継母と妹に家を乗っ取られたので、魔法都市で新しい人生始めます!

桜あげは

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125:世界樹の蜜と魔法学校の教科書について

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 森の中、王立研究所の職員がいたという辺りに到着し、皆で辺りを観察する。
 辺境の自然は豊かで、そこにしか咲かない花、不思議な実を付ける木など、様々な植物を見つけることができる。
 人間に害をなさない、ネズミやリスのような小さな魔物もウロウロしていた。

「これといって変わった様子はないな」
「いつも通りの森ですよね」

 普段から森を訪れる機会の多いカディンとシュクレの言葉は参考になる。
 精霊のジェロームも今のところ、特に反応は見せなかった。
 けれど、少し進んだところで、彼が不意に動きを止める。

「匂います」

 全員で足を止めて様子を見ていると、ジェロームは地面に降り立って鼻をひくつかせた。
 私も辺りの匂いを嗅いでみるけれど、何も感じない。森の木や土の湿った匂いがするだけだ。
 ニキータも首を傾げながらジェロームに問いかけた。

「何も匂わないよ~?」
「ふむ、人間や魔物には、あまりわからないのだろう。これは、我々精霊だけが嗅ぎ分けられる匂いだ」
「どんな匂いなの?」
「……猫にとってのマタタビのようなものだろうか。精霊を引きつけ、魅了してやまない、希少な魔法植物――世界樹の蜜の香りだ。私も過去に一度しか嗅いだことはないが、精霊が惹かれずにはいられない香りなんだ」
「世界樹って、レアなんだよね? 魔法植物学の授業で習ったけど」
「今は昔ほど珍しくない」

 ジェロームの説明を聞いた私は、Bクラスで受けたジュリアスの授業を思い出した。

「たしか、少し前に魔法大国で世界樹の植樹方法が確立されて、いろいろな地域に挿し木されているらしいよ」

 カマルも私の説明に頷いている。
 しかし、シント魔法学校の三人は「ええっ!?」と声を上げた。

「そんなの、習っていないぞ!」
「全世界に二、三本と聞いたのですが?」
「教科書にもそう書いてあったよ~」

 そういえば……
 ジュリアスは「エメランディアの教科書は若干遅れ気味」とも言っていた。
 彼の授業以外では、最新情報が教えられていない可能性がある。
 わちゃわちゃ騒いでいると、コホンと咳払いした精霊のジェロームが説明を続けた。

「世界樹の蜜は精霊にとって非常に魅力的なもので、その付近には多くの精霊が棲んでいる。世界樹の花の蜜は少量なら害はなく、好んで口にする精霊も多い」
「摂り過ぎちゃ駄目ってこと?」
「ああ、そうだ。大量に体に入れると酩酊状態になってしまうし、中毒を起こす場合もある。蜜の成分に、そういう物質が含まれているのだろうな。そして、この場所からは大量の蜜の香りがするんだ……近くに世界樹など生えていないというのに」

 全員が顔を見合わせる。それは……なんか変だ。

「意図的に世界樹の花の蜜が撒かれたということ?」
「おそらく」

 目的は精霊をおびき寄せることなのだろう。
 もしそうなら、本当に研究所の職員が精霊を連れ去った可能性が高い。

「カマル……」
「ああ、アメリー。その職員が限りなく怪しいね」

 私たちはまた、真相に一歩近づいたのだった。
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