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119:物騒なのは誰だ!?

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「あの精霊だよ、私が会っている子なの」
 
 辺境には精霊が住んでいるけれど、人間と交流するのは希だと言われている。
 ニキータは精霊に好かれているのだろう。
 
 先頭を進むニキータに、私はフラフラしながらついて行く。
 ここの森、木の根が網目状に張り巡らされていたり、トゲのある植物が道を塞いでいたり、なにかと障害物が多いのだ。
 皆、移動が早い……距離が開いていくよ……
 焦っていると、隣を歩いていたカマルが一言。

「アメリー、ちょっとごめんね」
「カマル? どうしたの……ひゃっ!?」

 なんと、カマルは私を抱き上げてしまった。
 そのまま、障害物を避けて花畑へ進んでいく。
 
「カマル、重いから、下ろして!? 先に行っていいから……」
「大丈夫、大丈夫」
「でも、その……」

 カマルは王子様だし、私と同じで、山歩きの苦手なモヤシ系だと思っていたのだけれど。
 意外なことに、割と安定して歩いている。
 こうして、私は無事に花畑へたどり着いた。
 
「カマル、ありがとう」
「こちらこそ、役得だったよ」

 私を地面に下ろした彼は、意味深な微笑みを浮かべている。
 
「え……? 何が……?」

 よくわからないお礼を言われてしまった。
 ニキータたちは、花畑の中央で精霊と接触している。
 近づいてみると、エミーリアほどの大きさの、青白く光る精霊だった。
 年齢は彼女よりも年上で、人間で言うと三十代前後に見える男性の姿だ。

「ジェローム、あなたに尋ねたいことがあるの」

 ニキータの問いかけにジェロームは片眉を上げる。
 そして、私とカマルへと視線を移した。

「ずいぶん、物騒な人間を連れてきたな」
「へ? 物騒? カディンとシュクレのこと?」
「いや違う、後ろの二人だ……」

 全員が私たちを振り返る。

「アメリーとカマルか? この中では一番、好戦的じゃない二人だけどな」
「……ですよね。あと、ニキータが、俺たちのことを普段どう思っているのかが、大変よくわかりました」
 
 私とカマルは、緊張しながらジェロームに近づいた。

「そこの二人から、精霊の気配がする。何体もの精霊の気配、彼らの血の気配が……」
「ええっ、まさかぁ~」

 ニキータが間延びした声を上げた。

「特に、そちらの少女は、禍々しいほどの精霊の血を帯びている」
「アメリーちゃんが? 五人の中では一番安全なメンバーだけど?」
「ニキータ、なぜ、この者たちを連れてきた?」
「あのね、二人が精霊を探していたからだよ」
 
 ジェロームは、私たちに鋭い視線を向ける。
 エイミーナと同じで、彼も私やカマルのことをよく思っていない様子だった。
 体から精霊の血の気配がするというのは、以前エイミーナが口にしていた「食った」という内容と同じだろう。
 私を庇うように、カマルが前へ出た。
 
「聞きたい内容というのは、僕たちの体に起こっていることについてなんだ。僕らは精霊に害意を抱いてはいない。なぜか、嫌われているみたいだけれど……」
「これは変わったことを言う。お前の体に宿っている精霊の血の気配はなんだ?」

 ジェロームはエイミーナほど攻撃的ではない。まだ、会話が成立しそうだ。

「それがわからないから聞いているんだ。僕やアメリーは、精霊を傷つけたことなんてない。なのに、団長についている精霊にアメリーは殺されかけた」
「……二人の体には、精霊の血が混ざっている。何体の精霊の血を取り込んでいるのか」
 
 年上の精霊から脅えた目で見られてしまった。
 酷いと言われても、精霊を取り込んだ記憶なんてない。エミーリアに出会ってから、精霊について知ったくらいだし。
 
「しかし、精霊を取り込まないことには、そのような現象は起こらない」
「……もしかすると」

 私は、父の実験について思い返した。
 彼は精霊を使って、何かを作り出したのかもしれない。
 そして、それが魔力過多の原因になっているのかも。
 カマルも同じことに思い至ったようで、シント魔法学校の生徒たちに告げる。

「悪いけど、精霊と少し込み入った話がしたいんだ。ここまで来てもらって申し訳ないけれど、外してもらっていいかな?」

 しかし、シント魔法学校の生徒たちは引かなかった。
 
「僕たちも知りたいのだが?」
「そうですよ、二人の強さの秘訣が知りたいです」
「私も。精霊のことが心配だし……」

 三人は頑として動かない姿勢だ。カマルは困った様子で言った。

「内容によっては、君たちを巻き込んでしまう恐れがあるんだ」
「構わない」
「それに、この話を聞いて、情報を悪用されても困る。君たちが、そんなことをするとは思わないけど……念のため」
「騎士団の連中にも言えないのか?」
「うん。詳細を知っているのは、僕とアメリーとサリー、僕やアメリーの身内、メルヴィーン商会の一部だけ。僕やアメリーと同じような、望まない魔力過多を増やさないためにも、あまり広めたくないんだ。最悪、団長には事実を告げるつもりでいたけれど」

 カディンやシュクレは納得がいかないようだ。

「だが、大きな力を持つのは良いことではないのか?」
「魔力暴走の恐怖、魔力を得たときの苦しみ、周囲との関係……いいことばかりじゃない。今も、立ち回りに苦労している。そもそも、僕らは好きで魔力過多になったわけではないんだ」
「魔力過多には、先天性と後天性があると言うが」
「僕とアメリー、そしてサリーは後天性だよ。その原因に、精霊が関係しているかもしれない。だから、ここへ話を聞きに来たんだ」

 カマルに同意するように、私も頷き口を開いた。

「今の話は、内緒にしておいて欲しいんだ」
「アメリーが言うのなら、僕らは黙っているつもりだ」
「ありがとう。それと、今から耳にする内容も……」
「口外しないと約束しよう」
 
 運良く話のできそうな精霊に会えた今、このチャンスを逃すわけにはいかない。
 私はジェロームと向き合う。

「精霊と私の魔力との関わりについて、教えてください」

 ジェロームは私とカマルを見て、害がないと判断したのか、重々しく口を開いた。
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