているからか、エミーリアは鼻をひくつかせたあとで盛大に顔をしかめた。
「この匂い……あのときと同じ。ここの精霊たちにも注意しろって伝えたのに……」
彼女は、これが何なのかが、すぐにわかったのだろう。
「昔と同じ……嫌な香り。気分が変になりそう。この匂いを嗅いでおかしくなった精霊は、気が大きくなって、自分から人間の前に姿を現してしまうのよ」
「エメランディアの中で、精霊はここにしかいない。また同じ奴が来るかもしれないな」
精霊はよほどのことがない限り、引っ越ししないという。
今回の事件は、「よほどのこと」に入ると思うが、まだ辺境の森に残っている精霊もいるみたいだった。
その精霊は、「フィーユの精霊たちが何らかの薬に引きよせられるように集まって、そこで捕まった」と話している。
しかし、それは薬ではなく世界樹の花の蜜だった……と。
「おそらく、捕獲された精霊は、もう帰っては来ないだろう」
ジェロームが悲しげな様子で呟いた。
落ち着いたところで、彼はエミーリアに会いたいと言い出す。
「危険じゃないかな。アメリーちゃんやカマル君に攻撃してきたんだよ」
「ニキータ、そのときには、私が責任を持って止めよう。フィーユから逃げてきた精霊、それが彼女なんだ。何か新しいことがわかるかもしれない」
言われて、私は渋々彼女を取り出すことにした。
「何かあったら、すぐにヘドロに収納できるように準備して……」
エミーリアを取り出そうとする私を見て、シント魔法学校の生徒たちがヒソヒソと囁いている。
「ヘドロに収納って、すごいよな」
「どういう仕組みなのでしょう」
「空間魔法の収納なら、聞いたことがあるけど……ヘドロはね~」
私は警戒しつつ、ヘドロごとエミーリアを呼び出した。
地面からゴポゴポとせり上がるヘドロの中から、「ペッ」とエミーリアが吐き出される。
今までヘドロの被害に遭った人たちと同様、彼女は憔悴しきった表情を浮かべていた。
「うう……やっと出られた」
ゆっくり起き上がったエミーリアは、近くに立つ私を見て「ヒッ」と息を呑んだ。
顔色がどんどん悪くなっていき、ガタガタと震えている。体調不良かな?
「ヘドロの化け物……!」
あれ、この子、私を指さしているような? 化け物って……
「アメリーは化け物なんかじゃないよ。今度、失礼なことを口に出したら僕が異空間に沈めてやる」
まっ先にカマルが反応し、エミーリアを威嚇した。
いつの間に、そんな高度な魔法を使えるようになったのだろう。カマルの成長が早すぎる。
そして、今日のカマルはいつもみたいに穏やかじゃない。
険悪な状況に割って入ったのはジェロームだった。
「エミーリア、落ち着きなさい」
仲間の精霊の姿を発見したエミーリアは、いそいそと移動してジェロームの後ろに隠れる。私、ものすごく怖がられている……?
「ヘドロ使いのお嬢さん、今回はやむを得ない事情があったが、今後精霊を取り込むことはやめなさい。あなたにとって危険だ」
「どういうこと?」
「お嬢さんの中には、すでにたくさんの精霊の結晶が取り込まれている。これ以上精霊を取り込むと、体の許容量を超えてしまい、人間ではなくなってしまうよ……すでに、人間と言っていいのかわからない存在になっているがね。これ以上、悪化させる必要はあるまいよ」
「……うん、わかったよ」
精霊を取り込むのは危険。それには、納得できる。
過去にフィーユで父に実験されたとき、体が苦しくて仕方がなかった。
人間の体は、精霊の体とは相容れないものなのだろう。
それを無理矢理同化させれば、きっと歪みが生まれるはず。
あのとき、私は無意識に魔力を封じ込めることで、なんとか生きていられた。
ついでに記憶までなくなってしまっていたけれど……
「なるべく、やめておくね」
私は素直に頷いた。あんな思いをするのはもう嫌だ。
「普通の人間なら拒絶反応でどうにかなってしまうところだが……なぜか、お嬢さんたちは、その状態でピンピンしているから不思議だな」
「拒絶反応?」
「エミーリアが君たちに危害を加えたのは聞いた」
「うん。急に体調が悪くなったんだけど」
「それが拒絶反応だ。精霊は仲間と共鳴することで、様々な効果を引き起こすことができる。条件さえ揃えば、精霊を殺した人間を呪うことだって可能だ」
そういえば、エミーリアも呪いについて話していたっけ……
とはいえ、私やカマルが精霊を殺してしまったわけではないので、呪いにはかからない。
その点は心配ないと言える。
世界樹の花の香りが残っているからか、エミーリアは鼻をひくつかせたあとで盛大に顔をしかめた。
「この匂い……あのときと同じ。ここの精霊たちにも注意しろって伝えたのに……」
彼女は、これが何なのかが、すぐにわかったのだろう。
「昔と同じ……嫌な香り。気分が変になりそう。この匂いを嗅いでおかしくなった精霊は、気が大きくなって、自分から人間の前に姿を現してしまうのよ」
「エメランディアの中で、精霊はここにしかいない。また同じ奴が来るかもしれないな」
精霊はよほどのことがない限り、引っ越ししないという。
今回の事件は、「よほどのこと」に入ると思うが、まだ辺境の森に残っている精霊もいるみたいだった。
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